赤い髪のリリス

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第28話 憂慮は尽きない

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 アトラーナは小国ではあるが、それを三つの地方に分けてある。
王都ルラン、そしてレナント、ベスレムだ。
王には二人の弟、一人の妹がいるのだが妹は隣国へ嫁ぎ、次弟サラカーンは城で執政に携わり、末弟ラグンベルクは子のいなかった叔父の養子となってベスレムを治めている。
家を継ぐのは男子のみと言う決まりの元に、その家の長男と生まれたからには、生まれた時から重責が肩にのし掛かるのである。

「しかしな、僕の他は妹だけなのだ。
だから僕が王位を継がなければ、サラカーン叔父の息子であるレスラカーンが次なんだけど。
ところがレスラカーンは、ちょっと問題が大ありなんだ。」

「何?あんたよりバカなの?」

ム?何か棘があるぞ?

「バカではない、僕に似て大変な美丈夫なのだが、可哀想に生まれつき目が見えんのだ。
僕はあいつに苦労させたくない。僕には他に男兄弟がいないからな、あいつにはゆっくり過ごして欲しい。」

「んま!」

バーンッ!いきなりヨーコがキアンの背を叩いた。

「痛い!痛いじゃないか!バカ女!」

「あんた偉いよ!バカだとばかり思ってたけど、あんたやっぱ王子だねえ!いいよ!最高!」

「ウム、ようやく僕のすごさが分かったか。
だから、僕は絶対に失敗が許されんのだっ!」

「よーし!がんばろうぜ!キアン!」
「おーっ!」

しかし、ベスレムの城まではまだ遠いらしい。
目の前にありながら、まだ城の後ろしか見えないのだ。これが正面に回るのにどれだけ歩けばいいのだろう。
城まで続く山肌の道を、ずっとくねくね歩き続けている。みんな先程までの元気が消えて、溜息ばかりが目立つようになってきた。

 日が徐々に傾きかけ、何となく眼下の牧場を見ると、白い動物がムームーと鳴きながら、人に追われている。
ここの羊は、今まで見てきた羊よりとても大きい。ヨーコが目を凝らしながら聞いてきた。

「ねえ、あの牧場何飼ってるの?羊?」

「え、と、私は、その羊という動物を見たことはございませんが、あれはシビルと申しまして白い毛がフワフワとした動物でございます。
普段はのんびりした動物ですが、驚くと凄い勢いで突進してくるんですよ。」

「だからこいつを飼うのは、こういう仕切られた中でないと無理なんだ。
しかし、肉は凄く美味くてな、高値で取り引きされる。」

「へえ、珍しい家畜なの?。」

「うむ、ベスレムは昔、このアトラーナでも貧しい所だった。
しかし、叔父上がここを治めるとすぐ、皆にシビルを飼わせるようになったんだ。
肉もいいが毛も凄く柔らかで上等だから、毛織物でも良いお金になる。
ここの絨毯は素晴らしいんだ。
みんな裕福になって、とても喜んでくれた。」

キアンが鼻高々、自慢している。

「でも、その叔父さんがこの石狙ってんだ。」

「うん、叔父上は本当に偉い方なのに、どうしてなんだろう。
リリスの言うことが間違いであればいいのに。」

自慢の叔父が自分を陥れようとするなんて、信じられない。
キアンの気持ちを思えば、みんなどう声を掛けていいのか分からなかった。

「あ、あれ、何?」

前を続く曲がりくねった道の途中、ここから見渡せるところにふと、砂煙を上げて走る二頭立ての馬車が見えた。

「あれ、あれが馬?化け猫じゃん。」

この世界の馬は毛がふかふかして顔が短い。
体つきもしなやか、まるで大きな猫だ。
静かにしてみれば確かに、ガラガラと、音が山々に響いている。
後ろは無骨な木造のようだ。まあ、ここでカボチャの馬車は無理だろう。

「あっ!あれは叔父上のお持ちになっている馬車だ!迎えを出してくださったのだ!」

「キャ!ほんと?!馬車なんて初めてじゃん!」

「ステキ!格好いい!」

キアンは手放しで喜んでいる。しかしリリスはその横で、厳しい顔をしていた。

「キアン様、キアン様お聞き下さい。
ラグンベルク様にはどうぞお気を抜かれません様に。
何を言われましても、リリスとザレルはキアン様の味方でございます。」

「何を言っている!そんなこと分かっているとも!お前も考えすぎだ!
リリス、見よ!叔父上はあのように迎えまで出してくださったではないか!
大丈夫、お前の考える事など無い!あれは部下が先走ったことをしたのだ。
そうだ!僕から叔父上に話しておこう!」

「なりません!どうか叔父上様を刺激なさることは仰いませぬように!キアン様!」

「ああ、わかったわかった!」

キアンはろくに話を聞こうとしない。

ああ、嫌な予感がする。
御師様、御師様、リリスを助けてください。

恐怖に押しつぶされそうで唇を噛むリリスの小さな肩を、ザレルがポンと叩く。
吉井ももう片方の肩を叩いてくれた。

「俺も、手を貸すよ。」

「はい、ありがとうございます。私も、河原様のご無事をお祈りしています。」

「ン、あいつはきっと大丈夫!大丈夫さ!」

大きな不安感を抱えるまま馬車はどんどん近づいてくる。やがて丁重な迎えの元に一行は、馬車でラグンベルク邸へと向かっていった。
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