赤い髪のリリス 戦いの風

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13、望まれない帰還

第124話 失笑と侮蔑と

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ガルシアからの手紙を渡そうとしないリリスに、キアナルーサが眉を寄せる。
不服そうに目を細め、ため息をついて頭を下げる彼を見下ろした。

「ルークから、今朝話は聞いた。
お前は巫子の許しを得に来たらしいな。
先の旅でも、お前はよく精霊達と会話していたから不思議じゃない。
だけど、なんでフレアゴートが一緒に来ないんだ?
他の巫子は、みんな精霊王が一緒に来て挨拶に来るんだ。おかしいじゃないか。」

「それは……まだ、フレア様とは……お会いしていないので。」

痛い所を突かれ、リリスが口ごもる。
死んだ先代達に指南を受けたと言って、信じて貰えるのかわからない。

「は?なんだって??フレアと会っていないというのか?
じゃあ、なんでお前は自分が火の巫子だとわかるんだ?おかしいじゃないか。」

「それは先代の……教えを受けたからです。」

「おやまあ、死んだ人間を持ち出すとは……くっくっく……」

横にいた、二人の貴族がたまらずゲラゲラ笑い出した。

どっと、冷や汗が流れる。
信用して貰えるか、これは一つの賭けだ。
巫子となると、ますますすんなり認めることなどされないだろう。
だが、とにかく王と話をしなければ事は進まない。

「私は先代達の御指南を受けました。
それを信じていただけるかはわかりません。
ですが、火の巫子であるとわかった以上は、自分にできる事をしていきたいのです。
レナントのガルシア様や地の巫子様方のご助力もあり、火の巫子として必要な物がこちらにあるとも知って参りました。
どうか巫子としてのお許しを、そして私の話を王にお聞き入れ願いたいと、切にお願い申し上げます。」

「父上に、直接か。」

「はい」

「リリス、僕はさ、お前は僕の家来だと思っていたんだけど。」

「もちろん、私は王子に忠誠をお誓いしております。それは何ら変わっておりません。
私のような者でも巫子となる事で、この国に大きな力となるとお聞きしまして決意いたしました。
ただ、火の巫子には、恐れ多くも王にお頼み申し上げなければならない事があるのです。」

なぜ王に会わなければならないのかを、どこまで話していいのかわからない。
生きた心地がしない一時が、なんと重いのだろう。
率直に、すべてを話せればどんなにラクか知れない。
しかし、ミランの話を聞くと最も警戒しなければならないのは王子の側近なのだ。

笑っていた別の貴族が、貴族同士目配せを交わして口を開いた。

「その方、自分の身分をわかっているのか?
王子のご寛大なご配慮でここにこうしていられるが、本来であれば城に上がることも許されぬ身。
ましてその気持ちの悪い髪と目を隠しもせず、そうしていられるのも王のお慈悲があればこそ。
この上自分は巫子だなどと、よくもその口が言えたものよ。
その百合の戦士が羽織る上着、よもや盗んだ物ではあるまいな?」

ヒソヒソと語り合う言葉が響き、疑いの目を向けられサッと血が下がった。
イネスの心使いが、まさか盗品扱いされるとは。

「いいえ!いいえ!これはイネス様にお貸しいただいた物!ちゃんとお手自ら……」

「卑しい者が、何とでも言えよう。
巫子をかたるは重罪ぞ?その首、明日も繋がっていると思うな。」

「うぬううう……」

傍で聴いていたブルースが、耐えかね真っ赤な顔を上げる。
ジロリと貴族を睨み付け、たまらずとうとう声を上げた。

「貴族殿と思えぬ、何という無礼なお言葉か!言うに事欠いて、盗んだなどとあまりのお言葉!
リリス殿は間違いなく巫子とむぐぐぐ……!」

「ブルース殿!お控え下さい!」

ミランが慌てて彼の口をふさいで押さえ込む。
本城の貴族にレナントの騎士が意見など、許されるはずもない。
ここは上下が厳しい所なのだ。

「レナントの騎士殿は口の利き方も知らぬと見える。城付きと言え、田舎育ちは不作法な事よ。」

「まことに。ガルシア様も勝手を許すにも、ほどがあるという物。」

ヒソヒソと侮蔑の表情でブルースを見ながら、貴族たちが言葉を交わす。
だが、ジロリと視線を向けたザレルの怒りに満ちた表情にビクンと飛び上がり、小さく悲鳴を上げて凍り付いた。

「な、なにか、騎士長殿。無礼であろう。」

貴族の言葉を無視して、プイとザレルが王子の前に出て頭を下げる。

「今宵はこれにて。
明日、王への謁見もお許し願えれば幸い。出来ますれば王子のお力添えも頂ければありがたく存じます。」

「う、うん、そりゃあ僕だって家臣が巫子だと言ってきてるんだ。僕も出来るだけ力になろう。
つもる話もあるだろう、部屋はザレルのそばに用意させた。レナントの騎士は客間で休むが良かろう。」

「いえ!我らはリリス殿の護衛に来ておりますので、行動を共にさせて頂きます。
王子のもったいないお言葉だけで、我らは十分でございます。」

「そうか、随分大げさなことだな、リリス。」

「はい、もったいない事でございます。」

「まあ、好きにせよ。お前達の自由は許す。
明日父上に、話だけでも聞いて頂けるよう僕からもお願いしてやろう。
しょせん巫子など無理な話だろうが、お前も何か証明できるような物を考えてこい。
巫子を語るのは死罪だが、今のお前の身分は低すぎるからな。
上に上がりたい気持ちはわかるし、そこまでは仰らないだろう。
じゃあ、疲れたであろう、今日は下がってゆっくり休め。
後ろの者も、大儀だった。」

「はっ」

「はい、ありがとうございます。」

リリス達が立ち上がりもう一度頭を下げる。
キアナルーサも席を立ち、ゼブラと共に背を見せ歩き出し、そしてふと足を止めた。

「しかしリリス、火の神殿ってのはまずいな。」

「……はい」

「ベスレムでフレア殿が再建を目指していると聞いたが、使いが許しを得に来たけど父上はお許しにならなかったんだ。
火の巫子や火の神殿って絶えて久しいし、あの伝説もあるからな。
アトラーナじゃ火の神殿とかそう言う物はタブーなんだよ、お前も目の付け所が甘いな。
どうしても巫子とかに地位を上げたいなら、いっそ地の神殿に頼めば良かったんだ。
あんまり期待するなよ。じゃ」

頭を下げながら、リリスがギュッと手を握る。
まさか、フレアゴートの願いさえ聞き入れられなかったとは。

駄目かもしれない。
指輪さえも、それどころか……

「巫子のかたりは死罪以外はない、お主もよう一晩考えられよ。湯浴みの時、良く首を洗っておくのだな。」

侮蔑の視線でクスクス笑い、貴族たちが部屋を出てゆく。
ひとりの貴族が、リリス達に聞こえるようにひときわ大きな声を漏らした。

「まだ少年と言うに、なんと恐ろしきほどの詐欺師よ。末恐ろしい。
レナントを、まるごとだまし果せたと見える。
騎士長殿もお困りであろう、奴隷の思い上がりで使用人から死罪人を出しては失脚も目に見えておるわ。」

「まったくで……」

「クスクス……」「ククク……」

周りからも、ザレルを前にして失笑が漏れる。
リリスはうつむいたままハッと目を見開き、胸の前で手をギュッと握りしめた。
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