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(155)SIDE:奏太
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洗面所に連れてこられた僕は、そこに置かれている椅子にソッと下ろされた。
籐でできた椅子には背もたれがあり、また、しっかりした作りなので、僕は安心して身を任せる。
お風呂で斗輝と盛り上がってしまった僕がフニャフニャになってしまうこともあるため、こういった椅子が用意されているのである。
そして、今朝のように、抱き潰された時にも活躍する。
まだ頭がまともに働いていないため、ここに座らされても、特に羞恥心は湧き上がってこない。
僕はヘラリと頬を緩め、洗面台でタオルをお湯で湿らせている彼の背中を眺めていた。
――かっこいいなぁ。
なにをしているわけでもないし、Tシャツを纏っただけの背中だけど、つい見惚れてしまう。
広くて頼りがいのある背中で、おまけに適度に付いた筋肉が腕を動かすたびに動く様子は、ずっと見ていたいとさえ思える。
ところが、斗輝はクルリとこちらへと向き直ってしまった。
「あ……」
つい零れてしまった声には、残念な響きがあった。
「奏太?」
そんな僕の様子を不思議に感じた彼が僕の正面に立ち、軽く首を傾げてみせる。
「どうした?」
空いているほうの手で、彼が僕の髪を静かに撫でてくれる。
伝わってくる穏やかな温もりに、僕は苦笑いを浮かべた。
「斗輝の背中がかっこいいので、もっと見ていたかったなって」
こんなことでしょんぼりしてしまった自分が情けないけれど、そのくらい、斗輝の背中はかっこよかったのだ。
正直に話したことで呆れられてしまうかとほんの少し心配になったものの、それは杞憂だった。
彼は目を細め、綺麗な笑みを浮かべる。
「奏太にそう言ってもらえて、すごく嬉しい。鍛えた甲斐があったな」
そう言いながら斗輝は前屈みになり、僕のおでこにチュッと音を立てて小さなキスを落とした。
「さてと、顔を拭こうか」
そう言って、優しい力加減で僕の顔を拭いてくれる。
ただタオルで擦るのではなく、親指の腹を使ってマッサージしてくれるから、本当に気持ちがいい。
おまけに、ホカホカのタオルも気持ちがいいので、また眠くなってきた。
顔からタオルが退けられたタイミングで、僕はコクンと舟をこいでしまう。
ガクリと首が落ちた感覚に驚いて、ハッと目を見開く。
――なんか、もう、幼稚園児みたいだよね。
気恥ずかしくて、ヘヘッと笑って誤魔化す。
すると、なぜか斗輝の眉尻が僅かに下がった。
「だいぶ疲れているみたいだな。いくら奏太にねだられたとはいえ、やはり、もう少し冷静になるべきだった。毎回反省するんだが、うまくいかないものだな……」
表情を曇らせる彼に向って、僕は怠い腕を伸ばす。
なんとか斗輝の首裏に腕がかかると、キュッと抱き寄せた。
「たしかに疲れていますよ。今朝は、今までにないくらい、体がだるいです。でも、それって、斗輝がたっぷり僕を愛してくれた証拠なんですからね」
そして、僕は彼の左頬に唇を押し当てる。
「僕はこれっぽっちも怒っていません。それどころか、幸せで胸がいっぱいです。あと、僕のことを気遣ってくれる優しい斗輝が大好きです」
今度は、僕がチュッと音を立ててキスをした。
「斗輝は王様みたいな存在のアルファなのに、どんな時でも一番に僕のことを考えてくれますよね。わがままを言うな、甘えるなって叱るどころか、もっとわがままを言え、甘えろって、逆のことを言ってきますし。僕の家族は、そんな斗輝を安心して受け入れてくれるでしょうね。僕の地元に帰る日が、すっごく楽しみです」
もう一度キスをしたら、彼の左腕が背中に回される。
「俺も、すごく楽しみにしてる。そろそろ、日程について考えないとな」
見なくても彼がどんな顔をしているのか分かるくらい、声が明るく弾んでいる。
「そうですね。あ、お土産も考えないと。みんな、食べることが好きなので、美味しいものを買っていってあげたいですね」
彼につられて、僕の声もウキウキと弾む。
「東京は美味しくておしゃれな食べ物が多いので、迷っちゃいますよ」
「朝食を済ませたら、二人で考えよう」
サラリと告げられた『二人で』という言葉に、僕の頬がいっそう緩む。
――これから、ずっと、斗輝と一緒なんだ。
彼と暮らしていくという実感を、僕は改めて噛み締めた。
僕がまだ眠そうにしているので、斗輝が冷凍庫や冷蔵庫の中から温めるだけで食べられるものを取り出し、手早く用意してくれた。
リビングのソファに座ってウトウトしていた僕は、ロ―テーブルにトレイが置かれたコトリという物音でピクンと肩を揺らす。
そんな様子に、斗輝が苦笑している。
「エビプラフだぞ。あと、奏太が好きなコーンポタージュも温めた」
クスクスと笑いながら、彼が僕の右隣に腰を下ろす。
彼は左腕で僕を抱き寄せると、右手に持ったスプーンでピラフを一掬いする。
「奏太、口を開けて」
――腕に力が入らないと言っても、スプーンくらいは持てるんだけどなぁ。
だけど、僕は大人しく口を開け、ピラフを招き入れた。
僕を甘やかすことが楽しみだと言ってのける斗輝なので、ここは彼の好きにさせるべきだろう。
――僕が動けなくなったら斗輝が世話をしてって、そんなことも言ったし。
うっすらと記憶している自分の言動に顔が熱くなるものの、僕は口を動かすことに意識を向けることにした。
噛むたびに、プリプリとしたエビの弾力が味わえる。
また、上品なコンソメの風味がご飯にちょうどいい具合に絡まっていて、バターとの相性も抜群だ。
みじん切りにされた玉ネギの甘みが、いいアクセントになっている。
ゴクンと呑み込んだ僕は、彼にニコッと笑いかけた。
「美味しいです!」
お世辞抜きの言葉に、斗輝も笑顔を返してくれる。
「それはよかった。ほら、もう一口」
差し出されたスプーンを、僕は大きな口を開けて招き入れる。
――ホント、美味しいなぁ。いつか、こういうピラフが僕にも作れたらいいなぁ。
本格的なコックさんが作っているので、僕がどんなに頑張っても、この味には到底辿り着けないのは分かっている。
それでも、斗輝に美味しいと思ってもらえるご飯が作りたいから、ほんの少しでも料理の腕を上げたい。
――そのうち、斗輝にお願いしてみようかな。
料理を教えてくれそうな人を紹介してもらおうと考えながら、僕はモグモグと口を動かした。
籐でできた椅子には背もたれがあり、また、しっかりした作りなので、僕は安心して身を任せる。
お風呂で斗輝と盛り上がってしまった僕がフニャフニャになってしまうこともあるため、こういった椅子が用意されているのである。
そして、今朝のように、抱き潰された時にも活躍する。
まだ頭がまともに働いていないため、ここに座らされても、特に羞恥心は湧き上がってこない。
僕はヘラリと頬を緩め、洗面台でタオルをお湯で湿らせている彼の背中を眺めていた。
――かっこいいなぁ。
なにをしているわけでもないし、Tシャツを纏っただけの背中だけど、つい見惚れてしまう。
広くて頼りがいのある背中で、おまけに適度に付いた筋肉が腕を動かすたびに動く様子は、ずっと見ていたいとさえ思える。
ところが、斗輝はクルリとこちらへと向き直ってしまった。
「あ……」
つい零れてしまった声には、残念な響きがあった。
「奏太?」
そんな僕の様子を不思議に感じた彼が僕の正面に立ち、軽く首を傾げてみせる。
「どうした?」
空いているほうの手で、彼が僕の髪を静かに撫でてくれる。
伝わってくる穏やかな温もりに、僕は苦笑いを浮かべた。
「斗輝の背中がかっこいいので、もっと見ていたかったなって」
こんなことでしょんぼりしてしまった自分が情けないけれど、そのくらい、斗輝の背中はかっこよかったのだ。
正直に話したことで呆れられてしまうかとほんの少し心配になったものの、それは杞憂だった。
彼は目を細め、綺麗な笑みを浮かべる。
「奏太にそう言ってもらえて、すごく嬉しい。鍛えた甲斐があったな」
そう言いながら斗輝は前屈みになり、僕のおでこにチュッと音を立てて小さなキスを落とした。
「さてと、顔を拭こうか」
そう言って、優しい力加減で僕の顔を拭いてくれる。
ただタオルで擦るのではなく、親指の腹を使ってマッサージしてくれるから、本当に気持ちがいい。
おまけに、ホカホカのタオルも気持ちがいいので、また眠くなってきた。
顔からタオルが退けられたタイミングで、僕はコクンと舟をこいでしまう。
ガクリと首が落ちた感覚に驚いて、ハッと目を見開く。
――なんか、もう、幼稚園児みたいだよね。
気恥ずかしくて、ヘヘッと笑って誤魔化す。
すると、なぜか斗輝の眉尻が僅かに下がった。
「だいぶ疲れているみたいだな。いくら奏太にねだられたとはいえ、やはり、もう少し冷静になるべきだった。毎回反省するんだが、うまくいかないものだな……」
表情を曇らせる彼に向って、僕は怠い腕を伸ばす。
なんとか斗輝の首裏に腕がかかると、キュッと抱き寄せた。
「たしかに疲れていますよ。今朝は、今までにないくらい、体がだるいです。でも、それって、斗輝がたっぷり僕を愛してくれた証拠なんですからね」
そして、僕は彼の左頬に唇を押し当てる。
「僕はこれっぽっちも怒っていません。それどころか、幸せで胸がいっぱいです。あと、僕のことを気遣ってくれる優しい斗輝が大好きです」
今度は、僕がチュッと音を立ててキスをした。
「斗輝は王様みたいな存在のアルファなのに、どんな時でも一番に僕のことを考えてくれますよね。わがままを言うな、甘えるなって叱るどころか、もっとわがままを言え、甘えろって、逆のことを言ってきますし。僕の家族は、そんな斗輝を安心して受け入れてくれるでしょうね。僕の地元に帰る日が、すっごく楽しみです」
もう一度キスをしたら、彼の左腕が背中に回される。
「俺も、すごく楽しみにしてる。そろそろ、日程について考えないとな」
見なくても彼がどんな顔をしているのか分かるくらい、声が明るく弾んでいる。
「そうですね。あ、お土産も考えないと。みんな、食べることが好きなので、美味しいものを買っていってあげたいですね」
彼につられて、僕の声もウキウキと弾む。
「東京は美味しくておしゃれな食べ物が多いので、迷っちゃいますよ」
「朝食を済ませたら、二人で考えよう」
サラリと告げられた『二人で』という言葉に、僕の頬がいっそう緩む。
――これから、ずっと、斗輝と一緒なんだ。
彼と暮らしていくという実感を、僕は改めて噛み締めた。
僕がまだ眠そうにしているので、斗輝が冷凍庫や冷蔵庫の中から温めるだけで食べられるものを取り出し、手早く用意してくれた。
リビングのソファに座ってウトウトしていた僕は、ロ―テーブルにトレイが置かれたコトリという物音でピクンと肩を揺らす。
そんな様子に、斗輝が苦笑している。
「エビプラフだぞ。あと、奏太が好きなコーンポタージュも温めた」
クスクスと笑いながら、彼が僕の右隣に腰を下ろす。
彼は左腕で僕を抱き寄せると、右手に持ったスプーンでピラフを一掬いする。
「奏太、口を開けて」
――腕に力が入らないと言っても、スプーンくらいは持てるんだけどなぁ。
だけど、僕は大人しく口を開け、ピラフを招き入れた。
僕を甘やかすことが楽しみだと言ってのける斗輝なので、ここは彼の好きにさせるべきだろう。
――僕が動けなくなったら斗輝が世話をしてって、そんなことも言ったし。
うっすらと記憶している自分の言動に顔が熱くなるものの、僕は口を動かすことに意識を向けることにした。
噛むたびに、プリプリとしたエビの弾力が味わえる。
また、上品なコンソメの風味がご飯にちょうどいい具合に絡まっていて、バターとの相性も抜群だ。
みじん切りにされた玉ネギの甘みが、いいアクセントになっている。
ゴクンと呑み込んだ僕は、彼にニコッと笑いかけた。
「美味しいです!」
お世辞抜きの言葉に、斗輝も笑顔を返してくれる。
「それはよかった。ほら、もう一口」
差し出されたスプーンを、僕は大きな口を開けて招き入れる。
――ホント、美味しいなぁ。いつか、こういうピラフが僕にも作れたらいいなぁ。
本格的なコックさんが作っているので、僕がどんなに頑張っても、この味には到底辿り着けないのは分かっている。
それでも、斗輝に美味しいと思ってもらえるご飯が作りたいから、ほんの少しでも料理の腕を上げたい。
――そのうち、斗輝にお願いしてみようかな。
料理を教えてくれそうな人を紹介してもらおうと考えながら、僕はモグモグと口を動かした。
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