【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

《番外編》ホワイトデーストーリー4

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 湯浴みを終えたアオイはキュリオの待つ食事の席へ向かい、いつものように優しいキュリオの笑みに迎えられて夕食は始まった。

「アオイは特別苦手な教科があるわけではないようだね」

「そんなこともわかるのですか?」

 最近テストがあったわけでもなく、なにを以てキュリオがそう言っているのかわからずにいるアオイは、クリーミーな野菜スープへスプーンを沈めたまま首をかしげる。

「授業態度を見ていればわかるさ」

 キュリオがアランとして教壇に立つ場合なるべくクラス全体を見るようにはしているものの、五感はアオイの一挙一動を見逃すまいと一点に集中してしまう。
 そして授業の内容が応用に突入すれば必然的にアオイの顔もどんどん険しくなっていき、アランはその表情を基準に言い回しを変えては説明を繰り返す。

 やがて愛娘の閃いた顔を見届けると、ふっと微笑んだ副担任のアランは次の問題へ進んだ。

「……!?」 

(わ、わたし……変な顔してたりして)

 初めこそ何かの拍子に"お父様"と呼んでしまいそうで緊張していたが、だいぶ慣れた今では気の抜けた顔で授業を受けていた可能性がある。
 自身の言葉に急に青ざめた目の前の愛らしい少女。相変わらず思っていることが顔に現れてしまう素直な性格にキュリオはクスリと笑った。

「ふふっ、教壇から見えるお前は城ではなかなか目にすることの出来ない魅力的な顔をしているよ」

「ぅ……」

(お父様楽しんでる……)

「……ところで。ひとりで宿題をしていたわけではないのだろう?」

 キュリオは器用に食事を進めながら途切れる事なく会話を続ける。

「はい! ミキやシュウと一緒ですっ」

 話が変わると目をキラキラさせて嬉しそうに声のトーンを上げた少女。
 よほど親友と過ごした時間が楽しかったのか、アオイはスプーンを置いた手を合わせると子供のようにはしゃいだ。

「シュウったらあまり眠っていなかったみたいで、授業に身が入らなかったって。それなら宿題でおさらいしようかってことになって……」

「ああ、彼は夜行性だから無理もない。今頃元気に走り回ってるさ」

「夜行性……? 朝は弱くて夜に強いということですか?」

「そんなところだ。それでアオイが先生を?」

「いいえ、ミキが……でも……」

 そう言ったきり思い出し笑いが止まらない彼女は目元に涙を浮かべながら言葉を紡いだ。


 終業の鐘が学園の一日の終わりを告げた頃――
 机に身を預けていたシュウが大あくびをしながら辺りを見回す。

『……ん? 移動教室、か……?』

 バタバタと騒がしいクラスメイトたちの様子をぼんやり眺めてポツリと呟く。

『授業はもう終わっちゃったよ、シュウのノート簡単にまとめておいたから』

 柔らかいアオイの微笑みにシュウは頬を染めながらそれを受け取ると、ぎこちなく礼を言った。

『さ、さんきゅー……』

(アオイの字、これで毎日眺めれんのかっ!)

 口では冷静さを装いながらも、心は嬉しさ爆発のシュウに水を差すような罵声が頭上から浴びせられた。

『こら! 寝てばっかりでアンタ!! 帰ったらちゃんと復習すんのよ!?』

 優しく天使のようなアオイとは真逆に仁王立ちした鬼のようなミキが凄い剣幕で目の前に立ちはだかる。

『あ? なんでだよ……』

 せっかくの会話を邪魔されたシュウは不機嫌そうに口を尖らせ、さっさと帰宅の準備に取り掛かった。

『抜き打ちテストがあんの! 明日かもしれないし明後日かもしれないのっ!! ひとりでも赤点採ったら連帯責任で全員の宿題が倍になるのよ!!!』

『げ……マジかよ……』

(復習もなにも授業受けてねぇんだから……それに夜はバイトあるしな……)

『…………!』

 シュウの心を知ってか知らずか、アオイは閃いたように手をポンと叩いた。

『もしよかったらだけど、宿題でおさらいしていかない? 今日ちょっと難しかったしさ、シュウもひとりでやるより、ね?』

『まぁ……それは賛成。シュウの事だからどうせ宿題もやらないだろうし? アオイがまとめてくれたノート眺めてニヤニヤして一日終えるのが目に見えてるからね!』

『そ、それくらいいいだろっ!? 誰にも迷惑かけてねぇんだから!』

『眺めただけで理解した気になってんじゃないわよ!! 言っとくけどアンタが赤字採ったらアオイもあたしも罰受けるんだからね! で、アオイ門限大丈夫? お父様になんか言われない?』

『うん、そんなに遅くならなければ大丈夫っ』

『よしっ! ……アンタは拒否権ないからね』

 アオイが頷いたのを確認したミキはジロリとシュウを見やり釘を差すように言った。

『へいへい、さっさと片付けちまおうぜー』

『じゃあ早速始めちゃおっかっ』

『おっし! 今からあたしは先生役ね!』

『……役とかあんのかよ!?』

『はいっ! ミキ先生!』

『…………』

 シュウはミキの配役に不満そうな表情を向けたが、隣りで楽しそうに声を上げるアオイを見て笑うにとどめた。
 放課後の教室に憧れていたアオイは高鳴る胸を抱きながらミキやシュウと机を合わせる。
 学生らしい事はなんでもやってみたい。城の外にいるときは普通の女の子で居たいと願うアオイの精一杯の行動だった――。

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