誕生日にほしいものは

京 みやこ

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(12)僕の目には、世界で一番可愛く見えるよ

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「はぁ、あ……、あっ、ん……」

 涙が滲むシリルの視界では、エディフェルドの顔がよく見えない。

 そのことで不安を感じたシリルは、必死に呼びかける。

「ルド……、ルド……、や、ぁ……、ん……、ル、ド……」

 恋人の名前を繰り返し、甘えたような声で喘ぐシリルの様子に、エディフェルドは目を細めた。

「シリル、そろそろイカせてあげるね」

 コクンと力なく頷いたシリルは、唇を震わせながら告げる。

「ルドも……、いっしょに……」

「うん、そうだね。僕もそろそろ限界だしね。また、シリルのナカに出させてもらうよ」

 精液によって腸壁が炎症を起こすことを本で知ったエディフェルドは、その辺りの準備も万全だ。

 炎症を抑える飲み薬と塗り薬は、もちろん用意してある。潤滑油同様、最高品質のものである。

 シリルの額に口付けを落としたエディフェルドは、シリルの性器の先端に右親指の腹を当て、グリグリと擦りつけた。

 これがシリルの反応が一番いいのだ。

 途端にシリルは小刻みに体を震わせ、可愛らしい嬌声を上げ、色っぽく眉根を寄せる。

 そして、エディフェルドの性液を搾り取るかのように、シリルのナカがいやらしくうねっていた。

 それに負けないように、エディフェルドは猛然と腰を振る。

 太くて硬くて長い性器が、ズブッ、ズブッと音なき音を立ててシリルの最奥を容赦なく刺激する。

 エディフェルドの親指はとめどなく溢れる先走りのぬめりを感じ、シリルもいよいよ絶頂を迎えるのだと分かった。

 また、エディフェルド自身にも絶頂の瞬間が駆け足で迫っていることも悟る。

「ほら……、シリル、イって……。蕩けた顔を、間近で見せて……」

 そう囁きながら、人差し指の先でシリルの性器の先端にある孔を刺激してやった。

 十分すぎるほど快感が高められているところにそのような刺激を与えられたら、どうすることもできない。

「ひゃ、あぁっ……!」

 シリルは促されるまま、嬌声と共に三度目の射精を果たした。

 それを追うようにして、エディフェルドの性器がドプリと白濁液を放出する。

 シリルの射精は一回目に比べて勢いも量もなかったが、エディフェルドは一回目と同じくらいである。



――あと何回、この調子で射精できるのかな。ぜひ、シリルに付き合ってもらわなくちゃね。



 ぐったりとしているシリルを抱き締めるエディフェルドは、深緑色の瞳をギラリと輝かせたのだった。







 ゆっくりと己の意識が浮上していく中、シリルは全身を襲う倦怠感を覚えた。

 特に、腰から下の怠さがひどく、まともに歩ける自信がない。



――えっと、なんでだ?



 騎士になるための厳しい訓練を受けているシリルでも、ここまでの倦怠感は経験がない。

 おまけに、あらぬところが腫れぼったいというか、痺れているというか、これまた経験のない感覚である。

 シリルが目を閉じたままぼんやり思考を巡らせていると、ふいにギュッと抱き締められた。

「目が覚めた時にシリルが僕の腕の中にいるなんて、最高に幸せ……」

 喜びがありありと滲む声でしみじみと呟く人物に思い当たり、シリルはシパシパと瞬きを繰り返したのちに目を開ける。

 すぐそばにはエディフェルドの整った顔があり、彼は満面の笑みを浮かべていた。



――いつ見ても、かっこいいよなぁ。



 目を開けたものの思考が動き出していないシリルは、まずそのような感想を抱いた。

 そんなシリルの額、両まぶた、鼻先、両頬、最後に唇へと、エディフェルドが口付けを落とす。

「おはよう、シリル。体の調子はどう?」

 問いかけると同時に、シリルの脳裏には昨日のことが一気に蘇ってきた。



――そうだ、俺、ルドに抱かれたんだ!



 絶対に叶わないと思っていた片想いが実り、ルドに甘く情熱的に求められたことは、けして夢ではなかったのだと、シリルは実感する。

 同時に、猛烈な羞恥心もこみ上げてきた。

 照れくさくて見つめ合っていられなくなったシリルが、パッと身をひるがえす。



 ……つもりだった。



 体がとにかく重くて怠くて、自分の売りである素早さがまるで発揮できなかったのだ。

 しかも、シリルがなにをしようとしているのかを察したエディフェルドが、これまでよりもしっかりとシリルを抱き締めたのである。

「こら、シリル。僕の質問にはまだ答えてもらってないよ」

 エディフェルドがシリルを軽く睨むが、その視線は優しい。

 もぞもぞと動くのがやっとのシリルは、寝返りを打つことができないと悟った。せめてもの照れ隠しに、視線を深く下げる。

 すると、エディフェルドがクスッと笑った。

「照れるシリルは可愛いね」

 その言葉に、シリルの顔がさらにほてる。

「……可愛くない。俺は、平凡な見た目だし」

 拗ねたような呟きに、エディフェルドは頬を緩めた。

「シリルは可愛い。僕の目には、世界で一番可愛く見えるよ」

「……それって、俺が男らしくないっていうことか?」

 先ほどよりもシリルの声が低いのは、彼が不機嫌だからである。

 いや、泣くのを我慢していたからだろう。



 かつての英雄のような騎士を目指すシリルにとって、『可愛い』は誉め言葉ではないのだ。

 いくら、エディフェルドの愛がこもった言葉だとしても。



 俯いたまま黙ってしまったシリルの背中を、エディフェルドは優しく撫でる。

「可愛いって言うのは、見た目に限ったことじゃないよ。ねぇ、シリル。体がつらくないなら、少し話をしようか」

「体は……、ちょっと怠いだけだ。話くらい、問題ない」

 できることなら静かに寝たいところだが、意地っ張りのシリルはそのように答える。

 なにより、エディフェルドに心配をかけたくないという気持ちもあった。

 エディフェルドとしてもゆっくり寝かせてやりたいものの、これからする話が根本的に解決しない限り、二人の関係を長く続けられないし、シリルもおちおち寝ていられないだろうと考えていたのである。

 そして、やや寝ぼけている今なら、シリルが素直に答えてくれるはずだと踏んでのことだった。

 ゆっくりと息を吐いたエディフェルドは、静かに口を開く。

「僕のことを避け続けていた本当の理由、教えてくれないかな」

「……え?」

 そういった話になるとは考えもしなかったシリルは、思わず顔を上げた。

 あぜんとしている彼に、エディフェルドは穏やかな微笑みを向ける。

 ところが、深緑色の瞳に浮かぶ光は鋭いものだった。

「身分の差や跡継ぎのことが気になっていたのは本当だろうけど、シリル自身は、なにが気になっていたの?」

 エディフェルドの目は真剣そのもので、シリルが胸の内を明かすまでは絶対に逃がさないと訴えている。

 その視線に戸惑い、シリルは僅かに息を呑む。

「それは……」

 言葉を区切ったシリルは、迷っていた。





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