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11、アトラーナの秘め事
93、親と子
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城の一番高台の場所で、強い風に吹かれながらルネイとその弟子、そして背後にリリスとガーラントが見守る。
「聖なる水よ、シールーンの名において、邪なる物を阻み我らを護りたまえ。」
ルネイが呪を唱え、城の四方に打ってある魔除けのくさびの一つに聖水をまき、杖でコンと叩く。
くさびは輝いてキンと音を上げ、光を放つ。
ルネイはホッと息を吐いて、弟子の背後に立つリリスとガーラントを振り返った。
「ふう、これで結界の補強は終わった。
セレス様の結界と二重に施すことで、魔物は入ることも叶わぬじゃろう。
リリスよ、シールーン様の機嫌取りに付き合わせて悪かったな。」
「いいえ、私も久しぶりにお会いできて嬉しゅうございました。」
「お前はほんに精霊達の気に入りだな。
我らからすると、うらやましくさえある。」
「私は……精霊に育てられたも同然ですから。
父であり、母であり、兄弟でもあるのです。
恐らく……精霊達がそばにいてくれなければ、私は小さい時に命を落としたでしょう。
命の恩人でもあります。」
「辛かったかね?これまでの道のりは。」
思わぬ問いに顔を上げると、ルネイはくさびをあとにして城内へと向かう。
リリスも後を追いながら、視線を落とし強い風に舞い上がる赤い髪を押さえ、肩にいたヨーコ鳥を手に留まらせて包み込んで見つめた。
「……辛くなかった……とは言えません。
たいそう母上には可愛がって頂きましたが、人で理解して下さる方は本当に少なくて……
何度も……言い表せないほどの……辛いことがございました。」
ルネイが足を止め、リリスを振り向く。
「恨んでいるかね?両親を。」
ドキッと胸が波打つ。
ルネイは知っているのだろうか。
噂を信じたのだろうか。
今まで噂を聞いて声をかけてきた者達は、心から信じてはいなかった。
ドラゴンの言葉を盾にキアナルーサを追い落とし、自分を立てて傀儡としようと企てる、自分を見下した目で見る貴族達。
だからこそ精霊の母は、ザレルの反対を押し切って自分を向こうの世界へと避難させたのだ。
「恨むという言葉が、私の心に当てはまるのかは存じません。
ただ……ただ……知りたかったのです。どんな人たちから自分が生まれたのか。
小さな頃から、ずっと……ずっと夢見てきました。両親が現れ、自分を抱きしめてくれることを。
この髪と目では、捨てるしかなかった事はわかります。
でも、守ってくれたらと……親ならば守って育ててくれる道もあったのではないかと、問うてみたいとも考えました。
でも……今さらもう……どうでも良いことです。」
力なく、リリスが微笑む。
本当の両親を、知ってみればあまりにも身分違いの所にいる。
同じ場にいて真実を知ったキアナルーサが、世継ぎの座から追われる事にあれほどおびえる姿を見て、自分に何が言えよう。
親だという人が、子ではないと認めないのに声に出せるはずもない。
噂はウソだと、自ら否定するしかないではないか。
ザレルも、それをよくわかっているのだろう。
父として、リリスの気持ちを一番理解してくれる。
お前はそれだけの価値があると、最低の身分を、何とか底上げしてやろうとしてくれる。
確かに最善の方法はトランを離れるか、それでなければ魔導師として、王子に忠実に仕えることだったろう。
それでキアナルーサは落ち着き、また彼に仕えることで簡単に命を狙われることもない。
それに、一度でいいから見てみたいと願った、本当の両親の姿も見ることができる。
実際、王に会えて……これが自分の父なのだと、ずっと心につかえて来た何かが一つ下りたような気がする。
妹であるのだろう、少女とも会うことができた。
城にいる時は、ザレルのそばにいることで安心して過ごすことが出来た。
彼も父として、身を挺して守るつもりだったに違いない。
そう言う人だ。ザレルは……
そう、自然に呼ぶことが出来た仲間だった。
ザレル様と、様付きで呼ばずにいても、何も不安を感じない唯一の人だった。
父とは、そう言う、心を許せる人であるに違いない。
ルネイがリリスの元に歩み寄り、まるで子のように慈しみ、ポンと肩に手を置き引き寄せる。
そうして並んで歩き始めた。
「聖なる水よ、シールーンの名において、邪なる物を阻み我らを護りたまえ。」
ルネイが呪を唱え、城の四方に打ってある魔除けのくさびの一つに聖水をまき、杖でコンと叩く。
くさびは輝いてキンと音を上げ、光を放つ。
ルネイはホッと息を吐いて、弟子の背後に立つリリスとガーラントを振り返った。
「ふう、これで結界の補強は終わった。
セレス様の結界と二重に施すことで、魔物は入ることも叶わぬじゃろう。
リリスよ、シールーン様の機嫌取りに付き合わせて悪かったな。」
「いいえ、私も久しぶりにお会いできて嬉しゅうございました。」
「お前はほんに精霊達の気に入りだな。
我らからすると、うらやましくさえある。」
「私は……精霊に育てられたも同然ですから。
父であり、母であり、兄弟でもあるのです。
恐らく……精霊達がそばにいてくれなければ、私は小さい時に命を落としたでしょう。
命の恩人でもあります。」
「辛かったかね?これまでの道のりは。」
思わぬ問いに顔を上げると、ルネイはくさびをあとにして城内へと向かう。
リリスも後を追いながら、視線を落とし強い風に舞い上がる赤い髪を押さえ、肩にいたヨーコ鳥を手に留まらせて包み込んで見つめた。
「……辛くなかった……とは言えません。
たいそう母上には可愛がって頂きましたが、人で理解して下さる方は本当に少なくて……
何度も……言い表せないほどの……辛いことがございました。」
ルネイが足を止め、リリスを振り向く。
「恨んでいるかね?両親を。」
ドキッと胸が波打つ。
ルネイは知っているのだろうか。
噂を信じたのだろうか。
今まで噂を聞いて声をかけてきた者達は、心から信じてはいなかった。
ドラゴンの言葉を盾にキアナルーサを追い落とし、自分を立てて傀儡としようと企てる、自分を見下した目で見る貴族達。
だからこそ精霊の母は、ザレルの反対を押し切って自分を向こうの世界へと避難させたのだ。
「恨むという言葉が、私の心に当てはまるのかは存じません。
ただ……ただ……知りたかったのです。どんな人たちから自分が生まれたのか。
小さな頃から、ずっと……ずっと夢見てきました。両親が現れ、自分を抱きしめてくれることを。
この髪と目では、捨てるしかなかった事はわかります。
でも、守ってくれたらと……親ならば守って育ててくれる道もあったのではないかと、問うてみたいとも考えました。
でも……今さらもう……どうでも良いことです。」
力なく、リリスが微笑む。
本当の両親を、知ってみればあまりにも身分違いの所にいる。
同じ場にいて真実を知ったキアナルーサが、世継ぎの座から追われる事にあれほどおびえる姿を見て、自分に何が言えよう。
親だという人が、子ではないと認めないのに声に出せるはずもない。
噂はウソだと、自ら否定するしかないではないか。
ザレルも、それをよくわかっているのだろう。
父として、リリスの気持ちを一番理解してくれる。
お前はそれだけの価値があると、最低の身分を、何とか底上げしてやろうとしてくれる。
確かに最善の方法はトランを離れるか、それでなければ魔導師として、王子に忠実に仕えることだったろう。
それでキアナルーサは落ち着き、また彼に仕えることで簡単に命を狙われることもない。
それに、一度でいいから見てみたいと願った、本当の両親の姿も見ることができる。
実際、王に会えて……これが自分の父なのだと、ずっと心につかえて来た何かが一つ下りたような気がする。
妹であるのだろう、少女とも会うことができた。
城にいる時は、ザレルのそばにいることで安心して過ごすことが出来た。
彼も父として、身を挺して守るつもりだったに違いない。
そう言う人だ。ザレルは……
そう、自然に呼ぶことが出来た仲間だった。
ザレル様と、様付きで呼ばずにいても、何も不安を感じない唯一の人だった。
父とは、そう言う、心を許せる人であるに違いない。
ルネイがリリスの元に歩み寄り、まるで子のように慈しみ、ポンと肩に手を置き引き寄せる。
そうして並んで歩き始めた。
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