【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

悠久の王・キュリオ編２

拭えない不安

「<慈悲の王>である私たちが、その意味を理解することを拒んでいると……？」

　理解していない者が王に選ばれることなどあり得るのだろうか？
　考えもしなかったことを指摘され、キュリオは些か不満げな瞳で光に包まれた彼を見つめる。

"キュリオ。君は空色の瞳か。平和な世を象徴する素敵な色だね"

　柔和な口調でそう告げた彼に、キュリオは何度目かの疑問を投げかける。

「歴代の≺悠久の王>の瞳は誰一人同じ色の者がいなかったと聞いております。それもなにか意味があるのですか？」

　濃淡の違いはあれど、他の国の王は大概決まっているが、不思議なことに悠久の王だけが自然に由来した色を宿していることでもよく知られている。
　だからと言って大きな能力の違いがあるとは思えない。例えば、キュリオが空色の瞳を持つからと言って、天候にまつわる魔法にのみ特化しているわけでもなく、＜先代王＞セシエルが若葉の色の瞳だからといって緑を操る能力に特化していたとは聞いたことがない。

"偶然では片づけられないだろうね。神剣の姿もひとつとして同じ物は見たことがない。……まぁ、これは他の国の王の神具にも言えることか"

　千里眼ならぬ百里眼くらいを持っているという割に随分詳しいように思える。
　キュリオは、この王に問えば大部分の謎が解けるかもしれないという期待を抱いて核心へと近づく。

「神剣はどこから来るのです？　我々は神具を以てなにを成せと――」

"……神の存在と目的が知りたい？"

　キュリオの言葉が終わる前に口を開いた彼は、その問いが投げかけられることをわかっていたかのように落ち着いた口調だった。

「はい」

"この世界の王に与えられている神具は紛れもなく神から授かったものさ。
……ただ、神はひとりじゃない。神が目指す世界の在り方に反すればこの世界とてどうなるか解らない"

「ならば<千年王>は何故存在するのです？　神にも匹敵する力を得られた王が神に背くこともあり得るとは考えなかったのですか？」

"そうか……この時代には<千年王>が居るんだったね。よりによって<精霊王>か……。なかなか厄介な王が誕生したものだ"

　彼の妙な間に違和感を覚えたキュリオが眉をひそめて問う。

「……なにか不都合でも？」

"……幸と出るか不幸と出るか……"

　<初代王>の思案はキュリオの想像を越えて遥か遠くを見ている。
　思念体となって長い年月を過ごす間に、いくつかの仮説を立てていた彼の胸中には不安がよぎる。

"これだけ選択肢があるのも気になるところだ。あとは君がどうするかだが――"

「私が重要な決断をする日が来るというのですか？」

"数千年前からその予兆はあったのさ。これまでの<悠久の王>が決して選ばない選択肢が君の瞳にもいずれ見えてくるはずだ。それを君がどうするか……私も興味がある"

「御期待に添えず申し訳御座いません。歴代の<悠久の王>たちが選ばない選択肢ならば、私も選ぶことはないでしょう」

"それはどうかな？　その時にならなければわからないことだらけさ。ただ……"

「ただ？」

"<精霊王>の彼がどう出るか……それによっては君の選択が無意味なものになるかもしれない"