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11、アトラーナの秘め事
94、小さくて、大きいもの
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肩を抱かれて、リリスが驚いて見上げる。
気さくなルネイは、彼にゆっくりと語りかけた。
「人というのは弱い物じゃ。自ら厳しい道を選ぶ者は少ない。
子に赤い髪の子が生まれたからと言って、手放してしまおうと、お主の親が本当に思ったのかはわからぬ。
だが、しきたりに捕らわれている家柄の者であれば、それを破るのは困難であっただろう。
密かに育てることもできなかった理由が、お主の両親にはきっとあったと思うのだよ。」
「……ええ、わかります。きっと、わかっていたのです……でも……」
久しぶりに会うキアナルーサの姿。
不安に揺れて、なんと気弱なその振る舞い。
自分が口を閉ざした事で、彼は充実した日々を送っているとばかり思っていた。
「どうしてこんなに……人は思い悩むのでしょう……」
つぶやくようにポツンと漏らし、高台から下りながら眼下に並ぶ家々を見下ろす。
そこに暮らす人々、一人一人にも悩みがあるのだろうか。
身分がどんなに高くても、満たされない思いが必ず人にはある。
「万物に、完璧などありはしない。
人は悩みを抱えるからこそ、そこに強さがあり弱さがある。
それこそ、愚かなる人間の生きる原動力だよ。
……と、わしの師は言っておったな。
まあ、酒好きの型破りな師であったが、なぜかシールーン様の気に入りでな。」
「悩みが……満たされないからこそ、生きる原動力と……」
「そうだな、追い求めるのは悪いことではない。
人は意識することもなく、必死で日々を生きているのだよ。
生きることにどん欲である事には罪はない。
人は、愚かであるのが普通なのじゃ、なにも恥じる事はないのじゃよ。」
ちらとルネイがリリスを見下ろす。
そして驚いたことに、遠くを見つめ明るく微笑む彼の表情に目を見開いた。
「ええ、ええ……本当に、人はなんて愚かなんでしょう。
きっと、私は憎んでいたのです。
うらやましくて、たまらなかったのです。
それがとても醜くて、きっと目をそらしていたに違いありません。
でも、
でも、それが、それこそが……
きっと、真実の私。
私も愚かで小さく、弱い人間なのです。
だから、両親の気持ちもわかります。
同じなのです。
私はこれ以上、人に嫌われたくなかった。
何もかも失う気がして、小さく震えていた。
でも……
でも、それでは周りが見通せない。
それは……結局は人を信じていなかったと言うこと……
それは…………
なぜ?なぜだろう……なぜ私は道を誤ってしまったのか……
そう、
私は、人を、周りの人間達を、きっと……小さく、甘く見ていた?
そう、そうです!
私は、見くびっていました。
周りの人々は、所詮何も見ようとしない、小さな、小さな人間達ばかりだと。
ずっと、小さな頃から……
昨夜あんな事があって、皆様に良くは思われていないことは重々承知しておりました。
だからこそ今日は朝食の時、何も気にしてないように大きく振る舞うことで、周りを跳ね返そうと思っていました。
すべてと戦うつもりで。
でも、でも…………私は愚かでした。
すべてと戦うなどと、それは大きな間違いでした。
私は馬鹿です、愚か者です。
ああ、なんて大きな人たちでしょう。
私はもっと信じていいのだと、皆さんから教えられました。
人は小さくて、そして大きくて、頼っていい時には頼ってもいいのだと、知らされたんです。
ありがとうございます。
私は、きっと迷っていたのです。臆病だったのです。
何をすべきかわかっているのに。
私は、もっと勇気を出します。
お味方になって下さる方は、必ずいるのだと信じます。」
明るく一気に話すリリスに、周りがポカンと見つめる。
リリスはここに来て見たこともないような笑顔で、手にあるヨーコ鳥を空高く放り上げた。
「チュチュッ!」
ヨーコが驚いて空に飛び立ち、リリス達を見下ろす。
今朝の出来事が、こんなにリリスを変えるなんて。
彼にとって、それは生まれて初めてのことだったに違いない。
なんてことだろう、彼はもっと、もっと大きくなって行く。
人の姿なら、ヨーコの顔は燃え上がっていただろう。
以前にも増して輝いて、美しく、りりしい。
本当に、生まれつきの王子なんだ。
好き、大好き。やっぱり好き。
やがてリリスはルネイの手の中から飛び出すと、彼に一礼して、城の中へと走り出す。
慌てて追いかけるガーラントの横をすり抜け、リリスと共にヨーコも飛んでゆく。
後に残されたルネイがそれを見送っていると、弟子がポカンとした顔でつぶやいた。
「変わった……方でございますね。
本当に、召使い上がりなのですか?とてもそうとは……」
「フフ……自問自答して、それで答えを導き出しおった。
ほんの少しの言葉から、自分で全部答えを出して走り出しおった。
なんて変わった、なんて型破りな魔導師よ!」
ルネイが大きな声で笑い出す。
「のう、人の成長を見るのはなんと楽しい事じゃ。
だから人間は止められぬ。たとえどんなに愚かでもな。」
「は……はあ、そうでございますね。」
ルネイには、リリスの後ろ姿が初めて出会った時のガルシアと重なって見える。
身分という物に疑問を覚え、貴族のプライドに疑問を覚え、王家の血筋に疑問を覚え、すべてを自分で答えを導き出して、そしてレナントに自由な風を吹き込んできた。
「まことの、世継ぎかもしれぬ……」
師の小さくつぶやいた言葉を、そこにいた弟子は愕然とした面持ちで聞いていた。
気さくなルネイは、彼にゆっくりと語りかけた。
「人というのは弱い物じゃ。自ら厳しい道を選ぶ者は少ない。
子に赤い髪の子が生まれたからと言って、手放してしまおうと、お主の親が本当に思ったのかはわからぬ。
だが、しきたりに捕らわれている家柄の者であれば、それを破るのは困難であっただろう。
密かに育てることもできなかった理由が、お主の両親にはきっとあったと思うのだよ。」
「……ええ、わかります。きっと、わかっていたのです……でも……」
久しぶりに会うキアナルーサの姿。
不安に揺れて、なんと気弱なその振る舞い。
自分が口を閉ざした事で、彼は充実した日々を送っているとばかり思っていた。
「どうしてこんなに……人は思い悩むのでしょう……」
つぶやくようにポツンと漏らし、高台から下りながら眼下に並ぶ家々を見下ろす。
そこに暮らす人々、一人一人にも悩みがあるのだろうか。
身分がどんなに高くても、満たされない思いが必ず人にはある。
「万物に、完璧などありはしない。
人は悩みを抱えるからこそ、そこに強さがあり弱さがある。
それこそ、愚かなる人間の生きる原動力だよ。
……と、わしの師は言っておったな。
まあ、酒好きの型破りな師であったが、なぜかシールーン様の気に入りでな。」
「悩みが……満たされないからこそ、生きる原動力と……」
「そうだな、追い求めるのは悪いことではない。
人は意識することもなく、必死で日々を生きているのだよ。
生きることにどん欲である事には罪はない。
人は、愚かであるのが普通なのじゃ、なにも恥じる事はないのじゃよ。」
ちらとルネイがリリスを見下ろす。
そして驚いたことに、遠くを見つめ明るく微笑む彼の表情に目を見開いた。
「ええ、ええ……本当に、人はなんて愚かなんでしょう。
きっと、私は憎んでいたのです。
うらやましくて、たまらなかったのです。
それがとても醜くて、きっと目をそらしていたに違いありません。
でも、
でも、それが、それこそが……
きっと、真実の私。
私も愚かで小さく、弱い人間なのです。
だから、両親の気持ちもわかります。
同じなのです。
私はこれ以上、人に嫌われたくなかった。
何もかも失う気がして、小さく震えていた。
でも……
でも、それでは周りが見通せない。
それは……結局は人を信じていなかったと言うこと……
それは…………
なぜ?なぜだろう……なぜ私は道を誤ってしまったのか……
そう、
私は、人を、周りの人間達を、きっと……小さく、甘く見ていた?
そう、そうです!
私は、見くびっていました。
周りの人々は、所詮何も見ようとしない、小さな、小さな人間達ばかりだと。
ずっと、小さな頃から……
昨夜あんな事があって、皆様に良くは思われていないことは重々承知しておりました。
だからこそ今日は朝食の時、何も気にしてないように大きく振る舞うことで、周りを跳ね返そうと思っていました。
すべてと戦うつもりで。
でも、でも…………私は愚かでした。
すべてと戦うなどと、それは大きな間違いでした。
私は馬鹿です、愚か者です。
ああ、なんて大きな人たちでしょう。
私はもっと信じていいのだと、皆さんから教えられました。
人は小さくて、そして大きくて、頼っていい時には頼ってもいいのだと、知らされたんです。
ありがとうございます。
私は、きっと迷っていたのです。臆病だったのです。
何をすべきかわかっているのに。
私は、もっと勇気を出します。
お味方になって下さる方は、必ずいるのだと信じます。」
明るく一気に話すリリスに、周りがポカンと見つめる。
リリスはここに来て見たこともないような笑顔で、手にあるヨーコ鳥を空高く放り上げた。
「チュチュッ!」
ヨーコが驚いて空に飛び立ち、リリス達を見下ろす。
今朝の出来事が、こんなにリリスを変えるなんて。
彼にとって、それは生まれて初めてのことだったに違いない。
なんてことだろう、彼はもっと、もっと大きくなって行く。
人の姿なら、ヨーコの顔は燃え上がっていただろう。
以前にも増して輝いて、美しく、りりしい。
本当に、生まれつきの王子なんだ。
好き、大好き。やっぱり好き。
やがてリリスはルネイの手の中から飛び出すと、彼に一礼して、城の中へと走り出す。
慌てて追いかけるガーラントの横をすり抜け、リリスと共にヨーコも飛んでゆく。
後に残されたルネイがそれを見送っていると、弟子がポカンとした顔でつぶやいた。
「変わった……方でございますね。
本当に、召使い上がりなのですか?とてもそうとは……」
「フフ……自問自答して、それで答えを導き出しおった。
ほんの少しの言葉から、自分で全部答えを出して走り出しおった。
なんて変わった、なんて型破りな魔導師よ!」
ルネイが大きな声で笑い出す。
「のう、人の成長を見るのはなんと楽しい事じゃ。
だから人間は止められぬ。たとえどんなに愚かでもな。」
「は……はあ、そうでございますね。」
ルネイには、リリスの後ろ姿が初めて出会った時のガルシアと重なって見える。
身分という物に疑問を覚え、貴族のプライドに疑問を覚え、王家の血筋に疑問を覚え、すべてを自分で答えを導き出して、そしてレナントに自由な風を吹き込んできた。
「まことの、世継ぎかもしれぬ……」
師の小さくつぶやいた言葉を、そこにいた弟子は愕然とした面持ちで聞いていた。
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