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第1章
第6幕 最初の1歩。
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「ど、どうして⋯⋯?私の短剣が⋯⋯」
短剣の刃が折れたのを目視して美和子は状況を上手く呑み込めないままその場でかたまる。
短剣の折れた所を見ると綺麗に平らに割れており、恐らく軽く動かすと割れるように細工が施されていたのだろう。
琴音の素人目にも分かるくらいこれには明らかに第三者の力が働いていた。
その時、美和子の意識は短剣へと集中的に注がれ、琴音の髪を掴む手に緩みが生まれる。
ーーこの瞬間を逃す手はない。
琴音はすぐさま美和子の手を払い除け、立ち上がろうとする、が運悪く美和子に今度は腕を掴まれ、床に頭を叩きつけられる。
「痛いっ⋯⋯!」
叩きつけられたその瞬間、辺りに埃が舞い上がると同時に錆臭い匂いと床に使われている木材の臭いが入り交じり、琴音の鼻と判断力を鈍らせる。
そして美和子は再度琴音に折れた短剣を突きつける。
「私から逃げ出せるなんて思わないでちょうだい。貴女にはまだ教育が必要のようね。まずはその顔から傷付けてあげましょうか?」
美和子は次第に怒りで冷静さを欠いていく一方で声には抑揚が失われていき、その変化はとても生々しかった。
彼女の声、顔、匂い。全てが琴音を恐怖の色で覆い尽くしていく。
しかしーー。こんなところで終わりたくはない。
「⋯⋯です」
「は?」
「私は!貴女が、大嫌いです!!」
思わぬ返答に狼狽の色が美和子の顔に現れるが、その顔から琴音は目を離さない。
「私は、貴女が大嫌いです!こんな家、こっちから出ていきます!!」
ーー言ってやった。
フッ、と琴音は心が軽くなるのを感じ、安堵に包み込まれ自然と口元が緩む。
今まで1度も反論をしてこなかった琴音の抵抗に驚き、流石の美和子も思わず開いた口が塞がらない。
そしてそんな琴音の表情が気に食わなかったのだろう。
美和子の琴音の腕を掴む力がよりいっそう強まり、顔を真っ赤にして思わず暴力に走る。
「何よ何よ何よ!出来損ないの癖に偉そうに!」
叩く、殴る、蹴る、様々な暴力が琴音に苦痛を与える。
もうとっくに恐怖で膝はガクガクと笑っており、逃げ出せそうもない。
今の琴音には痛みと怖さで意識を保つので精一杯だった。
(私はもう⋯⋯)
そんな琴音の悲痛な顔を見て美和子は勝ち誇った様に笑顔を咲かせる。
「諦めなさい。貴女にはその埃まみれの姿がお似合いよ。そんな風に今日も明日も、これからずっと貴女はそうやって床を這いずり回っているのがお似合いよ」
美和子が高らかに笑い声をあげ、琴音が奥歯を噛み締めたその時だった。
ふいに美和子は肩を叩かれ、後ろを振り返るや否や、突如として顔面に飛んできた平手打ちをまともにくらう。
ーーバシン。
重々しくも高らかに響いたこの音と共に倉庫の隅の木箱が無造作に積まれた山に美和子は空中で美しい弧を描いて突っ込んでいく。
ーーガシャン!
激しい音と共に木箱の山は崩れ辺り一帯に木箱の砕けた破片が飛び散り、まるで火から立ち上がる煙の如く埃が舞い上がる。
「だ、誰よ!こんな事するの⋯⋯は」
平手打ちをくらったせいか、木箱に突っ込んだせいか、鼻から溢れ出る血を手で抑えた美和子には血管が遠目から見ても浮き出ているのが分かる程の怒りが込み上げているが、平手打ちをした人物を見た途端に顔が血の気を失う。
「ど、どうして⋯⋯?どうして貴方様が⋯⋯」
さっきまでの威勢は何処へ行ってしまったのか、と問い詰めたいほど打って変わって美和子の顔は蒼白で、唇や体は小刻みに震えていた。
もはや動く気力も残っていない琴音は、頭を床に擦り付けたまま目線だけをゆっくりとこの倉庫へ差し込む明るい光に照らされた男へと目線を上げる。
この男は高級そうな落ち着いた色合いの着物を身にまとい、そこから伸びているのは日焼け知らずの透き通った白い肌の腕。髪色はその整った顔の片目を多い隠す程度に伸びた白銀だった。
そんな凛々しさと儚さ、そしてしおらしさを兼ね備えた男性を琴音は1人しか知らない。
「し⋯⋯真、さん?」
気力を振り絞り、乾いて干からびた唇から掠れた声で一生懸命彼の名前を呼ぶ。
真は、山で会った時とは全く別の気配を濃く放っていた。
常にナイフの様に鋭い視線からは何者かも寄せ付けない冷たい雰囲気を感じさせ、しかしどこか熱くまるで炎の様に沸き立つ雰囲気も醸し出す。
真は美和子をひと睨みするだけで何も喋らず、ただゆっくりと琴音へ歩み寄る。
「ど、どうしてこんな真似を⋯⋯!」
対しての美和子の方は自分は何も悪くないのに何故叩いたと言わんばかりの態度で全く悪びれる仕草が微塵も感じられない。
そんな美和子に対して真は一言だけ、美和子を貫いてしまうのではないかと心配するほどの冷ややかな視線で言い放つ。
「どうしてとは⋯⋯ただの美和子への教育だが?」
短剣の刃が折れたのを目視して美和子は状況を上手く呑み込めないままその場でかたまる。
短剣の折れた所を見ると綺麗に平らに割れており、恐らく軽く動かすと割れるように細工が施されていたのだろう。
琴音の素人目にも分かるくらいこれには明らかに第三者の力が働いていた。
その時、美和子の意識は短剣へと集中的に注がれ、琴音の髪を掴む手に緩みが生まれる。
ーーこの瞬間を逃す手はない。
琴音はすぐさま美和子の手を払い除け、立ち上がろうとする、が運悪く美和子に今度は腕を掴まれ、床に頭を叩きつけられる。
「痛いっ⋯⋯!」
叩きつけられたその瞬間、辺りに埃が舞い上がると同時に錆臭い匂いと床に使われている木材の臭いが入り交じり、琴音の鼻と判断力を鈍らせる。
そして美和子は再度琴音に折れた短剣を突きつける。
「私から逃げ出せるなんて思わないでちょうだい。貴女にはまだ教育が必要のようね。まずはその顔から傷付けてあげましょうか?」
美和子は次第に怒りで冷静さを欠いていく一方で声には抑揚が失われていき、その変化はとても生々しかった。
彼女の声、顔、匂い。全てが琴音を恐怖の色で覆い尽くしていく。
しかしーー。こんなところで終わりたくはない。
「⋯⋯です」
「は?」
「私は!貴女が、大嫌いです!!」
思わぬ返答に狼狽の色が美和子の顔に現れるが、その顔から琴音は目を離さない。
「私は、貴女が大嫌いです!こんな家、こっちから出ていきます!!」
ーー言ってやった。
フッ、と琴音は心が軽くなるのを感じ、安堵に包み込まれ自然と口元が緩む。
今まで1度も反論をしてこなかった琴音の抵抗に驚き、流石の美和子も思わず開いた口が塞がらない。
そしてそんな琴音の表情が気に食わなかったのだろう。
美和子の琴音の腕を掴む力がよりいっそう強まり、顔を真っ赤にして思わず暴力に走る。
「何よ何よ何よ!出来損ないの癖に偉そうに!」
叩く、殴る、蹴る、様々な暴力が琴音に苦痛を与える。
もうとっくに恐怖で膝はガクガクと笑っており、逃げ出せそうもない。
今の琴音には痛みと怖さで意識を保つので精一杯だった。
(私はもう⋯⋯)
そんな琴音の悲痛な顔を見て美和子は勝ち誇った様に笑顔を咲かせる。
「諦めなさい。貴女にはその埃まみれの姿がお似合いよ。そんな風に今日も明日も、これからずっと貴女はそうやって床を這いずり回っているのがお似合いよ」
美和子が高らかに笑い声をあげ、琴音が奥歯を噛み締めたその時だった。
ふいに美和子は肩を叩かれ、後ろを振り返るや否や、突如として顔面に飛んできた平手打ちをまともにくらう。
ーーバシン。
重々しくも高らかに響いたこの音と共に倉庫の隅の木箱が無造作に積まれた山に美和子は空中で美しい弧を描いて突っ込んでいく。
ーーガシャン!
激しい音と共に木箱の山は崩れ辺り一帯に木箱の砕けた破片が飛び散り、まるで火から立ち上がる煙の如く埃が舞い上がる。
「だ、誰よ!こんな事するの⋯⋯は」
平手打ちをくらったせいか、木箱に突っ込んだせいか、鼻から溢れ出る血を手で抑えた美和子には血管が遠目から見ても浮き出ているのが分かる程の怒りが込み上げているが、平手打ちをした人物を見た途端に顔が血の気を失う。
「ど、どうして⋯⋯?どうして貴方様が⋯⋯」
さっきまでの威勢は何処へ行ってしまったのか、と問い詰めたいほど打って変わって美和子の顔は蒼白で、唇や体は小刻みに震えていた。
もはや動く気力も残っていない琴音は、頭を床に擦り付けたまま目線だけをゆっくりとこの倉庫へ差し込む明るい光に照らされた男へと目線を上げる。
この男は高級そうな落ち着いた色合いの着物を身にまとい、そこから伸びているのは日焼け知らずの透き通った白い肌の腕。髪色はその整った顔の片目を多い隠す程度に伸びた白銀だった。
そんな凛々しさと儚さ、そしてしおらしさを兼ね備えた男性を琴音は1人しか知らない。
「し⋯⋯真、さん?」
気力を振り絞り、乾いて干からびた唇から掠れた声で一生懸命彼の名前を呼ぶ。
真は、山で会った時とは全く別の気配を濃く放っていた。
常にナイフの様に鋭い視線からは何者かも寄せ付けない冷たい雰囲気を感じさせ、しかしどこか熱くまるで炎の様に沸き立つ雰囲気も醸し出す。
真は美和子をひと睨みするだけで何も喋らず、ただゆっくりと琴音へ歩み寄る。
「ど、どうしてこんな真似を⋯⋯!」
対しての美和子の方は自分は何も悪くないのに何故叩いたと言わんばかりの態度で全く悪びれる仕草が微塵も感じられない。
そんな美和子に対して真は一言だけ、美和子を貫いてしまうのではないかと心配するほどの冷ややかな視線で言い放つ。
「どうしてとは⋯⋯ただの美和子への教育だが?」
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