その香り。その瞳。

京 みやこ

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(112)SIDE:奏太

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 僕が言葉の続きを発しようとするたび、斗輝が僕にキスをしてくる。
 おかげで、さっきの言葉が宙ぶらりんのままだ。

――ちゃんと、言わなくちゃ。

 彼にきっちりお願いしておかないと、この先のことが心配でたまらない。
 斗輝は絶対に僕と離れないと言ってくれているものの、わがままを重ねてばかりいたら、優しい彼でも、徐々に僕から離れて行ってしまうのではないか。
 そんな不安が胸にこみ上げ、僕はなおさら言わなくてはと焦ってしまう。
「ん、ん……」
 斗輝の肩を手で押しやりながら、僕は短く声を上げる。
 明らかに喘ぎではないその声に、彼がゆっくりとキスを解いた。
「どうした?」
 至近距離から熱のこもった視線でまっすぐに見つめられ、またしても見惚れてしまう。
 しかし、今はぼんやりしている場合ではないのだ。
「だ、だから……、僕のこと、これからも、その……、抱いて、ほしい……」
 ポツリ、ポツリと言葉を途切れさせつつお願いしたら、彼の形のいい目が僅かに見開かれた。
「奏太にお願いされなくても、この先もずっと、奏太を抱くぞ。それこそ、奏太が『もう、無理』と泣き出しても、やめないかもしれない。歳を重ねていっても、俺の体が動く限り、ずっとだ」
 言い終えた彼の腕が、痛いくらいに僕を抱き締める。
「いつも話しているように、奏太は我慢をする必要はない。なにも気にすることなく、思うままに振舞っていいんだぞ」
 響きがよくて、優しい声が、僕の左耳に届いた。
 それでも、僕は心の底から安心できない。
「……でも、面倒じゃないの?」
 小さな声で問い返したら、耳にやんわりとキスをされる。
「面倒とは?」
 不思議そうに尋ねてくる声音に、僕はオズオズと答える。
「だって……、服を脱がせる時、ジッとしていたほうがいいでしょ?」
 すると、僕の左耳がガブリと噛まれた。
 血が出るほどではないはずだけど、けっこう痛い。噛まれた部分が、ジンワリと熱をもった。
「……斗輝?」
 彼の名前を呼んだら、噛まれた部分にチュッとキスをされる。
「それこそ、奏太が気にすることじゃない」
 チュッチュッと何度もキスをされ、僕はくすぐったくてヒュッと肩を竦めた。
 すると、斗輝が顔の位置をずらし、左肩の丸みにキスを落とす。
「でも、気になるよ。僕、ほんの少しでも、斗輝に迷惑かけたくないから……」
 くすぐったさに肩を竦めていると、彼がクスッと笑った。
「これも数え切れないほど話しているが、俺は奏太の言動を迷惑だと感じたことは、一度もないぞ。どんな反応でも、喜びでしかないからな。それに……」
 ここで言葉を区切った斗輝は、またクスッと笑う。
「奏太がどんなに動き回っても、俺は絶対に奏太の服を脱がす自信がある」
「……へ?」
 パチリと瞬きをした僕は頭を起こし、少し下にいる彼を見た。
 斗輝は目を細め、楽し気に笑っている。
 僕が首を傾げたら、彼は口角をさらに上げた。
「奏太は俺の愛撫を受けているうちに、グズグズに蕩けるからな。そうなると、俺は奏太を自由にできる。それと、中途半端に服を着たままのセックスも、また興奮できそうだ。つまり、俺はなに一つ面倒に思うことがない」
 ニンマリと笑う彼を見て、僕は安心するやら、恥ずかしいやら、複雑な表情を浮かべる。
 服を着たままといっても、さすがにまったく脱がない訳ではないだろう。
 たとえば、Yシャツのボタンは外すけれど、袖は通したままとか。下半身だけ、脱いだ状態とか。
 理解ができないということではないけれど、今までにそういった経験がないので、ものすごく恥ずかしい気がする。

――でも、斗輝からすると、恥ずかしがっている僕は可愛いってことだし。

 それなら、彼の言う通り、多少乱れながらも服を着たまま抱かれたほうが、斗輝の望み通りになる。
 斗輝は『迷惑をかけられていない』、『面倒に思ったことがない』と言ってくれるけれど、絶対にそんなはずはない。

――恥ずかしいけど、斗輝がそれで興奮するなら。

 お詫び代わりに、いつかその願いを叶えてあげようと思った矢先、首筋を強めに吸い上げられた。
 チリッとした小さな痛みが肌の上を走ったので、キスマークが付けられたのだろ。
 パッとそちらに視線を向けたら、ジッとこっちを見ている彼と目が合う。
 大抵は穏やかで大人びた表情を見せる彼が、珍しく拗ねたような表情を浮かべていた。
「あ、あの……」
 声をかけたら、彼がボソリと呟く。
「俺と一緒にいるのに、考え事をされるのは寂しい」
 斗輝はそう言って、僕の肩口に顔を埋めた。
 それから、その辺りに何度も唇を押し当てている。まるで、子供が母親にかまってほしいような甘え方だと思う。
 そんな彼の様子にほんの少し驚くけれど、なんだか可愛いと感じた。 
 僕は彼の背中に手を回し、ソッと抱き締める。
「いえ、それは……、確かにちょっと考え込んでいましたけど、でも、斗輝のことですし……」
 そう答えたら、顔を上げた彼に唇を塞がれた。
 舌も入ってきて、クチュリという音を立てて僕の口内を掻き混ぜてくる。
 とたんに、甘い疼きが体の奥から生まれてきた。
「んっ、ふ……」
 くぐもった声を零したら、彼の舌がゆっくりと後退していった。
「いくら俺のことを考えていたとしても、目の前にいる俺を見てくれないか」
 改めて、斗輝が僕を見つめる。
 真剣で、艶っぽくて、寂し気な視線に、僕はコクンと頷き返す。
 すると、彼の表情がフッと緩んだ。
「奏太、可愛い」
 いつもの様子に戻った斗輝は元の位置に戻り、僕の右乳首をペロリと舐める。
「あっ」
 短く喘いだ僕の肩がピクンと震えた。
 その反応に、吐息だけで笑った彼は、右手を僕の左胸に伸ばしてくる。
 そして、まだ極小さな粒である乳首を親指の腹でゆっくりと転がし始めた。
 優しい愛撫とはいえ、敏感な乳首を両方弄られ、腰の奥がジンジンと疼く。
「んん……」
 鼻にかかった甘い喘ぎ声が、僕の口から零れた。
 斗輝はまたしても吐息だけで僅かに笑うと、右の乳首を下から大きく舐め上げる。舌全体を強めに押し付け、ゆっくり何度も何度も。
 舌は体の中でも柔らかい部分だけど、ざらついている表面のおかげで、彼の舌が動くたびに快感をつぶさに拾い上げていた。
 舌での愛撫でさえ気持ちいいのだから、指で捏ね回されている左乳首は、さらに快感を拾っている。
「は、あっ……」
 弄られている乳首はもちろん妖しく疼き、腰の奥の疼きは徐々に大きくなっていった。
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