赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
29 / 303
4、宰相の息子

28、闇夜のヘビ

しおりを挟む
深夜暗闇の中、塔の裏手にある井戸の前でメイスがブツブツとつぶやく。
時々回ってくる兵は、先ほど見回りに来たのでしばらくは来ることもないだろう。
漆黒の闇がポッカリと口を開く井戸を覗き、メイスはほくそ笑みながら呪を唱えていた。

「暗闇に生きる王の血族よ。
その血は闇に染まり、その吐息は絶望を語り、その指は孤独をつま弾く。
闇を生きる者に光は無し。その孤独は永遠なり。」

レスラカーンの部屋を、冷たい風が吹き抜ける。

肌寒い中うっすらと汗ばみ、彼は眉間にしわ寄せ、うなされていた。
普段城より宰相邸や離宮にいる方が長い彼は、メイスとは面識も薄い。
眠る彼の夢に、遠く絶望の言葉がこだまする。

その姿が、メイスの覗く井戸の底にゆらゆらと映り、メイスが手を差し伸べる。
すると袖の中から、細いヘビが絡み付きながら現れた。


『たった1人の息子に何も求めぬ父を呪え、お前を無き者とする王を呪え、お前から何もかも取り上げる王子を呪え。
目が見えぬは大罪ではあらず、お前を知るは闇の住人のみ。
殺せ、恨め、呪え、何もかもを拒め、すべての存在を呪うがいい。

闇の住人レスラカーンよ。
我が下僕をその身に宿せ。
呪いを受け止め、大いなる闇の使いとなれ』


ヘビがスルリと井戸の中へと身を進める。
しかしその時、レスラカーンの寝室では窓からアイが忍び込み、うなされる彼に気が付いていた。

「うなされてるニャ」

ベッドに立ちかかり上を仰ぐと、何か言いようのない圧迫感が押し寄せる。
怪訝な顔で辺りを見回し、ギョッとして身体中の毛が逆立った。
レスラカーンの眠るベッドの上の闇の中から、ヌッと少年の手が現れ、良く見ると、それを伝って一匹の細く黒いヘビがレスラカーンへと向かっていく。

「フーッ!なんだにゃ!」

しかしアイが驚いて飛び退き遠巻きに見ている間も、ヘビは鎌首をもたげてレスラカーンの身体を狙っている。
人を呼ぶ間がない。
思わずアイは身を躍らせた。

「ウニャ!」

助走を付けベッドを足掛けに飛び上がり、ヘビを猫パンチで床に撃ち落とした。

『いたっ!』

爪が当たったのか、闇から出た手はサッと消える。
アイは床に落ちたヘビを押さえつけ、もがく相手の頭に噛み付こうとしてウッと引いた。

キャーやだやだ、こんなのに噛み付きたくない!
誰か来てーーーっ!!

しかしヘビは、何とか逃げようとアイに巻き付き締め上げる。
2匹がバタバタ暴れる物音に、隣室のライアが慌てて駆けつけた。

「ヘビが!」

「コイツ、彼を狙ってたニャ!」

「レスラカーン様を?!この!」

ライアが懐剣で頭を落としてヘビを殺す。
するとヘビは煙となって、風にかき消された。

「き、消えた?!何と面妖な!」

「ライア!レスラカーンは無事にゃ?!」

「ああ、レスラカーン様!」

アイに言われ、ライアが思わず彼を揺り動かす。

「うん……あ、あ、ライア、ひどい夢を……」

ようやく気が付き目を開けるレスラカーンに、ハッとライアがアイを見た。

「レスラカーン様、ネコが……喋りました。」


「し、しまったニャー!」


慌てて口を押さえても遅い、泡くってアイはそこを逃げ出し、キアンの部屋に逃げ込んだ。




「つっ、痛。リューズ様の使いが消えてしまった!くそ、あの猫!」

胸を左手で押さえ、メイスが右手のひっかき傷を苦々しい顔で見て唇をかむ。

「おのれ、リューズ様の呪を邪魔したな。どうしてくれよう。」

ギリリと井戸のフチを掴み、人の気配に慌てて水を汲む。

「誰だ?……ああ、メイスか。こんな夜更けに水くみとは危ないであろう、またいかがした?」

魔導師のバルバスが、塔の入り口から顔を出す。
相手が彼と知って、メイスはホッと胸をなで下ろした。

「あ、申し訳ありませんバルバス様。冷たい水が飲みたくて。
バルバス様は?」

「ああ、なんだか精霊達が騒がしくてね。私が代表で見に来たわけさ。」

「精霊ですか?私にはトンとわかりかねますが……」

フフッと笑い、バルバスが彼の頭をポンと撫でた。

「そりゃね、メイスも魔導を勉強して、精霊の道を見つけたら見えるようになるさ。」

「じゃあ……リリスにも見えるのでしょうか?」

何故か、ふとリリスの顔が浮かんだ。

「そりゃあ、彼は特別……なんだろうな。」

「特別?」

「ああ、……だから恐ろしいのさ。」

「よく、わかりません。ですが先日、私はお友達になったのです。
無理矢理部屋まで押しかけてこられて、勝手に飲み食いまでされて本当に困りました。」

「部屋まで?なんと言う……やはり……」

バルバスがその言葉に、サッと顔色を変えた。
視線を走らせ、何か考えている。そしてメイスの肩を掴み、真剣に告げた。

「それは友達と言わないよ。
メイス、あの子は色々うわさがあって、今何とか城の人間に取り入ろうと画策しているんだ。
巻き込まれないようにしなさい。」

「はい、承知いたしました。でも、もしあのうわさが本当ならリリスが王様になるのでしょうか?」

「馬鹿な!その言葉、二度と口にしてはいけない。
このまま王家を侮辱するようなら、あの子はいずれ何らかの処分を受けるだろう。
さあ、お前が心配することはない。もう遅い、お休み。」

うなずき、部屋に戻りながらメイスが舌打つ。

「なら、さっさと殺せばいいのに……」

汚い、けがれた不浄の赤い髪。なのに、主リューズは彼に一目置いている。
決して侮るなと。
あの弱々しい少年、なぶり殺してやりたい。
髪と同じように、身体さえも汚され血に染めて。
人に嫌われ、そしられ、踏みつけられて、絶望の中で死んでいけばいい。

「そしたら僕が、君の迷った魂を下僕として使ってあげる。」

ククククク……

メイスは手に流れる血を、ぺろりと舐め笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

処理中です...