赤い髪のリリス 戦いの風

LLX

文字の大きさ
124 / 303
12、本城ルランへ

第122話 立場が変わることは恐ろしい

しおりを挟む
バシン!

「うっく!……ガーラント様……」

「ガーラント殿!」

頬を打たれ、リリスが驚き愕然とガーラントを見る。
ミラン達も、突然のことに遠巻きに見守った。

「なぜあんな無茶をする!お前は我らが護ると言ったはず!なぜ信用できない!
一人になった所を射られては、護る事も出来んのだ!なぜわからない!」

「だって、あのままじゃ! ……申し訳……申し訳ありません。」

頬を押さえながら、リリスが唇をかみ、視線を落として彼に深く頭を下げる。

「違う!そうじゃないんだ!あなたは……わかってない!何もわかってない!」

ガーラントは腹立たしそうに、大きく首を振って地に左膝と左手の拳をつき、そして胸に右手を当てリリスに深く、深く頭を下げた。

「ガーラント様!」

「私は、一度はあなたの命を狙った者だ。
だが、今はあなたの、あなたを護る家臣、騎士だ。
手を上げた事はどうかお許し願いたい、だが、あなたは我らに頭を下げる必要はない。
ただ、その意味を考えていただきたいのだ。」

ガーラントの心の内を初めて見た思いで、リリスが愕然として彼を見下ろす。
自分に頭を下げる騎士が、自分に忠誠を誓う騎士が生まれていた事が、リリスには理解できず混乱した。

「だ、だ、だめです!そんな!私などに膝をついてはなりません!」

慌ててガーラントの身体を起こそうと、前から肩を懸命に押す。
しかし、ガーラントは頭を下げたままビクともしない。

「ご冗談を!リリスはまだあなた様に頭を下げられるような……!」

「リリス殿!」

声に振り向くと、ミランもまた、そしてポカンと見ていたブルースもため息混じりに片手片膝付いてリリスに頭を下げた。

「どうして皆様は……!?」

絶句するリリスに、ガーラントが顔を上げる。
その顔は、今まで見た事がないような真剣な顔だった。

「あなたは、もう魔導師でも召使いでもないのだ。
皆、あなたを火の巫子と認めています。
あなたはこれまで人に冷遇されてきた。
だが、あなたを慕う人間もこうして生まれ、そしてあなたのために命をかけてもいいと思っている。
それは、あなた自身がそうさせる何かを、我らに与えてくれたからだ。

リリス殿、もうすぐ城に着くだろう。
だが、このままではあなたは、あの狡猾な人間達の中で追い詰められ、すぐに死を選んでしまいそうで恐ろしい。
リリス殿、あなたは一人ではない。我らがこうして守りについている。
我らは命をかけてお守りしよう、だが、あなたは我らを護るために命をかけてはならない。
そして、あなたはこの国の人々のために、たとえ城の者に火の巫子と認められなくても生き抜かねばならない。
火の巫子としては、城の人間に認められなくては正式に神殿など与えられないだろう。
だが、城に認められなくても、あなたが火の巫子である事に変わりはないのだ。
それはきっと、この国の救いになる。」

リリスが唇をかみ、ガーラントを見つめる。
最低の身分に撃ち込まれた自分の立ち位置が、大きく変わろうとしている。
ずっとそれを望んできていたのに、それはなんと恐ろしいことだろう。
それは恐らく自分のことを知る城の人間にすれば王子の地位を脅かす者ととらえられるだろうし、だからこそこうして、命を狙われるのだろうと容易に考えられる。
そしてそれは、この騎士たちの命さえ脅かす事になるのだ。

「わ……かりました。」

ズシンとガーラントの言葉が重い。
二人の様子を見ていたブルースがため息をつき、そして立ち上がるととうとう切り出した。

「リリス殿、我らに何か話し忘れたことはあるまいか?
ガーラントは知っているようだが、俺とミランも命を賭して守るからには知っておかねばなるまい?」

「それは……申し訳なかったと思います。でも……」

ガーラントが、話した方がいいのか迷うリリスを制して口を開く。

「貴方らに話さなかったのも、内容がこの国の根幹に関わることであったからだ。
これは王族内でも極秘のことであろう。なにしろガルシア様もご存じなかったのだから。」

「どう言うことだ?」

「リリス殿は王のご長子であったが、訳あって城を追放されたご身分であったのだ。」

ポカンと二人が顔を見合わせ、首をひねる。

「えーっと、つまり王の長子って事は……あれ、噂だろ?」

「真(まこと)の話だ。」

「真??すると、嘘だろうと言われていたことは、本当のことだって??
待てよ、王子の兄って事はだぞ、普通に行ってたら次の王って事?」

「そうなります……ね。」

「つまり、追放されてなかったら御世継ぎ?」

「はあ、そのはずだったのでしょうね。」


「えええええええええ~~」


ミランとブルースが一歩引いて驚く。
が、一息ついてなるほどと大きく頷いた。
しかし、そんな大事なことなら最初に言って欲しいと思う。
少々ムスリとして、ブルースがあごを撫でながらガーラントを横目で睨んだ。

「それで、ガーラントはいつ知ったんだ?」

「知ったのは、つい先日だ。この鳥キュアが来た日に、セレス殿に知らされた。」

「あの噂は本城から流れてきたんだろう?
なんで本城の奴らは知らないんだ?たかだか15年前のことだろう?」

「秘密という物はそう言う物だ。生まれてすぐに極秘裏に風殿へ預けられた御子だ。
しかも王族からは完全に切り離され、上を見ないように厳しく躾けられたんだろう。
この子を見ているとわかる。」

「だから命を狙われてると言うことか?
追放した子の身分が上がるのがそんなにまずいことか?」

「それをきっかけに、王位を狙ってると思われても致し方ない。
だからこそ、この任務は重いのだ。
だから貴方らにも護衛をお願いした。
俺一人では、あの狡猾な貴族どもから護ることが出来るかわからん。」

「貴族さん方には関係無かろう、頭が変わろうと、貴族は貴族だ。」

ブルースの言うことはよくわかる。
だが、ガーラントは本城に行って、貴族たちの考えていることはよくわかるのだ。

「騎士長より聞いた話だが、噂が流れた頃、真偽はよそに下の貴族はこの子を立てて傀儡としようとしたらしい。
その貴族たちは貴族院の長からかなり制裁を受けたと。
長の息子は王子の側近だ。
今でさえ長はかなりの実権を握っているお方、息子の失脚など許さんだろう。
たとえこの子を殺してもな。
俺は、その貴族院の長に騙されてこの方の命を狙った。
今思えば悔やまれてならぬが、おかげでこうしてお守りすることが出来る。」

「貴族院の長ってのは、確か、えーっと、レナ……レナ……何とかって……」

「貴族院の長はレナパルド様ですよ、ブルース殿。
表向きは非常におおらかで良い方に見えるそうですが、一度睨まれると失脚するとか。
叔父上のご友人が酒が過ぎて失言したとかで、本城の大隊長から国境警備に飛ばされたそうです。
恐い方ですよ。」

「なに?酒の席で??酒飲んで失言なんて珍しくないぞ。それなら俺は、百回失脚だ。」

「でしたら本城での酒はご遠慮下さい。
リリス殿、ガーラント殿、教えていただき助かります。
やはり、それは知って置いたが最善でしょう、我らの覚悟もそれ相応のものになります。
では、それは極秘に。口外してはリリス殿のお立場を悪くしましょう。」

「お願いいたします、ミラン様、ブルース様。
私はもう、王族とは関わりございません。
私の母は風のセフィーリア様、そして父は騎士長ザレル様なのです。」

親に様をつける事に、ミランがクスッと笑う。
そして、うなだれるリリスの手をしっかり握りしめた。

「あなたの芯の強さは、王族ならではのものなのでしょうね。
あなたが必要な物、あなたが必要な地位、あなたのために、そして我らが国の民のために、何とか勝ち取りましょう。
これは、小さな戦いです。」

「戦い……ですか?」

「ええ、頑張りましょう、私も頑張ります。」

「そうだな、俺も頑張るぞ。」

ミランとリリスの手に、ブルースが、そしてガーラントが手を重ねる。
3人の顔を、目を潤ませ唇をかんでリリスが見つめる。
御礼を言うべきか、詫びるべきか、リリスは声が詰まって言葉が出なかった。
ただ、4人大きくうなずき合う。
今は、それだけで心が一つになった。

「私は……必ず生きて……レナントへ……」

「そうだ。
必ず生き延びろ、たとえ何があっても。」

「はい!」

流れる涙を拭くのも忘れ、リリスは明るく笑って返事を返した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫の妹に財産を勝手に使われているらしいので、第三王子に全財産を寄付してみた

今川幸乃
恋愛
ローザン公爵家の跡継ぎオリバーの元に嫁いだレイラは若くして父が死んだため、実家の財産をすでにある程度相続していた。 レイラとオリバーは穏やかな新婚生活を送っていたが、なぜかオリバーは妹のエミリーが欲しがるものを何でも買ってあげている。 不審に思ったレイラが調べてみると、何とオリバーはレイラの財産を勝手に売り払ってそのお金でエミリーの欲しいものを買っていた。 レイラは実家を継いだ兄に相談し、自分に敵対する者には容赦しない”冷血王子”と恐れられるクルス第三王子に全財産を寄付することにする。 それでもオリバーはレイラの財産でエミリーに物を買い与え続けたが、自分に寄付された財産を勝手に売り払われたクルスは激怒し…… ※短め

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

冤罪で追放された令嬢〜周囲の人間達は追放した大国に激怒しました〜

影茸
恋愛
王国アレスターレが強国となった立役者とされる公爵令嬢マーセリア・ラスレリア。 けれどもマーセリアはその知名度を危険視され、国王に冤罪をかけられ王国から追放されることになってしまう。 そしてアレスターレを強国にするため、必死に動き回っていたマーセリアは休暇気分で抵抗せず王国を去る。 ーーー だが、マーセリアの追放を周囲の人間は許さなかった。 ※一人称ですが、視点はころころ変わる予定です。視点が変わる時には題名にその人物の名前を書かせていただきます。

〈完結〉姉と母の本当の思いを知った時、私達は父を捨てて旅に出ることを決めました。

江戸川ばた散歩
恋愛
「私」男爵令嬢ベリンダには三人のきょうだいがいる。だが母は年の離れた一番上の姉ローズにだけ冷たい。 幼いながらもそれに気付いていた私は、誕生日の晩、両親の言い争いを聞く。 しばらくして、ローズは誕生日によばれた菓子職人と駆け落ちしてしまう。 それから全寮制の学校に通うこともあり、家族はあまり集わなくなる。 母は離れで暮らす様になり、気鬱にもなる。 そしてローズが出ていった歳にベリンダがなった頃、突然ローズから手紙が来る。 そこにはベリンダがずっと持っていた疑問の答えがあった。

【完結】16わたしも愛人を作ります。

華蓮
恋愛
公爵令嬢のマリカは、皇太子であるアイランに冷たくされていた。側妃を持ち、子供も側妃と持つと、、 惨めで生きているのが疲れたマリカ。 第二王子のカイランがお見舞いに来てくれた、、、、

骸骨と呼ばれ、生贄になった王妃のカタの付け方

ウサギテイマーTK
恋愛
骸骨娘と揶揄され、家で酷い扱いを受けていたマリーヌは、国王の正妃として嫁いだ。だが結婚後、国王に愛されることなく、ここでも幽閉に近い扱いを受ける。側妃はマリーヌの義姉で、公式行事も側妃が請け負っている。マリーヌに与えられた最後の役割は、海の神への生贄だった。 注意:地震や津波の描写があります。ご注意を。やや残酷な描写もあります。

処理中です...