誕生日にほしいものは

京 みやこ

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(17)目いっぱい甘やかして可愛がるけど

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 その後もエディフェルドはシリルの口元にせっせと食べ物や飲み物を運ぶ。

 食事というよりは餌付けに近いと、ビクトリオは味付き肉の塊に噛り付きながら心の中で呟く。

 エディフェルドは誰にでも優しく、常に温厚な性格だ。

 だが、『誰にでも公平に』というのは、『誰のことも特別に思っていない』ということでもあると、ビクトリオは学んだ。

 そのエディフェルドがシリルに対してだけは、それこそ人が変わったように独占欲を発揮し、執着心を隠そうともしない。

 今はビクトリオの前でしかそのような振る舞いを見せないが、いずれは二人の関係を公のものにしていくだろう。



 ……と考えたところで、「果たして、そうするのか?」と、ビクトリオは疑問を抱く。



 エディフェルドとしては、むしろ二人の仲を広く知らしめることで、自分に言い寄ってくる者たちを減らしたいのだろう。

 十歳でシリルと出逢ったエディフェルドは、人に厚意を向けられることはよしとしても、好意を向けられることには関心がまったくなかったのだ。

 想いを寄せられたところで、エディフェルドの心にはシリルしか存在していないし、それ以外の者を存在させるつもりもなかったのである。

 とはいえ、成長するにつれてエディフェルドの魅力は増し、言い寄る者たちが格段に増えていったのである。

 断り続けるエディフェルドも、それなりに苦労をしたようだ。

 そのため、シリルと恋人になれたことを公表し、今後は言い寄らないでほしいと察してもらいたいはず。



 というよりも、シリルに向けられる不埒な視線を抑制したいというのがエディフェルドの真の目的だろう。



 シリルは自分のことを平凡でつまらない男だと思っていて、そのことを実際に何度も口にしていた。

 だが、英雄に多大な憧れを抱いているシリルは、努力家でまっすぐな心根の持ち主である。

 そのような彼を可愛く思う者たちが、実は少なくない。

 これまではビクトリオがそういった者たちをさりげなく遠ざけてきたが、恋人ができたことで、シリルに向けられる恋情も減ることだろう。

 エディフェルドとしては、こちらの狙いが大きい。



 そこで引っかかるのが、シリルの性格である。

 彼は負けず嫌いな部分があるものの、自分のことを言葉や態度で表すことが非常に苦手だ。

 もともとひけらかす性格ではないのだが、それは自分を平凡だと思い込んでいるからだと、ビクトリオは考えている。

 また、恥ずかしがり屋であることも大きく影響しているため、エディフェルドとの仲を皆に知ってほしいと思うだろうかと、ビクトリオには判断がつかなかった。

 

――嫌がるか?



 嫌がるというのは、少々語弊があるかもしれない。

 エディフェルドが半ば強引に押し切ったように見えるが、シリルにも相手を想う気持ちがあったからこそ、こうして一晩を共にしたのだ。

 嫌がるのではなく、困ると言ったほうが正しいだろうか。

 自分の見た目や才能に自信がなく、エディフェルドとつり合いが取れる家格でもないシリルのことを、エディフェルドに想いを寄せる者たちが好意的に受け入れるとは思えない。

 気が強いくせにそういう部分では弱腰のシリルなので、うまく言い返せず、黙り込んでしまう姿がビクトリオには容易に想像できた。

 用意された朝食をあらかた平らげたシリルは、腹が膨れたことで、ふたたびまどろみ始める。

 そんなシリルを愛おしくてたまらないという目で見ているエディフェルドに、ビクトリオはさりげなく声をかけた。

「なぁ。シリルとのこと、どうするんだ?」

「どうするって? これまでの片想い期間を埋めるために、目いっぱい甘やかして可愛がるけど」

 シリルの髪を優しく撫でながら、エディフェルドは視線だけをビクトリオにチラリと向ける。

 ビクトリオは苦笑いを浮かべた。

「そういう意味じゃない、今後の学校でのことだ」

「ああ、なるほど」

 ニッコリと笑ったエディフェルドは、「当然、皆に知らせるよ」と告げる。

 それを聞いて、ビクトリオはピクリと片眉を上げる。

 なによりも誰よりもシリルを大切にしているエディフェルドなので、彼が困るようなことは絶対にしないと思っていた。

「シリルは望んでいないんじゃないか?」

 すると、エディフェルドはひょいと肩をすくめた。

「そうだろうね。シリルはきっと、卒業するまで誰にも言わないつもりだと思うな」

「だったら……」

 ビクトリオが一応は反論しようとした瞬間、エディフェルドは緩やかに口角を上げて綺麗な笑みを浮かべる。

 とはいえ、その笑みには妙な迫力があり、ビクトリオは思わず口を噤んだ。

 僅かに流れた沈黙の後、エディフェルドが笑顔で話を再開する。

「だからこそ、公表するんだよ。下手に遠慮すると、シリルは僕から離れることを選択するからね。今回のことで、よく分かった」

 シリルの想いはたしかに自分へと向けられているはずなのに、『毎日、毎日、暇さえあれば俺の部屋に来てるじゃないか。ルドは恋人を作りたいんだろ? だったら、人が集まる場所に行けよ。そのほうが、明らかに出会いがあるぞ』と言われた時の絶望感は、今思い出してもエディフェルドは身震いするものだ。

「もしかしたら、僕たちの仲を引き裂こうとする者が現れるかもしれない。シリルのことを悪く言う者たちもね。だけど、僕たちが恋人であることを公表したら、シリルは覚悟を決めてくれるはずだよ。なにしろ、責任感が強いから」

「まぁ、それは一理あるな」

 エディフェルド同様にシリルを長年見守ってきたビクトリオは、その意見に同意する。

 そこで、エディフェルドの瞳に強い光が宿った。

「あと……、これはビクトリオも気付いているだろうけど、シリルの身の安全を図るためでもあるから」

 おそらく、こちらの目的のほうが強いのだろう。ビクトリオはエディフェルドの表情から察した。

 侯爵家の血を正しく引くエディフェルドの恋人だとなれば、おいそれとシリルに手を出す者はいなくなる。

 今は校内での座学や校庭での訓練しか行っていないが、夏になると野外訓練が実施される。

 その際、教師たちの目が届かないところで、シリルが危険な目に遭う可能性がゼロではない。

 この場合の『危険な目』というのは暴力を加えられるということではなく、性的な被害者となることである。

 野外訓練では近くの騎士待機所内にある風呂を使わせてもらうことがあり、もちろん、集団での入浴となる。

 また、川で水を浴びることで身を清めることもあると聞いている。

 不埒な思いを抱く輩たちには、ほんの一瞬であってもシリルの肌を見せたくない。

 シリルにもそういった者たちにも入浴を禁止するのは、いくら侯爵家の者であってもできないため、「シリルの恋人が誰なのか。シリルに手を出すと、誰を敵に回すのか」ということを知らしめる必要があると、エディフェルドは考えたのだ。

「シリルは困るだろうが、結果的には自分のためだと分かったら、納得するだろうな。……だが、そううまくいくか? シリルは自己評価が低いから、自分がそういう目で見られていることにまったく気付いていないぞ」

「そこは、正直に言わなくてもいいかなって思ってる。僕がたくさんの人に言い寄られて困っていると言えば、優しいシリルは頷いてくれるよ」

 現に、ここ最近のエディフェルドは、事あるごとに人に囲まれ、辟易しているのだ。

 その場面をシリルが何度も目にしていることも、エディフェルドはしっかり把握している。

 この状況をうまく利用としている主に対し、『やっぱり、曲者だよな』とつくづく実感したビクトリオだった。

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