赤い髪のリリス 戦いの風

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13、望まれない帰還

第123話 王城への帰還

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日が傾き、沈む夕日を背にして、遠くの高台に美しくも懐かしい、アトラーナの王城が見えてきた。
ねぐらへ帰る鳥たちを横目に、冷たい風が吹く中をひときわスピードを上げブルース達が乗るグルクが先を行く。
ミランが振り向き、城を指さし城の手前にある森を指さす。
つまり、城か一旦森に降りるか、という事なのだろう。
ガーラントは迷わず城を指さし声を上げた。

「ガルシア様の命だ!城に行き王に謁見を願う!!」

ミランが手を上げ、わかったと合図する。
先ほど休憩時にも一応、リリスの義父であるザレルに連絡を付けて、先に城の様子を確かめてはどうかと相談してみたのだが、ガーラントは強気で行くらしい。
考えが変わらないと言う事で、ブルース達も腹を決めた。

城の上空に来ると、王家の一人であるガルシアの書簡を持っている事を印す、レナントの紋章の入った旗をミランが手に持ち城に向けて振った。
すでに薄暗いので見えるかどうかは運任せだ。
だが、魔導師から知らせは行っているはずなので、まさか下から矢が飛んでくることはあるまい。
ガーラントの背を、リリスが不安そうにギュッと抱きしめる。

「母上が、空にいらっしゃると思っていましたが……いらっしゃらないのでしょうか……」

寒いのか、不安なのか、リリスの唇が震える。
ガーラントが横にあるリリスの足をポンポンと叩き、大丈夫だと力づけた。



たいまつを持ってくるくると回す誘導に従い、すっかり暗くなった城の広場へとキュアとグルクが降りて行く。
ざわつきながら人々が集まり兵達が前に出て、隊長らしき男がキョロキョロ怪訝な顔で4人を見回した。

「私は衛兵7番団長のサーバーと申す。貴方らが連絡を頂いているレナントの騎士殿であろうか。
失礼ながら、確認の上で御用向きをお聞きしたい。」

ちらりとガーラントを見て、ブルースが前に出る。

「いかにも私はレナントの騎士、ブルース・ザナフィーと申す。
我らは現在魔導師の身分に置かれているリリス殿の……」


「リリス!」


声に顔を上げると、息を切らせてザレルが人をかき分け大きな身体で走ってくる。

「ザレル様!」

変わらない姿に、リリスがパッと明るい顔で走り寄った。

「ザレル様!リリスは……リリスは……」

久しぶりに見る姿に、思わず涙が浮かぶ。
ザレルが大きな手を広げ、リリスの肩を抱きしめた。

「よく、無事に帰ってきた。
お前の働きはこちらにもちゃんと届いている。
よく頑張ったな。」

「はい、……はい!」

ホッとしながら、涙を拭いてニッコリ笑う。
久しぶりに頭をグシャグシャに撫でられて、ようやくリリスの緊張がほぐれた。

「あの方がザレル殿か?」

ブルースとミランが、多少緊張して姿勢を正す。
ふと視線が合い、ガーラントがザレルに深く頭を下げた。

心の中で、申し訳ないと心から思う。
この人にとって、この子は本当に大切な息子だったのだ。
尊敬する騎士の、我が子にと選んだ人間を信じ切れなかった自分が恥ずかしい。
奴隷のずる賢い子供に騙されているのだという話を、自分は愚かにも信じてしまったのだ。

「ブルース、よくこの子を護ってくれた。礼を言う。
こちらはレナントの騎士か。なんと皆、血だらけではないか。
すぐにケガの治療を……」

「いえ!治療はリリス殿により済ませましたので、大事ありませぬ!
お、お会いできて、光栄でございます!」

ブルース達がザレルに話しかけられカッと血がのぼる。
狂獣と呼ばれ、名を上げた勇猛な騎士が、随分思っていたと違い柔らかくて驚いた。

「そうか、魔導師の塔からも連絡を貰っている。王子もご心配して朝からお待ちだ。さあ、広間へ。」

歩き出すザレルに慌ててリリスが話しかける。

「あの!王に謁見は許されますでしょうか?」

ザレルがため息をついたように見える。
恐らくはきっと、話は良い方には向いていないのだろう。
リリスが手を合わせ、唇を噛む。
ザレルは引き返してリリスの背に手を添え、並んで歩き出した。

「急くでない、それはあとで話そう。
まずは王子にお会いして今夜はゆっくり休め、食事をしながらお前の話しも聞かせてくれ。」

「はい。……あの、母上は……セフィーリア様はいかがされたのでしょう?」

「彼女はお前が来ることを知って、フレアゴート殿の説得に向かった。が、居所がまだつかめぬらしい。
配下の者から逐一報告は来てるのだが……何とも言えぬ、腹立たしい事よ。」

「いえ、……それは覚悟の上で参りましたから。」

荷物を下男達に任せ、皆が歩き出す。
その場から立ち去るリリスの背を見つめ、キュアが一鳴きすると羽ばたいた。

「キアアアッッ!!」

「な、なんだ?!この鳥!」

自分も連れて行けとばかりに、数回羽ばたいて身体が見る間に小さくなる。
鞍や荷物をドサドサ落とし、慌ててリリスのあとを追った。

「ああ、そうでした。おいで、キュア」

リリスが差し出す手を無視して、赤い髪の頭に止まる。
キュアは鳩ほどの大きさになっていて、髪をつつき置いてきぼりを怒っているようだった。

「いたた!もう!お前はほんとに私を馬鹿にしてますね。
忘れて悪かったのはあやまりますから、つつかないで下さい。」

「キキッ、キュルルル」

リリスの頭に止まる変わった瑠璃色の鳥に、ザレルがチラリと見る。
鳥のことを聞かれるかと思ったが、無言で広間へと進んだ。



日も暮れて遅い時間に、広間もひんやりと数人の側近と貴族が並んでいるのみだ。
やがてリリス達4人とザレル、その部下が、王子の姿を見て頭を下げた。
キアナルーサは特に変わりなく、リリスを見ると喜びの声を上げる。
しかしどこかよそよそしい印象もあり、王子が上座の椅子に腰掛けるとリリスは床に両膝を付いて、行きの旅の途中でのことを詫びた。

「レナントへの道中、皆様をお守りできなかった事は力不足でまことに申し訳なく……」

「良い、お前の働きはこちらにも届いておる。
お前無くては全滅であったろう、大儀であった。僕もお前を家来として鼻が高い。
しかし、用があって一時帰って来たとは聞き及んでいるが、お前がレナントの者を連れてくるとは思わなかったぞ。」

「はい、ガルシア様のお取りはからいで、身に余ることでございます。
おかげでこうして無事に城へ戻れました。」

「そうか、お前はガルシア殿の父上への手紙を持参してきたそうだな。
僕から父上にお渡ししよう。」

キアナルーサの言葉に、ゼブラが歩み出てリリスに手を差し出す。
迷いながらも、しかしこれは王へ直接と言い聞かされてきたのだ。
しかも、今自分は同胞の中にありながら警戒するしかない。
リリスは床に平伏して、それを詫びるしかなかった。

「これは、王へ直接お渡しせよとお言いつけの手紙でございます。申し訳ございません!」

王子の心証を悪くするに決まっている。
リリスはどっと冷や汗を流しながら、ただただ頭を下げた。

ゼブラがリリスを冷たく見下ろし、ため息をついて王子に目を移す。
キアナルーサも怪訝な表情をしながら、一息ついて背もたれにもたれた。
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