赤い髪のリリス

LLX

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第29話 ラグンベルク

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 「どうぞ、こちらにてお待ちでございます。」

侍従が一行を広間へと案内してくれる。
時々訪れていたキアンには見慣れた屋敷だが、他のみんなは初めて見るところだ。
外観はその大きさから迫力に圧倒されるものの、飾りのない質素な作りには主の性格が見えるようだ。
しかしやはり王家の流れを汲む城らしく、中に入ると質素さの中に美しい柄の絨毯や、緻密な細工で装飾してある家具、そして品よく彫刻の施してある柱や壁は素晴らしい。
窓からの明かりと言う、主に自然光に頼った照明も、薄暗さが一層重厚感を引き立てた。
帯刀している兵士も数人は見えるが、ほとんどは下働きの女達や従者達がキアンに向け、うやうやしく頭を下げている。
外でネを上げていたのが嘘のように、キアンは堂々と胸を張りのしのしと歩いていた。

「へえー、やっぱさ、キアンって王子なんだ。」

「シッ!お前達、余計なことを喋るな。
僕が紹介するから。いいな。」

えらっそうにさ!でも
緊張して心臓がドキドキ飛び出しそうだ。

「キアナルーサ様、お越しでございます。」

ひときわ大きなドアの前にいた兵士が、大声で告げた。
侍従を追い越して、キアンがさっと歩みを早めその部屋へと入ってゆく。

「わあ!」

後ろに続いたアイとヨーコが、思わず声を漏らした。
美しい絨毯の絵柄の中に、赤い海の中を美しい純白の鳥たちが群をなして舞っている。その周りにはまるで鳥を讃えるように薄いピンクの花弁を大きく広げた花が咲き乱れ、周囲を飾る蔓草がそれを引き立てていた。
その部屋に入った者は、まずそこに敷いてある巨大ながらこれ程に贅を尽くした絨毯にまずは目を奪われるのだ。

ぐるりと見回せば、三階までを吹き抜けているような高い天井。
そして、広々とした空間にはただ一つ、正面に豪奢な椅子。そしてその椅子には・・

「叔父上!キアナルーサでございます!
お久しゅうございます!」

「よう来た!キアナルーサ!ようここまで歩いてきた!」

キアンの後ろでザレルは膝を付き、リリスは平伏して深々と頭を下げている。
アイ達も訳が分からず、頭を下げた。

「無事で何より、兄王にはわしから便りを飛ばして置いたぞ。
さあ、疲れたであろう、しばしゆっくりと休むが良い。」

「ありがとうございます。叔父上のお心遣い、痛み入ります。」

「キアナルーサ様!」

タッと公の傍らから、可憐な同年齢ほどの姫が、金の巻き毛と淡いピンクのドレスをなびかせて駆け寄ってきた。

「フェルリーン!どうしてここに?!」

キアンが目を丸くして彼女を抱き留める。

「すげえ美少女。」

吉井が小さく呟いた。
彼女は隣国の王女だが、生まれる前から二つの国の取り決めで、次のアトラーナの后となるべく生まれた王女だ。
互いの国同士、婚姻で親戚関係を作り、つながりを深めてトラブルを避けようとするのはどこの世界でも同じだ。

「だって、心配でございますもの!
大切な未来の旦那様がおケガでもされてはと、フェルリーンは夜も眠れません!」

「そうかぁ?へへ、心配させるな。」

キアンの鼻の下が伸びている。
ブルーの瞳に金の巻き髪、まるで西洋人形のように美しい姫がすでに許婚とは!
キアンめ!羨ましい奴!

吉井がくそーっと唇を噛む。
横ではリリスが、そうっと姫を見て頬を赤らめた。
しかしアイには別に興味がある。
よく見えなかったが、果たして、そのラグンベルクとはどういう男なのだろうか?声は思ったより随分低く通ってダンディーな感じだ。

アイがそうっと頭を上げ、よく見ようとラグンベルクを覗き見る。
その時、思わず目が合ってしまった。

「あっ!あの!えと!こんにちは!」

ゲゲッ!てっきりハゲデブと思っていたのに!
格好いいおじさまじゃん!

「ほう、これは異界人か?」

キアンがチッと舌を鳴らしている。
悪かったねえ。

「恐れ入ります、ペルセスが何者かと間違えてこの者共の友人をさらいました物で、我らも共に探しております。」

「ペルセスが?」

「はい。」

ドキドキ、果たして白を切るのかそれとも本当に知らないのか?
ラグンベルクは侍従に視線を走らせた。
侍従が一礼して近くの兵士に一言告げる。
兵士はスッとその場から消えた。

「後ろの者、ようキアンに仕えてくれる。
礼を言うぞ、名を申せ。」

しかしリリスは顔も上げずひれ伏したままだ。

「恐れ入ります、ラグンベルク様。
我が名など、御耳に触ります、お許しを。」

「よい、可愛い奴よ、風の息子。
お前の名はこのベスレムまで届いておるぞ。
幼少よりその力は秀で、セフィーリアも舌を巻くほどとか言うではないか。」

「お戯れを。私など、御師様のお手汚しでございます。こうして何とか人並みにしていただきました。」

「ふむ、」

公が眉をひそめる。
不興をかったのかと、リリスはじっとりと額に汗が浮き上がり青ざめた顔をしている。
何故かリリスは名を語ろうとしない。
その上、周りに立つ公の従者達も、あからさまに眉をひそめてヒソヒソと耳打ちしている。

「男、お前は何という。」

今度はザレルに問われた。

「ザレルにございます。」

ザレルはいつものようにぼそっと告げる。

「ほう、お前が兄上自慢の狂獣ザレルか。
お前に戦いを挑む者はいないとか?さぞ素晴らしい戦いぶりであろう。」

しかしザレルは、頭も下げずに無粋に告げる。

「狂った獣は、獣にも劣ります。」

何と、ザレルまで褒め称える公の言葉に水を差してしまった。

「キアナルーサ。」

面白くなさそうな顔で声のトーンが落ちる。

「は、はい!」

キアンもびくっと飛び上がった。

「もう一人いなんだか?それはどうした?」

「それが、体調を崩したので帰しました。」

「まあ!では従者が減りましたの?」

もう一人、若い貴族の息子は旅に出てたった二日、慣れない野宿で体調を崩してしまった。
キアンと同じく、貴族生活で移動はほとんどが馬や馬車、体力はゼロに近い。
何とも嘆かわしいことだが、実は口実を作って成功率の低いこの旅から抜けたのだ。
そのことに、ザレルとリリスは気がついていた

「悪魔と獣か!何と変わった従者よ!
それでもこのアトラーナでも、最高の供と言えよう。フェルリーン殿、心配いらぬぞ。
はっはっはっはっ!」

大きな声で笑う公は、バカにしているのか誉めているのか分からない。

「御館様、お連れいたしました。」

声に横を向くと、奥のドアから兵士に連れられ、生成りのシャツにぶかぶかのズボンというこの世界の服を着た、見覚えのある少年が連れられてきた。
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