誕生日にほしいものは

京 みやこ

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(7)シリル、可愛い、大好き

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「あの時の……、子犬の飼い主が、ルド?」

 ポツリと呟くシリルに、エディフェルドが頷いてみせる。

「うん。泣き顔のシリルに一目惚れして、律儀なシリルに惚れ直したんだ。あれからずっと、シリル一筋だよ」 

 きっぱりと告げるエディフェルドだが、シリルはその言葉をすんなりと信じることはできない。

「一筋って……。そんなの、よく分からないし……」

 弱々しく呟くシリルに、エディフェルドはニッコリと笑いかけた。

「同性のシリルを伴侶に迎えるために、両親を説得して。僕の代わりに跡を継いでもらう弟を説得して。あと、シリルのお父さんとお母さんも説得した」

「……は? 俺の、両親?」

 シリルが首を傾げると、エディフェルドは大きく頷く。

「そうだよ。シリルの家族が反対したら、僕たち結婚できないし。それでね、僕がシリルのことを成人になるまで好きでいたなら交際を認めるって、シリルのお父さんに言われたんだ」



――なんだ、それ!



 初耳。

 寝耳に水。

 青天の霹靂。

 藪から棒どころか、巨大な丸太が飛び出してきた。

 自分の知らないところで、エディフェルドと父がそんな話をしていたとは。

 それ以上に、十歳の時にはすでにシリルと結婚すると決めていたエディフェルドに驚く。



――なんか、もう、本当に意味が分からない……。



 己の理解を超えた事態に、シリルの魂が抜けそうになっていた。

 言葉を失っているシリルに苦笑を向け、エディフェルドがなおも話を続ける。

「あとね、いちばん大事な条件は、シリルが僕を好きになってくれたらっていうこと。それはシリルのお父さんとお母さんに、何度も何度も念を押されたよ」

 勝手に話をまとめた両親を恨みそうになったが、肝心な部分は抑えてくれていたことに、シリルは両親への気持ちをとりあえずは落ち着かせた。

 これまでよりもいくぶん表情をやわらげたシリルを可愛いと思いつつ、エディフェルドは口を開く。

「それでね、シリルを注意深く観察していたら、僕のことを憎からず思ってくれているのが分かったんだ。もちろん、友情以上の意味ってことでね。友達に対しては、ずいぶんと意味深な表情を浮かべている時もあったし」

 それを聞いて、シリルはいたたまれなくなった。



 自分の気持ちは、完璧に隠せていると思った。

 いつだって、『友達』の顔ができていると思っていた。

 それがまったく無意味だったことに、全身の力が抜けていく。



 なにも言えなくなっているシリルとは反対に、エディフェルドの話は止まらない。

「でもね、シリルは自分の気持ちを言葉にしてくれないし、態度ではっきり示すこともない。嫌われていないのは分かっていたけど、ヘタに踏み込んだら、シリルは逃げてしまいそうだし。それで、出方を窺っていたところだったんだけど。シリルの寝言を聞いて、『これは、行くしかない!』って思ったんだ」

 ここでようやくシリルが口を開く。

「……俺の、寝言?」

 その言葉に、エディフェルドは笑みを深めた。

「うん。昨日、本を読んでいる最中に、シリルは寝ちゃったでしょ。その時『ルド、好き……』って言ったんだよ。そこで、両想い決定だなって確信した」

「……は?」

 ふたたびシリルは言葉を失う。



 エディフェルドが言うように、シリルは居眠りしてしまった。エディフェルドを諦めることに苦心しており、このところ夜はなかなか寝られなかったのだ。

 まさか、居眠りの最中に秘めていた想いを当の本人に伝えていたとは。



――これは、恥ずかしい……。恥ずかしすぎる!



 直接告白するよりも、やたらと照れる。

 シリルの脳天からは、蒸気が激しく噴き出しそうになった。

 顔を真っ赤に染めて忙しなく視線をさまよわせているシリルに、エディフェルドがゆっくりと顔を近付けていく。

「でもさ、起きている時のシリルは、やっぱり僕のことを避けようとしているし。今日も僕を追い返そうとしたし。だから、いい加減、はっきりさせたほうがいいかと思って。ということで、いいよね?」

「……えっ!? ん、んっ」

 シリルが反論する前に、エディフェルドは自身の唇でシリルの唇を塞いでしまった。







 体格でも身長でも腕力でもエディフェルドには負けているというのに、上からのしかかられていては、シリルになす術すべはない。

 おまけに混乱が極まり、全身が石のように硬直していた。

 シリルが動けないのをいいことに、エディフェルドは思う存分、唇を押し付けている。

 八年越しの想いが実り、興奮を抑えきれないのだ。

 唇同士を重ねるだけでは飽き足らず、舌をシリルの口内へと忍び込ませたエディフェルドは、自分のものよりもやや肉が薄い舌にねっとりと絡みつかせた。

 薄く目を開けたエディフェルドの視界に、シリルの顔がぼやけて映る。

 それでも、ギュッときつく目を閉じているシリルの顔がとても可愛いものだと感じた。 



――ああ、可愛い。シリル、可愛い、大好き。



 こみ上げる愛おしさのまま、エディフェルドは深く激しい口付けを繰り返す。 

 やがて、シリルが苦し気な呻き声を小さく漏らしたことに気付いた。

 名残惜しいが、エディフェルドは口付けを解く。

「シリル?」

 真っ赤な顔のシリルは泣きそうな顔で、浅い呼吸を繰り返していた。

「大丈夫?」

 エディフェルドが熟したリンゴのような頬を両手で包み込んでやると、シリルが睨み付ける。

「大丈夫、じゃない……。これじゃ、息ができないだろ……」

 涙目でむくれるシリルが、エディフェルドの目にはとてつもなく可愛らしく映る。

 シリルの頬を優しく撫でながら、「ごめんね」と苦笑まじりに謝った。

「ずっと、ずっと、想い続けたシリルがやっと僕の恋人になってくれたのが嬉しくて、興奮しちゃった」

 すると、シリルの顔が一段と赤味を増す。

「こ……、恋人……?」

 呆然と呟くシリルの鼻先に、エディフェルドはチュッと音を立てて口付けを落とす。

「うん。僕とシリルは、晴れて恋人同士だよ。もう、嬉しくて、嬉しくて。ねぇ、もっと口付けしてもいい?」

 問いかけておきながら答えを待つつもりはないエディフェルドが、徐々に顔を近付けていく。

 シリルはとっさに自分の唇とエディフェルドの唇に片手を差し込んだ。

「息ができなくて、苦しいから……、これは、嫌だ……」

 真っ赤な顔で囁かれても、エディフェルドにはシリルが嫌がっているようには感じない。 

 むしろ、こちらを煽っているようにさえ見えた。



 とはいえ、ようやく手に入れたシリルに自分の欲望ばかりを押し付けてはいけないのだと、エディフェルドはどうにか踏み留まる。

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