赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
78 / 303
10、隣国からの使者

77、右手のリング

しおりを挟む
「なんでお前は男にばかり留まるんだ!不埒者!」

「だって、物に留まるとあんた物投げるじゃない!」

「あんたとは何だ!俺は巫子だぞ!」

「あたし、かんけーないもーん。」

プイとそっぽを向く。
ギリギリ歯がみしながら、イネスが気がついた。

「お前のその話し方、向こうの人間だな。リリとお友達とか言ったら、送り返してやる。」

「あら、私はリリスのファンよ。そうねえ、愛人1号って感じ?ピルルル!」

笑うように鳴いて飛び立ち、イネスの頭に留まる。
銀髪に近い真っ白な髪に、透けるような地肌。
ヨーコはこんなに綺麗な髪を初めて見た気がする。
リリスの髪は燃えるような赤で、それはそれでビックリしたけど。

「愛人だって?ふざけた奴。鳥で愛人?ククク……あいつの?
で、リリスは何してるんだ?」

頭に乗って怒られるかと思ったら、なんだかクスクス笑ってイネスはそのまま椅子に座る。
怒っていたかと思うと、今度は笑っている。
気性が激しいって、こういう奴のことなのかと、ヨーコも少し拍子抜けして、そのままぺたりと座った。

「なんか楽士がくしってのになるんだって。だから着替えてるのよ。
あんたの所へ行っててって言われて、だから来たの。まあ、気が進まなかったけどね。」

「ふうん、そう言えば兄様が言っていたな。
で、お前の名は何というのだ?」

「ヨーコよ、ヨーコ。チュチュッ、可愛いでしょ。」

「へえ、横か、縦じゃないのか。クスクス……」

先ほどまで、緊張からかひどく不機嫌だったイネスが、鳥を頭に乗せたまま楽しそうに話し始めた。
サファイアが片付けを済ませ、クスッと笑う。
イネスはあまり外へ派遣されたことがないので、ここへ来て少々情緒不安定になっていた。
あれだけ仲のいいリリスと仲違いまで引き起こすとは、想定外のこと。
友達ができるのはいいことだ。
これからたとえ修羅場があるとしても、未熟な彼は心を平安に保つことが肝要。
鳥であれば身分の差もない。

「セレス様の所へ参りましょうか?」

「うん、そうだな。俺もこういう席は初めてだし、兄様に付いていった方が心強い。」

イネスが立ち上がると、ヨーコは彼の肩に留まる。
それを特に責めることもなく、イネスはそのまま兄巫子の所へと急いだ。




巫子セレスが、崩れた塔から城下を見下ろす。
塔はまだ何も改修が進んでいない。
ガルシアは、この被害を隣国の使者に見せつけようというのだろう。
町の向こうの森からは、恐らく隣国の一行が歩んできている。

「隣国からは、魔導師が来ていないそうですが。」

従者のルビーが、横から声をかけた。
一陣の風が吹き、セレスの金の髪をなびかせる。
緑の瞳を輝かせ、セレスがクスクスと笑った。

「さあな、見えているのに気がつかないだけかもしれぬよ。
ククク……私は巫子でも甘くないぞ。
さあ、私を楽しませよ、面白うなければ来た甲斐がない。」

ぺろりと薄い桜色の唇を舐める。
その顔は、美しくも影を秘めて、巫子では無い何かを感じさせる。
ルビーが眉をひそめ、彼の足下にひざまずいた。

「そのようなことを。
またヴァシュラム様のお怒りに触れます。
我らは戦いを止めに参ったのでございます。
どうぞお忘れ無く。」

「ふん」

冷めた物言いに、セレスが冷ややかな目で右手首のリングを見る。
その金のリングは、外そうとしても外れない。
ヴァシュラムとセレスを繋ぐ、愛しくも忌々しいリング。
輝く金の表面をつうっと指で撫で、ルビーにその手を差し出した。

「巫子は巫子らしく、血を流すことは避けねばならぬ。か?」

セレスの整った顔が、悲しく微笑む。

「私は、ヴァシュラムに生かされているのだ。
この腕切り捨ててもリングを外せばどうなるんだろうね。
この世から、かすみのように消えてしまうんだろうか。
いっそこの世のすべてを飲み込んでしまえばいいのに。
フフフ、ああ、私は時々……いや、やめよう。私にはやらねばならないことがある。」

やらねばならないこと、ルビーは、それがなんなのか知らない。

「では、腕を切り落とすのは、私を殺してからに願います。
私はルビー、地の巫子セレス様だけの従者にございますから。」

頭の硬い従者にクスリと笑い、セレスがプイと空を見る。
気の弱かったルビーは、すっかり彼のコントロールに長けてきた。
すかした兄弟だ、ヴァシュラムの従者選びは的確すぎて腹も立たない。

「ああ鬱陶しい事よ。最初はずっと泣いてたくせに。」

「ええ、あなたはずっと本を読んで下さいました。お優しい方です。」

「本当は死ぬほどの目に遭わせて、追い出すつもりだったんだ。」

「でも、私は今、こうして生きております。
死ぬまでお仕えいたしますから、ご覚悟下さい。」

「しつこい奴。」

「ええ、良くおわかりで。」

風は優しく頬を撫で、そして戦いの気配を運んでくる。

「どうせこのリングが外れるときは死ぬときだ。その時、私はやっと自由になれるのさ。」

言い捨ててセレスは、一瞬目を閉じ、また穏やかで優しい巫子の顔に戻る。

「行くぞ」

きびすを返して階段に向かうと、らせんの階段を階下へと降りていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...