魔法伯爵と私

狩野真奈美

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公爵閣下の嘆息2(sideリンデルタ公爵)

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その晩、ガラタナはいつも通りに自ら厳選したワインとつまみを用意して客間でアルフォンスを待っていた。そして、いつも通りふっと部屋の隅の空気が歪むと一瞬でアルフォンスが現れた。
「よく来たな。いつも通り、便利そうでうらやましいわ」
「まあ便利は便利だ。もっともお貴族様になってからは見栄えのために馬車に乗ることも増えたよ」
やれやれと肩をすくめるアルフォンス。
公爵は席を勧めた。人目のない中で気安い友との晩酌だ。数少ない癒しの時間だと思っているとアルフォンスが席につくなり書類を渡してきた。
「はあ。仕事の持ち込みか。また厄介なことを言い出すという嫌な予感しかしないんだが」
公爵は嘆息した。
「とりあえず目を通してほしい。割と緊急案件だ」
「もう嫌な予感が確信に変わったわ」
公爵はぼやきながら書類に目を通す。読んでいると段々と眉間に皺が寄る。
「これは真実なんだな」
公爵は再び嘆息した。もう今夜は嘆息が止まらない気がする。
アルフォンスに確認だけを取る。
「そこに魔法伯爵の名においてって書いておいたはずだ。そして俺のもう一つのあだ名も知ってるだろ?」
「ああ、知ってるわ。……《拷問要らず》」
「思春期真っ盛りみたいなネーミングセンスやめてほしいがな。最初に言い出したやつは誰なんだか」
アルフォンスは笑う。しかし、事実彼は拷問せずとも相手から真実のみを引きずり出す。対象が生きている限り、彼は記憶を見ることが出来るのだ。全く恐ろしい男である。
初めて会ったのは彼が宮廷魔術師だった頃だ。国王陛下に仕向けられた暗殺者を彼は剣でガシガシとぶっ刺していた。まるで暇潰しですという顔をして。白金色の髪の人間離れした麗しい容姿。返り血で汚れているが、それでも失われない高潔な佇まい。
「そろそろ死ぬなあ。もしもーし、お兄さん、ちょっと記憶見せてもらいますねー」
そう言って彼が見た記憶から暗殺者を仕向けたのは隣国の王族であることが分かった。それは外交カードとして使われることとなる情報だ。
戦場では、同じ魔術師なら勝手が違うらしいが、一般兵なら一千や二千を平気で相手にする。
そんな危険人物である。叙勲してシュナイデル国に取り込んでおかねばならない。そう国王陛下に進言したのはガラタナ公爵自身だ。
平気で人を殺し、女癖も悪く、半妖精のどうしようもない男だ。だがしかし、何故か一本筋が通っているのだこの男は。実際、無差別殺人を行なっているわけでもないし、合意の上でしか女も抱いていないはずだ。そういうところが悪くないと思う。敵には回したくないし、それ以上に出来の悪い息子を持ってしまったような好意がある。
そして、今回の報告書だ。叙勲された時アルフォンスが「貴族の義務?は?何それ?おいしいのか?」と発言したので「不敬だ!!」と頭を叩いたのが懐かしい。彼は理由や経緯はどうあれ国民を守るのだ。
「とりあえず、更生院に監査だな。元々脱獄事件で予定されているが、わしの息のかかった者を数名入れるようにしておく」
「さすが、ガラタナさんよ、今、あのクソ豚野郎を庇う貴族はいるのか?」
「ゲーデル閣下、だ。まだ一応。ゲーデル閣下の味方は、ゼロではないが、一にも満たない程度だ。簡単に抑えられる。今は次の王位に視線が向かっておる。水面下ではあるがな。また一波乱あるのかどうか」
「そうだろうとは思っていたが。王室典範にわざわざ長男だと明記してあるというのに。人間のやることはいまいち分からん」
戦場で数万規模で人間を殺した男が言うのだ。果たしてこの男と血で血を争う王族の歴史、どちらが問題なのだろうな。
「それでお前が保護している少女だが「俺がもらう」
「……」
「……」
間髪入れず、少女を引き取る意志を示したアルフォンスに思わず真意を問うように顔を見たが無言である。
「言い出したら曲げない男だと分かっているが、お前の屋敷は男しかおらん男色屋敷だろ?」
「その呼び方はやめてくれ。女の子大好きなのにたまにパーティーでおっさんに色目使われるんだが。あれ本気で不快なんだが」
アルフォンスが真剣に嫌そうな顔をする。元々この麗しい容姿で男も女も虜にしているのだ。そのおっさんの気持ちも分からんでもない。
わしは勘弁だが。
「とりあえず、国王陛下と宰相にはこの文書を上奏しておく」
「ああ、任せる。あ、あと一つ頼みがあるんだが」
公爵は嘆息した。
「もうことのついでだ。なんだ?」
「メイドを一人譲ってくれ。条件は忠誠心が高くて気立が良いこと。容姿は問わない。あとうちの厳つい連中に物怖じしない胆力があること。武術も少々嗜んでるとありがたい」
公爵の嘆息は止まらない。
「そんな好条件のメイドどこにいるんだ!うちにもおらんわ!!」
「是非とも探しておいてくれ」
「エリーゼ夫人に頼んだらいいだろう」
「そんなこと頼んだら、アリスをうちに引き取りますコース一直線。もしくは十人ほどメイドが来る」
公爵は嘆息した。今夜は嘆息が止まらないとは予想していたが事実その通りになるとは。
「とりあえず探してはおくが、期待するなよ」
「ああ。お、今日もお高いワインだな。」
そうして、夜は更けていく。冬の夜空には数多の星が瞬いていた。
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