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13、望まれない帰還
第126話 不安が呼ぶ影
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「あいつ、一体何のつもりだ、馬鹿が!」
キアナルーサが、椅子にあるクッションを腹立たしげに床に放った。
驚いてネコのアイがピョンと避ける。
ゼブラがそれを取り、ドスンと椅子に腰掛けたキアナルーサの横に、ソッと戻した。
「なんで巫子なんだ、そんなに地位が欲しいのなら、魔導師の指輪を与えるように僕から進言してやってもいいのに。
巫子なんて、認められなかったら首をはねられるんだぞ。」
「致し方ございません。身分に不満があるのは理解できます。
せめて魔導師の指輪が得られたならば、このような野心は芽生えなかったでございましょう。」
首を振ってため息をつくゼブラが、指をかみ落ち着かないキアナルーサ王子を見下ろす。
王子はリリスが巫子の許しを得に帰ってくると聞いて、最初驚いていたが次第に不安に駆られるようになって行った。
リリスの身分が王の座に近づくことが、これほど不安にさせるとは。
ゼブラがチラリとネコのアイを見る。
アイはなんとなく視線をはずし、身体をペロペロなめ始めた。
このネコが、なぜすぐにリリスの元へ飛んでいかないのか、不思議でたまらない。
なにか、レスラカーンに入れ知恵されたか……厄介な。
「まさか、本当にリリスは王の座を狙っているんだろうか。」
聞きたくない言葉に、ゼブラが眉をひそめる。
キアナルーサは、リリスがレナントに旅立ったあと、大きな不安感から胸に秘めていた出生の秘密をたまらずゼブラに話してしまった。
それは秘密を分かち合う事で、キアナルーサの心を少し軽くしたが、逆にゼブラの心に大きな影を落とすことになった。
キアナルーサは、王位継承者としての自信がないのだ。
リリスのことばかりを気にして、彼の挙動に不安を覚える王子が、またゼブラを不安にさせる。
どうして王としての教育を受け、次の王にと約束されてきたのに、こうも自信を持てないのか。
もどかしささえ感じるほどに口惜しい。
「リリスは、僕を……王家を恨んでるのかもしれない。
……いや、あいつはそんな奴じゃなかったはずだ。僕に忠誠を誓うとあんな真っ直ぐな目で言ったじゃないか。
父上はどうなさるんだろう。
もし、リリスを懇意にされるようになったらどうしよう。」
不安をつぶやく王子に、ゼブラがため息を飲み込んだ。
そして膝をつき、王子の手をギュッと握って顔を覗き込む。
泣きそうな顔の王子をみっともないと思いながら、満面に微笑みをたたえ優しく囁いた。
「いいえ、不安に思うことなどありません。
あの方は純粋に、この地の平和を思って巫子にと言っていらっしゃるのでしょう。
今は表面だけでもお力になるのが賢明かと存じます。
……どうか、どうかご安心を、キアナルーサ様。
あの方が仮に自分こそと言いましても、誰も信じる者はおりません。
あなたこそ、真の王位継承者。どうぞ自信をお持ちになって下さい。
このゼブリスルーンレイアは必ず、何がありましても全力で王子の力となって見せましょう。」
キアナルーサが、ホッと息をついて力なく笑う。
「そうだな、うん、僕にはいつもゼブラがいる。お前の言うとおりにして、間違いだったことはない。当てにしてるよ。
じゃあ、僕は父上に会いに行こうかな。」
「リリス殿のことでございますね?」
「ああ、一応は僕の下僕だし、せめて命くらいは救ってやりたい。
みんなの前でああ言って、もし何も言いに行かなかったら、あとで父上のお耳に入った時に何か言われるかも知れないし……」
「なんと慈悲深い。それでこそ私の王子でございます。では、侍従殿に許しを得て参りましょう。」
「うん、頼むよ。」
ゼブラが一礼して部屋を出る。
衛兵に一声かけて微笑み、王の元へと歩き出した。
「ゼブラ様、足下が暗うございます。ランプをお持ちしましょう。」
気を効かせた兵が声をかけるが、聞こえないのか彼は歩みを止めない。
やがて廊下の角を曲がり、姿が見えなくなった。
誰もいない暗闇の廊下で、ゼブラが立ち止まりギリギリと唇をかみしめる。
『みすりるハ、失敗シタヨウダナ。
アレガ指輪ヲ手ニ入レタラ、オ前ナド太刀打チデキヌゾ』
声にチラリと視線を向ける。
暗闇の壁にちょろちょろと、青く輝くトカゲが姿を現した。
「うるさい、巫子を証明できねば死あるのみ。
すべて否定すればいいのだ、たやすい事よ。
まして、この国では火の巫子は禁忌。その巫子の指輪とやらを、王が渡すわけがない。」
『アレノ気概アフレル姿ニ、王ハ、心ガワリスルヤモシレヌ。くくっ
オ前ノ王子ハ、王ノ器ニアラズ……』
ドンッ!
突然ゼブラが、腰からナイフを取って壁に突き立てた。
串刺しのトカゲは痛いそぶりもなく、するりと刃を抜ける。
「お前は巫子の指輪を処分しろ。」
『ソレハ出来ヌ相談ヨ。我ハ火ノ巫子ニハ関セズ』
「なぜだ、裏切るのか?!貴様はこのアトラーナを憎んでいるんだろう?」
『オ前ゴトキガ知ル必要ハナイ。私ハ静観サセテモラオウ』
「待て、私との契約は遂行して貰うぞ。」
『オ前ニハ、我ガ力ヲ分ケ与エタ。アトハオ前次第。手並ミ拝見シヨウ』
「待て!」
トカゲは待つ様子もなく、闇に溶けるように消えて行く。
何故だ?!
あいつはリリスに関心を示していたはずだ。
どうしてここに来て手を引こうとする?
まさか……心変わりか?
一体あいつの正体は何なのだ!
「ゼブラ様!こちらでお声が聞こえましたが、何か?」
兵が2人、ゼブラがつい大きく上げた声が聞こえたのか様子を見にやってきた。
壁にはナイフが刺さったままで、ため息混じりに右手で引き抜く。
あのくらいの挑発に乗るのは、未熟な証拠だ。
「なんでもないよ。蛇がいたので驚いてナイフを刺してしまったよ。」
「毒がある物でしょうか?他の兵に探させましょう。」
「いや、大丈夫だ。庭でよく見るやつだったから。
こんな事ですまないね、お疲れ様。」
軽く手を上げ、ゼブラが廊下を歩いて行く。
いつも冷静で、声を上げることもないゼブラには珍しいことだ。
何事かと思ったが、蛇とは思いがけない弱点を見た。
兵は顔を合わせて笑うと、やれやれと持ち場に戻っていった。
キアナルーサが、椅子にあるクッションを腹立たしげに床に放った。
驚いてネコのアイがピョンと避ける。
ゼブラがそれを取り、ドスンと椅子に腰掛けたキアナルーサの横に、ソッと戻した。
「なんで巫子なんだ、そんなに地位が欲しいのなら、魔導師の指輪を与えるように僕から進言してやってもいいのに。
巫子なんて、認められなかったら首をはねられるんだぞ。」
「致し方ございません。身分に不満があるのは理解できます。
せめて魔導師の指輪が得られたならば、このような野心は芽生えなかったでございましょう。」
首を振ってため息をつくゼブラが、指をかみ落ち着かないキアナルーサ王子を見下ろす。
王子はリリスが巫子の許しを得に帰ってくると聞いて、最初驚いていたが次第に不安に駆られるようになって行った。
リリスの身分が王の座に近づくことが、これほど不安にさせるとは。
ゼブラがチラリとネコのアイを見る。
アイはなんとなく視線をはずし、身体をペロペロなめ始めた。
このネコが、なぜすぐにリリスの元へ飛んでいかないのか、不思議でたまらない。
なにか、レスラカーンに入れ知恵されたか……厄介な。
「まさか、本当にリリスは王の座を狙っているんだろうか。」
聞きたくない言葉に、ゼブラが眉をひそめる。
キアナルーサは、リリスがレナントに旅立ったあと、大きな不安感から胸に秘めていた出生の秘密をたまらずゼブラに話してしまった。
それは秘密を分かち合う事で、キアナルーサの心を少し軽くしたが、逆にゼブラの心に大きな影を落とすことになった。
キアナルーサは、王位継承者としての自信がないのだ。
リリスのことばかりを気にして、彼の挙動に不安を覚える王子が、またゼブラを不安にさせる。
どうして王としての教育を受け、次の王にと約束されてきたのに、こうも自信を持てないのか。
もどかしささえ感じるほどに口惜しい。
「リリスは、僕を……王家を恨んでるのかもしれない。
……いや、あいつはそんな奴じゃなかったはずだ。僕に忠誠を誓うとあんな真っ直ぐな目で言ったじゃないか。
父上はどうなさるんだろう。
もし、リリスを懇意にされるようになったらどうしよう。」
不安をつぶやく王子に、ゼブラがため息を飲み込んだ。
そして膝をつき、王子の手をギュッと握って顔を覗き込む。
泣きそうな顔の王子をみっともないと思いながら、満面に微笑みをたたえ優しく囁いた。
「いいえ、不安に思うことなどありません。
あの方は純粋に、この地の平和を思って巫子にと言っていらっしゃるのでしょう。
今は表面だけでもお力になるのが賢明かと存じます。
……どうか、どうかご安心を、キアナルーサ様。
あの方が仮に自分こそと言いましても、誰も信じる者はおりません。
あなたこそ、真の王位継承者。どうぞ自信をお持ちになって下さい。
このゼブリスルーンレイアは必ず、何がありましても全力で王子の力となって見せましょう。」
キアナルーサが、ホッと息をついて力なく笑う。
「そうだな、うん、僕にはいつもゼブラがいる。お前の言うとおりにして、間違いだったことはない。当てにしてるよ。
じゃあ、僕は父上に会いに行こうかな。」
「リリス殿のことでございますね?」
「ああ、一応は僕の下僕だし、せめて命くらいは救ってやりたい。
みんなの前でああ言って、もし何も言いに行かなかったら、あとで父上のお耳に入った時に何か言われるかも知れないし……」
「なんと慈悲深い。それでこそ私の王子でございます。では、侍従殿に許しを得て参りましょう。」
「うん、頼むよ。」
ゼブラが一礼して部屋を出る。
衛兵に一声かけて微笑み、王の元へと歩き出した。
「ゼブラ様、足下が暗うございます。ランプをお持ちしましょう。」
気を効かせた兵が声をかけるが、聞こえないのか彼は歩みを止めない。
やがて廊下の角を曲がり、姿が見えなくなった。
誰もいない暗闇の廊下で、ゼブラが立ち止まりギリギリと唇をかみしめる。
『みすりるハ、失敗シタヨウダナ。
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声にチラリと視線を向ける。
暗闇の壁にちょろちょろと、青く輝くトカゲが姿を現した。
「うるさい、巫子を証明できねば死あるのみ。
すべて否定すればいいのだ、たやすい事よ。
まして、この国では火の巫子は禁忌。その巫子の指輪とやらを、王が渡すわけがない。」
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ドンッ!
突然ゼブラが、腰からナイフを取って壁に突き立てた。
串刺しのトカゲは痛いそぶりもなく、するりと刃を抜ける。
「お前は巫子の指輪を処分しろ。」
『ソレハ出来ヌ相談ヨ。我ハ火ノ巫子ニハ関セズ』
「なぜだ、裏切るのか?!貴様はこのアトラーナを憎んでいるんだろう?」
『オ前ゴトキガ知ル必要ハナイ。私ハ静観サセテモラオウ』
「待て、私との契約は遂行して貰うぞ。」
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「毒がある物でしょうか?他の兵に探させましょう。」
「いや、大丈夫だ。庭でよく見るやつだったから。
こんな事ですまないね、お疲れ様。」
軽く手を上げ、ゼブラが廊下を歩いて行く。
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