赤い髪のリリス 戦いの風

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9、決意と暴露と

75、不完全な剣

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その夜、ザレルはテーブルに折れた剣を置き、ほんの少しぶどう酒の入ったグラスを傾けていた。
その剣は、呪いをはね飛ばしメイスを切った、あの剣。
ようやく騒ぎが落ち着いた頃、魔導師の一人が尋ねた。

「その剣は、たいそう名のある剣でございましょう、巫子殿のお手にかかった破魔の剣とお見受けしましたが?」

ザレルは刃の半分を失った剣を、唇をかみしめて見つめ、しばらく答えることができなかった。

剣は名のある物ではない。
これは剣の鍛錬に使った、なまくら剣だ。
だが、狂獣とうたわれた彼の持つ剣で人を切ったことのない、唯一のものだった。
騎士長となって久しく忘れていたが、これを見つけたリリスはなぜか「良い物を見つけました」と言って、ある術の練習に使いたいというのでゆずったものだった。

なぜ人を切った事が無いとわかったのか、本人もわからないと笑っていた。
何をやってるのか、それから近くの山へ朝から夕方までこもる。
聞いても秘密ですと語らず、それを一週間も通った。
そして、巫子に教わった術でとうとう「破魔の剣」を作ったと自分に託したのだ。

「凄いでしょう?これは恐らく、破魔の剣にちょっぴり近づけたかと。
地の精霊が何度もうなずくので、大丈夫、この1週間の成果です。
破魔の剣ですので、呪いとかを払うもので、人を切る剣ではありません。
私が作った不完全な物でございますから、きっと人を切っては折れてしまうかも知れませんよ?
何かあった時、試してみて下さい。」

凄く得意そうに笑って渡された。のに、怒りに忘れて切ってしまった。
苦労して作ってくれた物を。
自分はまだ、この年にして未熟だ。
あの子が丹精込めてくれた剣、よからぬ事が起きなければよいが……
これしきのことで、なんて嫌な気持ちになるんだ。



ドアが開き、そっとセフィーリアが部屋に入ってきた。
落ち込むザレルに、何となく苦笑して隣に座る。

「騎士長殿は気を落としておいでだと、お主の副官殿が言っておったぞ。
どうも、塔が崩れたよりも、折れた剣の方がショックだったのであろうとな。
呆れた騎士長だ。」

大げさに、ため息をついてセフィーリアがザレルをのぞき込む。
そして彼のグラスにぶどう酒を継ぎ足し、ぐいっと飲み干した。

「それは俺が飲んでいるのだ。無礼者。」

「おや,珍しい。酔っておいでか騎士長殿?
わらわに無礼者とは無礼者じゃ。」

ムスッとして人の顔を見ようともしない。
クスクス笑って、セフィーリアが彼の前にグラスを差し出し酒を注ぐ。
しかし元気のない彼の様子に、そっと手に手を重ねた。

「リーリのことを心配か?
あれは大丈夫じゃ、レナントには地の巫子が加勢に来ておる。
ほれ、あの小生意気なイネスという子供よ。
覚えておいでか?」

「ああ……あの白い巫子か。
覚えているとも、何度も来るではないか。
しかし、俺の剣の腕も地に落ちた。」

折れた剣は、持つと軽い。
剣を折るなど初めてではないが、それがどこか自分を責めるようで寂しかった。

「お主らしゅうないのう、リーリが聞いたら
“物は壊れる物でございましょう?”と、キョトンとすることであろうぞ。」

「フフ……そうだな。
リリスであれば、どんな状況になろうと……あいつなら……」

「大丈夫じゃ!何しろわらわの息子じゃからな!」

えっへんと胸を張る彼女に、ザレルが笑う。
二人は大きな不安感を抱えながら、それでもこの場から動くことができない現状に、ただ祈ることしかできなかった。





その朝、レナントの城下では、兵の多さに町が騒然としていた。
なにしろ戦争の噂がはやり、その噂で持ちきりとなって隣国からの行商人が減っているところに、その隣国からの使者が堂々と街道を通って来るというのだ。

「ガルシア様は、大丈夫だろうか。」
「このままここは、戦場になるのではないだろうな。」

一部が不安感を持って隠れるようにその様を見つめる横で、ガルシアを知る人々は確信を持って大きくうなずく。

「大丈夫だ、わしらはあの方が小さい頃から知ってる。
大きな方だ、そりゃあ王様よりすごいさ。
それより、今が踏ん張りどころじゃないかね!こういう時こそレナントの意地を見せようじゃないか!」

不安感の中、大きな声で笑い飛ばし、表の兵列にみんなで手を振る。

「兵隊さん!がんばっておくれよ!」

「おお!」

歩いていた兵が緊張感を持って、雄叫びを上げ拳を上げた。
皆、使者がどのような軍隊を引き連れてくるのかと、戦々恐々としていた。
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