【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

<初代王>後悔の念……母なる大地(ソイル)の色を瞳に宿した王

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「……何故私なのです? 適任者が他にもいたのではないですか?」

 自分よりも優れている王など、この数万年の間に星の数ほど居たに違いない。
 キュリオが知るところでは<先代王>であるセシエルを始め、数代前のディスタ王などが良い例だ。彼らは五大国において第一位であった秀逸な王であり、偉大な王に護られた悠久の国はかつてない平和な世だったと聞く。

"君の<先代>……セシエル王がタイミングを見計らっていたのを私は見ていたよ。彼もなかなかに稀な能力を持っていた素晴らしい王だった。<千年王>にもなれるんじゃないかと期待していたが……彼は君に託したようだね"

 見えないはずの自分に刃を突き刺してきた面白い王を懐かしむように、その瞳は遠くを見つめているようだった。
 だが、キュリオは解せずにいる。

「おっしゃる通りです。私はまだまだセシエル様の足元にも及びません。セシエル様ならこの国のしがらみもいつか断ち切っておられたはずです」

"――それはヴァンパイアの滅亡かい?"

 一瞬の間を置いて<初代王>を名乗る彼はキュリオへ問う。

「……貴方もそう願われたのではないですか?」

 彼の問いに訝し気な表情で問い返したキュリオ。創世紀の悠久ほど悲惨なものはなかったはずだからだ。
 
"もちろん思ったさ。
あの種族が存在する限り、この国に真の平和はないと……。
だが、鬼は人間の中からも生まれるんだよ”

「まさか……鬼とは悠久の民のことをおっしゃっているのですか?」

"かつての<悠久の王>にヴァンパイを虐殺し続けた者がいた。以前の彼はとても穏やかで……その瞳の色の大地のようにあたたかな人間だった"



 ――遠い記憶の彼方で笑う……文字通り"大地のように"あたたかな彼を<初代王>は後悔の念をずっと抱きながら思いを馳せる。

"――様の瞳は日の光のように、この絶望の世でも輝いて我々を導いてくださいます! いつか――様の御助けになれるよう俺もっ……!"

 拳を握りしめ、幼いながらに自分の助けになりたいといつも後ろをついてきた彼の瞳は母なる大地(ソイル)の色を宿していた。
 そんな彼の肩には愛らしい小鳥が今日も宿り木変わりに羽を休めにやってきており、時折言葉を交わしている声がどこにいても聞こえたものだった。
 誰からも愛される彼に希望を託し、<初代王>の見込み通り王となった彼が豹変するまで……そう時間はかからなかった。

"……よせっ!! それ以上追うなっっ!!!"

 <先代王>である自分の命令に背き、残酷なまでにヴァンパイアを殺し続けた彼の神剣は常に奴等の血にまみれ、虚ろな目で振り返った青年の瞳は、大地のようにあたたかな輝きを失って怪しい光を放っていた――。



"…………"

 <初代王>を名乗る彼は鬼と称した王の話をしてから、それっきり口を閉ざしてしまった。
 その様子を見る限り、彼に近しい王であったに違いないとキュリオは確信する。

「…………」

(……自身が死ぬよりも耐え難い悲劇に見舞われたか……)

 その王を思いやってキュリオの視線が下がる。
 そうまで人が変わってしまうということは、乱世の時代の王であったに違いない。その悲しみや憎しみが幾重にも繰り返さえられ、いまの穏やかな悠久の国がある。 

(もう二度とこの悲劇を繰り返してはならない。……だが、変わらずヴァンパイアは存在し続けている)

 神が創ったこの世界が同種族のみで形成されていたのなら、争いのない世界だったのではないかとキュリオは未だにそう思っている。


 ――どれくらいそうしていただろう。

 日の光が高くなり、キュリオの影がもっとも短くなる頃にようやく彼は口を開いた。

"この悠久が<千年王>をもっとも誕生させにくい理由がわかるかい?"

「……それはっ……」

 優秀な王が多い悠久の国だが、<千年王>の誕生は他の四大国よりも極端に少なく、だからといってその違いはどこにあるのかなど考えたこともなかった。
 だからこそ不意を突かれた彼の発言にキュリオは言葉を返すことができない。




"真の<慈悲の王>というものを理解したくないという想いが我々の根底にあるからさ"





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