冒険者ゴートの一生

ケバブ

文字の大きさ
41 / 60
三章

外伝 宴の前の報告

しおりを挟む
打ち上げが始まる少し前ガイとアークの二人は作戦成功の報告をするためにトールの元に訪れていた。

勿論魔狼を全て討伐した時点で遣いは出しているが責任者として直接報告する必要が有るからだ。


トールの書斎にノックが響き部下の声が聞こえる。

「トール様、冒険者組合からガイ様とアーク様がお見えになりました」

「わかった。すぐ行く」

作業する手を止め、応接間へ向かうトール。その顔色は良いものではなく、疲れが見てとれる。

それもそのはずで魔狼の複数出現が確認されてから、領主である父への連絡や領兵を動員する際の事務処理等、普段の倍以上の業務量をこなしており充分な睡眠もとれていない。

とは言え速報ではあるが魔狼討伐作戦は無事成功したと伝えられたので、業務が落ち着いてくるのも時間の問題ではあるが。

「待たせてすまないね。早速だけど話を聞かせてくれ」

応接間に入るや否や、挨拶もそこそこに報告を聞こうと二人の対面に座るトール。

「それでは取り敢えず私から」

普段とは違う厳かな雰囲気でガイが報告を始める。

「改めて報告を。領兵と冒険者組合の合同で行った魔狼討伐作戦ですが、予定通り五体の魔狼を倒し作戦は成功しました。また数名負傷者が出ましたが、皆軽傷で済んでおります」

「そうか。それは何よりだ」

トールは肩の荷が下りたように息を吐く。討伐に成功したとは聞いていたが、犠牲者無しで済んだ事は初めて知ったようだ。

「次に、トール様も気にしていた魔狼が同時に出現した理由について報告が有るのですがよろしいですか?」

ガイの話題にトールの表情が再び固くなる。

「続けてくれ」

「今回討伐した魔狼を調査したところ一体だけ普通の魔狼と異なる特徴を持った個体が確認されました」

「異なる特徴だって?」

「ええ。なんとその個体には出産した形跡が見られたのです」

「そんな!?魔獣は生殖活動はしないはずじゃ!?」

ガイの報告の余りの衝撃に音をたてながら立ち上がるトール。

「落ち着いてくださいトール様。この話にはまだ続きがあります。組合の研究員の調査によると、今回の複数出現は魔獣が生殖活動をしたのではなく、出産が近くなった狼がお腹の中の子供ごと魔獣化した可能性が高いそうです。」

「そんなことが有り得るのか…」

「研究員によれば非常に稀なケースですが過去に事例が有るようです。念のため本格的な調査が出来るように、先程王都に向けて研究員と魔狼を送った所です」

「そうか…何はともあれ大きな被害が出なくて良かったよ」

「雨季と重なったのも幸運でした。余り冒険者が森の奥に行きませんでしたからね」

「これは雨季に感謝しなきゃいけないかな。アークは魔狼と戦って何か感じた事はあるかい?」

「そうですね…。私が戦った個体はそこまで違和感を感じませんでしたが、先程話に上がった出産を経験した個体は危うくなると逃げに徹したとか。これは普通の魔狼では考えられない行動です。やはり出産が何らかの影響を与えているのは間違いないかと」

「トール様、魔獣という生き物はまだ解明されていない事がとても多いのです。解明は専門家に任せ、今は被害が少なかったことを素直に喜びましょう」

ガイの一言でピリついていた空気が緩み始める。

「それもそうだね…。改めて感謝するよ。二人とも良くやってくれた。報酬については部下を遣るから相談してくれ。本当にご苦労だった」

「いえ、これも仕事の内ですから」

気持ちの良い笑顔で笑う冒険者達。
行政を担っている立場の人間として冒険者組合と良い関係を築けていることに、改めて安心するトールであった。

時間が有るのであればもう少し話を聞いてみたいと思っていたトールだったが業務はまだ沢山残っている上、ガイやアークも組合で報酬の相談や打ち上げの準備もしなければならないためまた後日場を設ける事となった。

「それでは失礼しました」

ガイとアークが部屋を出ようとしたその瞬間、何かを思い出したように急にトールが呼び止める。

「そうだ、帰る所すまないが最後に教えてくれ!出産したという例の魔狼は誰が倒したんだ?」

突然の問いに一瞬驚いたガイだったが、何かに気がついたのか少し笑いながら答えた。

「冒険者のゴートですよ。まあ他の冒険者が傷を負わせた後だったようですが立派なもんです」

そう言った後再び頭を下げ部屋を出ていく二人。

「そうかあのゴートが倒したのか…」

トールはゴートに戦場で助けてもらい、またこの町に戻る際に護衛して貰って以来、恩人という事もありゴートを気にしていた。


「…私も頑張らねばならないな」

ゴートをライバル視している訳ではないだろう。
ただゴートが魔狼を倒したと聞いたとき不思議と自分も頑張らなければいけないなという気持ちになったトールであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

弁えすぎた令嬢

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
 元公爵令嬢のコロネ・ワッサンモフは、今は市井の食堂の2階に住む平民暮らしをしている。  発端は彼女の父親が行方不明となり、叔父である父の弟が公爵邸に乗り込んで来たこと。  何故か叔父一家が公爵家の資産に手を付け散財するが、祖父に相談してもコロネに任せると言って、手を貸してくれないのだ。  そもそも父の行方不明の原因は、出奔中の母を探す為だった。その母には出奔の理由があって…………。  残された次期後継者のコロネは、借金返済の為に事業を始めるのだ。  小説家になろうさん、カクヨムさんにも載せています。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

スーパーのビニール袋で竜を保護した

チー牛Y
ファンタジー
竜は、災害指定生物。 見つけ次第、討伐――のはずだった。 だが俺の前に現れたのは、 震える子竜と、役立たず扱いされたスキル―― 「スーパーのビニール袋」。 剣でも炎でもない。 シャカシャカ鳴る、ただの袋。 なのにその袋は、なぜか竜を落ち着かせる。 討伐か、保護か。 世界の常識と、ひとりの男の常識が衝突する。 これは―― ビニール袋から始まる、異世界保護ファンタジー。

処理中です...