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(159)SIDE:奏太
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僕に料理を教えてくれる人については、とりあえず納得した。
あとは、直接会ってみてから考えようと思う。
話をしたこともない人のことを怖がっていたら、なにも始まらない。
それに、澤泉家の料理を任されている人になら、こちらから頭を下げてでも教わりたかった。
斗輝のお母さんは僕みたいに一般家庭で育った人だから、子供の世話は極力自分でやりたいと言ったそうだ。
乳母やメイドに世話を任せるという感覚は、結婚して澤泉姓を名乗ることになっても、簡単に抜けないものだろう。
きっと、僕の周りにいたお母さんたちのように、『我が子には、手作りの料理を』という考えの持ち主に違いない。
お金や人を使うことに躊躇しないオメガだったら、たぶん、斗輝のお父さんは選ばなかったはず。
斗輝の言動を見ていたら、それはしみじみと感じることだ。
とはいえ、斗輝がこれまでお母さんの手料理ばかり食べていたということはないだろう。
オメガには避けられない発情期がある。
自分が自分でなくなってしまうほど欲情し、まともに動けないどころか、考えることもできなくなるのを、僕は身をもって経験した。
人によって発情期間は変わるみたいだけど、だいたい一週間前後はどうにもならない状態が続くそうだ。
今は効果が高くて副作用が少ない抑制剤が出回っているものの、よほどの事情がない限り、抑制剤の使用はお父さんが許さないに決まっている。
お父さんは自分の体で、お母さんの発情期を対処するのだ。アルファのプライドと、番に対する愛情ゆえに。
そうなると、その期間はお母さんが動けないわけだから、必然的に斗輝は料理人の作ったものを口にすることになる。
斗輝の成長を支えた人に料理を教わりたいと思ったのは、この理由が大きかった。
お母さんの味も、澤泉家の料理人の味も、斗輝にはなじみのあるものだろう。
美味しい上に、斗輝がホッとしてくれるような料理が作れたら、それが僕の支えや強さとなる。
――僕には人に自慢できるような能力はないけど、一生懸命頑張ることはできるんだ。
「たくさん、料理を教わりたいですねぇ。今から楽しみです」
決意に満ちた笑みを浮かべたら、僕の頬を斗輝が片手で撫でる。
「余計な緊張が抜けたようだな」
彼の顔はホッとしたようであり、寂しそうでもあった。
「斗輝?」
名前を呼ぶと、彼の親指が僕の頬の丸みを辿るように動く。
ゆっくりと円を描くように動かしながら、斗輝が口を開いた。
「奏太にはウチの使用人たちと仲よくしてもらいたいと思っているんだが、それはそれで寂しい気もする」
「寂しいって……」
小さな子供が拗ねているみたいな様子に、僕はクスッと笑ってしまう。
そして、頬にある彼の手に自分の手を重ねた。
「僕が好きな人は、斗輝ですよ。他の人と親しくしても、それは斗輝に接するのとは意味が違います。だって……」
いったん言葉を区切った僕は、彼の唇にソッとキスをする。
「こういうことをしたいって思うのは、斗輝だけですから」
へへッと照れ笑いを浮かべたら、彼の眉根がグッと寄った。
次いで、「ぐ、うぅ……」と、苦しそうな呻き声が斗輝の口から洩れる。
――えっと……、どうしたのかな?
心配になった僕が声を掛ける前に、斗輝が早口で呟く。
「可愛い。奏太が、可愛すぎる。それに、奏太からキスをしてもらえた」
どうやら、呻くほど嬉しかったようだ。
彼の言葉を聞いて安心できたものの、なかなかに恥ずかしい。
しかも、斗輝がギュウギュウと抱き締めてくるものだから、お互いの下半身がピタリと密着し、僅かに芯を持った彼のペニスが僕に当たっているのだ。
おかげで、恥ずかしさが倍増する。
――アルファの性欲って、底なしだなぁ。
夕べ、彼に目いっぱい抱いてもらったので、こうして斗輝とくっついていても、幸福感は湧き上がるけれど、性欲がこみ上げることはない。
僕はこれ以上彼のペニスを刺激してしまわないように、僕は自分の腰をソッと引く。
斗輝が自ら口にした『抱き合ってキスをするだけ』という言葉の通り、性的なことを仕掛けられることはなかった。
時々、啄むような軽いキスをして、微笑みを交わし、他愛のないおしゃべりを楽しむ時間を過ごしている。
何度目かのキスを交わした時、ふいに斗輝が言った。
「そうだ。奏太の家族のことを教えてくれないか? ご挨拶する時に失礼がないよう、事前に情報がほしいんだ」
「特に話すようなことはないと思うんですけどねぇ」
真剣な目をしている彼を見て、僕は小さく苦笑を零す。
――むしろ、僕の家族のほうが斗輝に失礼なことをしそうだけど。
なにしろ、住民ほとんどが大らかで遠慮のない人たちだ。
一葉先生がやって来た時、僕たち住民よりも、先生のほうが戸惑っていたのは、記憶にはっきりと残っている。
相手がアルファだろうとオメガだろうと、皆、物怖じしないのだ。
――でも、斗輝は一葉先生や二葉先生とちょっと違うし。
二人ともある程度年齢と経験を重ねていることもあって、常に落ち着いた雰囲気を醸し出している。
おかげで、初めて会った時も、僕は必要以上に緊張しなかった。
だけど、斗輝はアルファの中でも特別な存在らしく、先生たちとは違うオーラのようなものを放っているのだ。
まさに、王様という感じである。
そんな彼が、僕の家族にわざわざ気を遣うこともないと思うのだが。
――それだけ、僕のことや僕の家族を大事にしたいっていう気持ちの表れだよね。僕との結婚を、本気で考えているってことだよね。
僕は彼の気遣いに、フニャッと頬を緩めた。
あとは、直接会ってみてから考えようと思う。
話をしたこともない人のことを怖がっていたら、なにも始まらない。
それに、澤泉家の料理を任されている人になら、こちらから頭を下げてでも教わりたかった。
斗輝のお母さんは僕みたいに一般家庭で育った人だから、子供の世話は極力自分でやりたいと言ったそうだ。
乳母やメイドに世話を任せるという感覚は、結婚して澤泉姓を名乗ることになっても、簡単に抜けないものだろう。
きっと、僕の周りにいたお母さんたちのように、『我が子には、手作りの料理を』という考えの持ち主に違いない。
お金や人を使うことに躊躇しないオメガだったら、たぶん、斗輝のお父さんは選ばなかったはず。
斗輝の言動を見ていたら、それはしみじみと感じることだ。
とはいえ、斗輝がこれまでお母さんの手料理ばかり食べていたということはないだろう。
オメガには避けられない発情期がある。
自分が自分でなくなってしまうほど欲情し、まともに動けないどころか、考えることもできなくなるのを、僕は身をもって経験した。
人によって発情期間は変わるみたいだけど、だいたい一週間前後はどうにもならない状態が続くそうだ。
今は効果が高くて副作用が少ない抑制剤が出回っているものの、よほどの事情がない限り、抑制剤の使用はお父さんが許さないに決まっている。
お父さんは自分の体で、お母さんの発情期を対処するのだ。アルファのプライドと、番に対する愛情ゆえに。
そうなると、その期間はお母さんが動けないわけだから、必然的に斗輝は料理人の作ったものを口にすることになる。
斗輝の成長を支えた人に料理を教わりたいと思ったのは、この理由が大きかった。
お母さんの味も、澤泉家の料理人の味も、斗輝にはなじみのあるものだろう。
美味しい上に、斗輝がホッとしてくれるような料理が作れたら、それが僕の支えや強さとなる。
――僕には人に自慢できるような能力はないけど、一生懸命頑張ることはできるんだ。
「たくさん、料理を教わりたいですねぇ。今から楽しみです」
決意に満ちた笑みを浮かべたら、僕の頬を斗輝が片手で撫でる。
「余計な緊張が抜けたようだな」
彼の顔はホッとしたようであり、寂しそうでもあった。
「斗輝?」
名前を呼ぶと、彼の親指が僕の頬の丸みを辿るように動く。
ゆっくりと円を描くように動かしながら、斗輝が口を開いた。
「奏太にはウチの使用人たちと仲よくしてもらいたいと思っているんだが、それはそれで寂しい気もする」
「寂しいって……」
小さな子供が拗ねているみたいな様子に、僕はクスッと笑ってしまう。
そして、頬にある彼の手に自分の手を重ねた。
「僕が好きな人は、斗輝ですよ。他の人と親しくしても、それは斗輝に接するのとは意味が違います。だって……」
いったん言葉を区切った僕は、彼の唇にソッとキスをする。
「こういうことをしたいって思うのは、斗輝だけですから」
へへッと照れ笑いを浮かべたら、彼の眉根がグッと寄った。
次いで、「ぐ、うぅ……」と、苦しそうな呻き声が斗輝の口から洩れる。
――えっと……、どうしたのかな?
心配になった僕が声を掛ける前に、斗輝が早口で呟く。
「可愛い。奏太が、可愛すぎる。それに、奏太からキスをしてもらえた」
どうやら、呻くほど嬉しかったようだ。
彼の言葉を聞いて安心できたものの、なかなかに恥ずかしい。
しかも、斗輝がギュウギュウと抱き締めてくるものだから、お互いの下半身がピタリと密着し、僅かに芯を持った彼のペニスが僕に当たっているのだ。
おかげで、恥ずかしさが倍増する。
――アルファの性欲って、底なしだなぁ。
夕べ、彼に目いっぱい抱いてもらったので、こうして斗輝とくっついていても、幸福感は湧き上がるけれど、性欲がこみ上げることはない。
僕はこれ以上彼のペニスを刺激してしまわないように、僕は自分の腰をソッと引く。
斗輝が自ら口にした『抱き合ってキスをするだけ』という言葉の通り、性的なことを仕掛けられることはなかった。
時々、啄むような軽いキスをして、微笑みを交わし、他愛のないおしゃべりを楽しむ時間を過ごしている。
何度目かのキスを交わした時、ふいに斗輝が言った。
「そうだ。奏太の家族のことを教えてくれないか? ご挨拶する時に失礼がないよう、事前に情報がほしいんだ」
「特に話すようなことはないと思うんですけどねぇ」
真剣な目をしている彼を見て、僕は小さく苦笑を零す。
――むしろ、僕の家族のほうが斗輝に失礼なことをしそうだけど。
なにしろ、住民ほとんどが大らかで遠慮のない人たちだ。
一葉先生がやって来た時、僕たち住民よりも、先生のほうが戸惑っていたのは、記憶にはっきりと残っている。
相手がアルファだろうとオメガだろうと、皆、物怖じしないのだ。
――でも、斗輝は一葉先生や二葉先生とちょっと違うし。
二人ともある程度年齢と経験を重ねていることもあって、常に落ち着いた雰囲気を醸し出している。
おかげで、初めて会った時も、僕は必要以上に緊張しなかった。
だけど、斗輝はアルファの中でも特別な存在らしく、先生たちとは違うオーラのようなものを放っているのだ。
まさに、王様という感じである。
そんな彼が、僕の家族にわざわざ気を遣うこともないと思うのだが。
――それだけ、僕のことや僕の家族を大事にしたいっていう気持ちの表れだよね。僕との結婚を、本気で考えているってことだよね。
僕は彼の気遣いに、フニャッと頬を緩めた。
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