その香り。その瞳。

京 みやこ

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(111)SIDE:奏太

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 僕を見つめる斗輝の表情が、優しくて、かっこよくて、艶っぽい。
 そんな彼の顔を見つめる僕の心臓の鼓動は、どんどん速く大きくなっていった。
 いつだって斗輝はものすごくかっこいいけれど、今の彼は、これまでになくかっこよく見える。

――なんでかな。もしかして、斗輝のことを、心の底から受け入れることができたからかな。

 理由は分からないけれど、とにかく、斗輝がかっこよすぎて、胸がキュンキュンと切なく締め付けられていた。
 うっとりと見惚れていたら、形のいい目を細めた斗輝が、吐息を感じる距離まで顔を近付けてくる。
「奏太、愛してる」
 幸せそうに微笑む彼を見て、僕も幸せな気持ちになった。
 彼の背中に回していた腕に改めて力を込めた僕は、ギュウッと強く抱き付く。
 胸が苦しくてなにも言えないから、態度で『大好きだ』と伝える。
 すると、斗輝がクスッと笑った。
 その吐息が唇にかかったのを感じた僕は、静かに目を閉じる。

 こうして抱き合っているのもいいけれど、直接、彼の体温を感じたい。
 彼の想いを、体で受け止めたい。
 キスをされたい。
 大きな手で全身を愛撫されたい。
 逞しい彼のペニスで奥まで貫かれたい。
 
 東京に出てくるまで性的な欲求がかなり薄かった僕だけど、斗輝に出逢ってからは、そういった思いが湧き上がってくる。
 そんな自分の変化が恥ずかしいけれど、大好きなアルファに抱かれたくなるのは、オメガとして自然なことだ。
 頭で考えるよりも先に、僕の心が斗輝を求めているから。 
 温もりがさらに近づいてきたの感じた時、彼の唇が僕の唇に重なった。
 まるで弾力を楽しむかのように、彼は唇を優しく何度も押し当てては離す。
 たまにチュっと音を立てて啄まれるのは、なんだか妙に照れくさい。
 だけど、そういう音が耳に入るたび、快感が高まっていく。
「ん……」
 僕の顔が恥ずかしさとは違う感覚で熱くなり始めると、思わず吐息を零してしまう。
 すると斗輝は強めに唇を押し当て、次いで舌を僕の口内へと侵入させた。
 ゆっくりと入ってきた肉厚な舌は、まだ縮こまっている僕の舌にユルリと絡み付く。まるで、怯える僕を宥めるかのように。
 斗輝とこういう関係になって散々抱かれているというのに、はじめに交わすキスはちょっと緊張する。
 この段階では意識がはっきりしているから、やたらと照れくさいのだ。
 そんな僕の様子を、斗輝はけして馬鹿にすることはない。
 いったん舌を後退させた彼が、クスッと小さく笑う。
「奏太、可愛い」
 こんな風にいつも言ってくれるから、僕は変に背伸びすることも我慢することもなく、ありのままの自分でいられる。
 それが安心感へと繋がり、時間を追うごとに僕の心も体も次第に解れていった。
 僕は肩の力を抜き、ゆっくりと息を吐く。
 ソッと目を開けると、笑顔を浮かべながら僕を見つめている斗輝と視線が合う。
 好きな人に見られることは嫌ではないものの、こんなにも間近でじっくり見られると、もぞもぞと落ち着かない気分になる。
「……あまり、ジッと見ないでください」
「なぜだ?」
 緩やかに口角を上げている彼は、軽く首を傾げた。
 そんな些細な仕草さえかっこくよくて、僕の心臓はさらにドキドキと鼓動を速める。
「なぜって……、恥ずかしいですし。僕の顔なんて、見慣れているでしょう?」
 恥ずかしくて視線をウロウロさせながら答えると、「奏太」と名前を呼ばれた。
 それでも視線を彷徨わせていたら、穏やかな声でもう一度「奏太」と呼ばれる。
 オズオズと視線を戻すと、チュッと音を立ててキスをされた。
「時を追うごとに、奏太のことが好きになるんだ。それに、奏太の表情は、一瞬ごとに変わる。だから、見慣れることはない」
 優しい声で宣言され、僕の顔はまた熱を上げる。
 とっさに顔を逸らそうとしたけれど、それより先に彼がキスをした。
 さっきとは違い、肉厚の舌を僕の舌にきつく絡めてくる。
 何度も巻き付けては、そのたびにクチュリという水音を立てる。
 その音にいまだ慣れていない僕は、ギュッと目を閉じて斗輝にしがみついていた。
 僕が体を縮こまらせてしまうのは単なる羞恥心が原因だと分かっている彼は、遠慮することなく、僕の口内を舌でたっぷりと舐(ねぶ)る。
 少しでも僕が顔を逸らすと、上から押さえつけるように強く唇を重ね、こちらの動きを封じようとした。
 僕の体に馬乗りになっている彼のほうが体勢的に有利なので、斗輝は自分の唇を容赦なく押し付け、舌で僕の口内を余すところなく愛撫している。
 そんな情熱的なキスを受け続けているうちに、僕の中にある羞恥心が徐々に薄れていった。
「ん、ふ……」
 彼の舌が僕の舌に激しく巻き付いた時、鼻にかかった小さな喘ぎが僕の口から洩れた。
 自分で聞いても甘いと感じるその声に、僕のことを僕以上に理解している斗輝が気付かない訳がない。
 彼は声を出さず、フッと短く笑った。
 それからしばらく舌を絡め合うキスをしてから、斗輝はゆっくりと顔を離していった。
 彼の唇が離れると、頭の芯も体も蕩け始めた僕は、熱のこもった呼気をゆっくりと吐き出す。
 身体的には苦しくないけれど、斗輝のことを好きだという気持ちが胸に募り、精神的に苦しくて切ない。
「は、あ……」
 もう一度呼気を吐き出した僕のあご先に、斗輝が唇を押し当てる。
 彼の唇は少しずつ移動して、僕の首筋や左右の耳たぶを啄み始めた。
 穏やかな愛撫でも、敏感な部分はすぐに快感を拾い始める。僕はピクン、ピクンと小刻みに体を震わせながら、喘ぎ声を零していた。
「あ、ん……、んっ……」
 斗輝は僕の肌に唇を這わせながら、僕の服を脱がせていく。
 頭の芯がさらに蕩けた僕は、されるがままに喘ぎ、体を震わせるばかりだ。
 ふと気付いた時には服がすべて脱がされていて、斗輝もすっかり裸だった。

――あれ、いつの間に?

 キョトンとする僕を、全裸の斗輝が長い腕の中に抱き込む。
「どうした? なにか、気になることでもあったか?」
 声をかけながら、彼は僕の頬や鼻先に触れるだけのキスを落とす。
 その感触がくすぐったくて、それと、直に伝わる彼の体温が心地よくて、僕はフニャリと頬を緩ませた。
「服、脱がされているから……」
 わずかに舌っ足らずな口調で答えると、おでこにキスをされる。
「奏太は大人しくキスをされているから、脱がしやすかったぞ」
 フフッと声を出さずに笑う彼の様子に、僕はパチリと瞬きをした。
「これからもずっと、大人しくしていないと、斗輝は僕を抱いてくれなくなるの?」
 僕の意識が完全に蕩けてしまったら、羞恥心を感じることがほとんどないから、彼の言うままに振舞うだろう。
 だけど、意識が残っている間は、どうしたって恥ずかしさが勝ってしまう。
 わざとではないにしても、顔を逸らしらり、身じろぎしたり、時にはジタバタと暴れる可能性もある。
 そうなったら、僕の服を脱がそうとする彼に迷惑が掛かるはず。
 たまになら許されるかもしれないけれど、それがしょっちゅう繰り返されていたら、優しい斗輝でも、そのうちに僕のことを面倒だと感じるかもしれない。
「できるだけ我慢するから……。僕のこと、これからも……」
 最後まで言い切る前に、斗輝が僕の唇を自分の唇で塞いだ。
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