8 / 13
第1章
第7幕 真の正体。
しおりを挟む
「どうしてとは⋯⋯ただの美和子への教育だが?」
鋭く、冷酷で冷たい眼光に射貫かれた美和子は何も答えずにただ呆然とその場でうなだれる。
「琴音よ。大丈夫か?」
真はもう美和子には目もくれずに琴音のもとへ駆け寄り、名前を呼ぶと優しく琴音の身体を抱き起こす。
「し、ん⋯⋯さん」
琴音は今にも消え入りそうだがどこか芯の通った声で真の名を呼び返す。
それに対して真は何度も頷いた後、優しく笑って見せるが、彼の眉はハの字に下がっていた。
「大丈夫だ。もう安心しろ」
たったこれだけの言葉。しかし、琴音にとってはこの言葉だけで酷く安堵し、勇気づけられる。
まだ会って間もないというのに、彼の言葉は不思議と琴音を安心させ落ち着かせる。
しかし、琴音にはひとつだけ質問しなければならない事があった。
(貴方は⋯⋯一体どうして)
だが、この問いをかける前に真の冷えきった視線は美和子へと注がれ、びくり、と美和子は小さく肩を震わせた。
「お前は何故琴音をそう邪険にするのだ」
理解が難しい。お互いどちらかに非があるのならばそこを指摘して改善していけばいい。
それでも無理ならばいっそ極力関わらないと割り切れば良い。
関係など、そうやって作り上げていけばいいものを。
しかし、この2人のここまで一方的な関係は最早異様、と一言では表しきれない。
「彼女の傷んだ髪、破れ、汚れた衣類、痩せこけ、痣だらけの身体。お前は一体今まで何をしてきたのだ?」
今琴音へ視線を移しても、彼女の腕や顔は赤く腫れ上がり、とても痛々しく、それを見ると真は怒りが沸き立つ。
真は静かに問うが、声音は完全に冷えきっており、段々と声には凄みが増していく。
「⋯⋯っ」
それに伴い美和子の顔はみるみるうちに血の気が失せて蒼白になっていき、真は呆れを通り越して鬱陶しさまでも感じた。
「⋯⋯どうしてよ」
しばらくの間黙り込んでいた美和子がふいに口を開く。
「⋯⋯っどうしてアンタみたいなこの土地の領主がこんな娘の為にここに居るのよ!」
叫ぶ美和子に最早自我など残っていなかった。
何者かに裏切られて自分の計画通りに事が運ばず、ましてや突如として眼下に現れた男に平手打ちをくらい無惨な姿を晒すなど言語道断。彼女の自尊心が黙っていなかった。
(嘘⋯⋯)
反対に琴音は今の美和子の吐き捨てたような言葉を聞き、目を見開くと、静かに彼の腕の中から彼の顔を覗き込む。
(真さんが⋯⋯この土地の領主、様?)
さすがの琴音でも、顔と名前は知らなくともこの家の使用人達の風の噂を耳にした事が以前あった。
その内容は、この土地の領主は簡単に部下や、しまいには市民までもを切り捨てる残虐かつ無慈悲な冷酷領主である、というものだった。
しかし、今琴音の目の前にいる真は噂とはかけ離れている存在であった。
もし仮に彼がそうだとすれば、琴音を助ける意味が分からず、美和子と一緒に殺されていてもおかしくはない筈であった。
鋭く、冷酷で冷たい眼光に射貫かれた美和子は何も答えずにただ呆然とその場でうなだれる。
「琴音よ。大丈夫か?」
真はもう美和子には目もくれずに琴音のもとへ駆け寄り、名前を呼ぶと優しく琴音の身体を抱き起こす。
「し、ん⋯⋯さん」
琴音は今にも消え入りそうだがどこか芯の通った声で真の名を呼び返す。
それに対して真は何度も頷いた後、優しく笑って見せるが、彼の眉はハの字に下がっていた。
「大丈夫だ。もう安心しろ」
たったこれだけの言葉。しかし、琴音にとってはこの言葉だけで酷く安堵し、勇気づけられる。
まだ会って間もないというのに、彼の言葉は不思議と琴音を安心させ落ち着かせる。
しかし、琴音にはひとつだけ質問しなければならない事があった。
(貴方は⋯⋯一体どうして)
だが、この問いをかける前に真の冷えきった視線は美和子へと注がれ、びくり、と美和子は小さく肩を震わせた。
「お前は何故琴音をそう邪険にするのだ」
理解が難しい。お互いどちらかに非があるのならばそこを指摘して改善していけばいい。
それでも無理ならばいっそ極力関わらないと割り切れば良い。
関係など、そうやって作り上げていけばいいものを。
しかし、この2人のここまで一方的な関係は最早異様、と一言では表しきれない。
「彼女の傷んだ髪、破れ、汚れた衣類、痩せこけ、痣だらけの身体。お前は一体今まで何をしてきたのだ?」
今琴音へ視線を移しても、彼女の腕や顔は赤く腫れ上がり、とても痛々しく、それを見ると真は怒りが沸き立つ。
真は静かに問うが、声音は完全に冷えきっており、段々と声には凄みが増していく。
「⋯⋯っ」
それに伴い美和子の顔はみるみるうちに血の気が失せて蒼白になっていき、真は呆れを通り越して鬱陶しさまでも感じた。
「⋯⋯どうしてよ」
しばらくの間黙り込んでいた美和子がふいに口を開く。
「⋯⋯っどうしてアンタみたいなこの土地の領主がこんな娘の為にここに居るのよ!」
叫ぶ美和子に最早自我など残っていなかった。
何者かに裏切られて自分の計画通りに事が運ばず、ましてや突如として眼下に現れた男に平手打ちをくらい無惨な姿を晒すなど言語道断。彼女の自尊心が黙っていなかった。
(嘘⋯⋯)
反対に琴音は今の美和子の吐き捨てたような言葉を聞き、目を見開くと、静かに彼の腕の中から彼の顔を覗き込む。
(真さんが⋯⋯この土地の領主、様?)
さすがの琴音でも、顔と名前は知らなくともこの家の使用人達の風の噂を耳にした事が以前あった。
その内容は、この土地の領主は簡単に部下や、しまいには市民までもを切り捨てる残虐かつ無慈悲な冷酷領主である、というものだった。
しかし、今琴音の目の前にいる真は噂とはかけ離れている存在であった。
もし仮に彼がそうだとすれば、琴音を助ける意味が分からず、美和子と一緒に殺されていてもおかしくはない筈であった。
0
あなたにおすすめの小説
兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした
鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、
幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。
アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。
すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。
☆他投稿サイトにも掲載しています。
☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。
【完結】何故こうなったのでしょう? きれいな姉を押しのけブスな私が王子様の婚約者!!!
りまり
恋愛
きれいなお姉さまが最優先される実家で、ひっそりと別宅で生活していた。
食事も自分で用意しなければならないぐらい私は差別されていたのだ。
だから毎日アルバイトしてお金を稼いだ。
食べるものや着る物を買うために……パン屋さんで働かせてもらった。
パン屋さんは家の事情を知っていて、毎日余ったパンをくれたのでそれは感謝している。
そんな時お姉さまはこの国の第一王子さまに恋をしてしまった。
王子さまに自分を売り込むために、私は王子付きの侍女にされてしまったのだ。
そんなの自分でしろ!!!!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる