赤い髪のリリス 戦いの風

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10、隣国からの使者

91、決意表明

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魔物が何の見返りもなく……‥

メイスは魔物ではない。まして、彼は見返りなど求めなかった。

「友人に、なんの見返りがありましょう。
見返りがあるとすれば、それは心の安らぎ。
辛いことを分かち合い、忘れる事の出来るひととき。
人は弱いものです、まして私のような未熟者はあなた様のように強くはございません。」

「ふざけたことを!そいつらのせいで何人も命を落としているのだぞ。
何が安らぎだ!」

リリスが騎士をまっすぐ見つめ立ち上がる。
思わず一歩引く彼に、リリスは身を落とし一方の膝をついた。

「友人の罪は私の罪でもありましょう。
ですが、友人の罪を納めるのも私の仕事と存じます。
身の振り方を考えよと仰せでございましたら、私はその仕事を終えた後にこの首さらしてもかまいません。
それまで、どうぞお待ち願いたく申し上げます。」

「ほう、これは大した物言いよ!だが、口ではなんとでも言えよう!
お前のような小者に、そんな気概があるものか!
お前に友を裁けるというのか?
え?お前に友が殺せるのか?
首をさらすだと?お前のようなガキが命がけという言葉を軽々しく言うな!」

カッカと熱い騎士に、リリスが鋭い瞳を向ける。
意を決したように、立ち上がり騎士を見据えた。

「確かに!

確かに、私のような小者は口先だけかもしれません。
しかし……‥、待たれませ!

私などに、たとえ魔の者であっても裁く権利などありましょうか!
皆々様!今一度、今一度ご再考下さいませ!

この世に本当の魔物など、ありはしないのです。
それを述べるのであれば、私の心にも、あなた様の心にも魔物は潜んでいると思うのです。

彼らが罪を重ねるそのわけを、私は聞きたいと思います。
ただ目の前にいる魔物を倒しても、殺しても、またどこかで大きく歪んだ心は育ってこの先襲ってくるでしょう。

どこかでそれを、断ち切るすべを探さねばなりません。
私のような未熟者に、果たしてそれができるかわかりません。

しかし、アトラーナのためなればこそ、我らは語り合わねばならないのです!
その為にはこの些細な命、かける事などいといませぬ!」

少年の声が、余韻を残して響き渡る。
あれほど騒がしかった食堂が、しんと静まった。
騎士が、呆然と立ち尽くす。
ハッと息をのむ、その潔さ。
こんな子供がそこまで考えているのかと、決意を持っているのかと、信じられない気持ちでゴクリとつばを飲む。
食堂の中は静まりかえり、そこにいた皆、頭が巡らず何も言えなくなった。


パンパンパンパン


唇をかむその騎士の後ろから、何故か手をたたく音が響きわたる。

「よせよせ、お主の負けよ!
あっぱれ、そこまで言い切るとはさすがアトラーナの子!あっはっは!」

豪快に笑うその声は、本城から共にきた騎士ギルバ。

「やめろやめろ、レナントの騎士は了見が狭いぞ。」

他の仲間も、共にはやし立てて拍手を送る。
ギルバがニヤリと笑い、苦虫をかむ騎士に拳を差し出した。

「おう、口で負けたら殴り合うか?
子供相手だ、殴り合いならばわしが相手になろう。
それとも何か?共にルランから来たわしも魔物の一人だというのかね?それこそくだらん。

それ、お主の仲間も、もしかしたら魔物が潜んでいるかもしれんぞ。
ほれ、わしの隣も魔物かもしれん。
賢いお主でも、友の腹の中なんぞさっぱりだろう?
友が魔物だからその子も仲間だと、決めつけるなんて馬鹿馬鹿しいとおもわんか?」


ギルバの助け手に、リリスが驚いて目を丸くする。
手を叩く他の騎士達にも、信じられない気持ちでぎこちなく頭を下げた。
本城の、気位の高い騎士達が自分を認めたとは思えない。

これは何かの夢だろうか。
彼らにとって、自分は魔導師とは名ばかりの気にもかけることのない召使いのはずだ。

頭を下げた拍子に金に変えた髪が、ふわりと顔にかかる。
ああ……
リリスがフッと笑って苦笑した。
髪の色が違うだけで、こうも人の心が変わるのか。
きっとこの、術で変えた髪の色が心の壁を下げてくれたんだろう。

「フンッ!何を言うか、我らの心の広さを知らぬのはそちらよ!
レナントの民は国境の戦士だ、この結束の硬さをその曇った目でよく見て行かれるがいい!」

吐き捨ててくるりと背を見せる、その騎士にリリスが頭を下げる。
そして胸に手を当てた。

「レナントの勇猛さは王都ルランでも人々が良く口にすることでございます。
だからこそ、皆が安心して日々を送れるというもの。
アトラーナの今があるのも、レナントがあってこそでございましょう。」

騎士が立ち止まり、くるりとリリスを見る。
リリスがニッコリ、微笑み返す。

「いいな、いい奴だ、ガキのクセに、賢しい奴だ。」

騎士がニヤリと笑い、グッと拳を見せた。

「俺の名はブルース・ザナフィー。お前、気に入ったぞ。
何かあったら俺を呼べ、何なりと力になろう。
赤い髪の魔導師リリス殿。」

「は、はい!……えっ?」

今度はリリスが驚いた。
思わず髪に手が行く。

「リリス、鏡を見てご覧よ。
髪が半分赤に戻ってるよ。」

「ええっ!」

ミランが笑って懐から小さな鏡を出した。
小さな鏡に映る、自分の頭はほとんどが赤い髪に戻って、前髪の一部が辛うじて金色を維持している。

「わああ!なんですこれ!ひどい。」

「あはは!気がつかなかったの?たった一晩しか持たなかったね。」

「ああ、なんて滑稽な姿。がっかりです。
ガーラント様、ヨーコ様、教えて下さってもよろしいでしょうに。リリスは傷つきました。」

がっくり、しおしおとしおれた様子で鏡をミランに返す。
リリスのあまりにシュンとした姿が先ほどとのギャップを産んで、回りからどっと笑い声が上がった。

「まったく可愛いガキだな!
そら、メシを食え!もっと太らんと女も寄ってこないぞ!」

ギルバがバンバン背中を叩き、リリスをグイと食事をおいたテーブルの前に座らせる。
思いもかけないこの自分への心遣い。
リリスが顔を上げ、ガーラントを見た。
ガーラントはいつものムスリとした顔で、小さくうなづく。
先ほどの騎士ブルースを見ると、こちらを見てニヤリと歯を見せる。

リリスがゆっくり、ぐるりと周りを見回した。

誰もが笑い顔を見せ、指を立て、そしてうなずく。

この騒ぎ、これこそ、これに乗じてリリスへの憂慮を一掃させるためのブルースの、そしてギルバたちの気遣いだったのだろう。
なんという、大きな男たち。

リリスが立ち上がり、テーブルの横に出て前と後ろに大きく頭を下げた。
そして、テーブルについて手を合わせる。


皆様、ありがとうございます。


胸が熱くなる。
どうして、こんなに良くして下さるのだろう。

「さ、暖かいうちに食べよう。」
ミランがニッコリ笑う。
リリスが大きくうなずき、声を上げた。


「いただきます!」
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