【第二章】狂気の王と永遠の愛(接吻)を

逢生ありす

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悠久の王・キュリオ編2

《番外編》ホワイトデーストーリー5

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「そうか。授業に集中していない話はさて置き、互いに補い合うのは良いことだ」

「はいっ!」

 遅くなるのにきちんとした理由があればキュリオは怒らないのだとわかり、出来ることの幅が広がったアオイの心は躍るように弾んでいく。そしてもうひとつ。

(シュウのこと、嫌っていないか不安だったけど……やっぱり私の取り越し苦労だったみたい)

”喧嘩するほど仲が良い”の言葉をふたりへ当てはめて考えてみれば、確かにそうかもしれないとアオイは安堵する。

 ところでアオイの口から一部始終を聞いたキュリオだが、彼女が思い出し笑いをするほどにおかしな部分がよくわからなかった。恐らく続きがあるのだろうと踏んだ彼は先を促す。

「それだけでは終わらなかったのだろう?」

「……っそうなんです、実は……」

『……って、ことだったと思うよ! ははっ……!!』

 曖昧に笑ってごまかすミキの説明はあまりに矛盾しすぎてシュウの頭上には疑問符が出現していた。

『なんだよ……お前もわかってねぇじゃねぇかっ!』

 椅子に仰け反りながら天井を仰ぐシュウは自分の赤点を覚悟しながらも、アオイは巻き込みたくない一心で寝ずの勉強をするしかないと心に決めたその時。

『ミキ、ちょっと惜しかったかも? そこは確かね……』

 結局、自ら先生役を申し出たミキがすぐに躓き、代わりにアオイが先生となったのだ。
 人に習うことはあっても、教えたことのないアオイはとにかく緊張していたが、それでもなんとなく伝えることは出来たと思う。しかし、己の行動によってふたりの成績が左右されるのだから、ただただ楽しいだけでは済まされない。

「頭ではわかっているのに上手に説明できなくて……」

「人は繰り返すことによって理解を深めていくものだが、教える側はそれを熟知している必要がある。お前がうまく説明できなかったからといって、自分を責めてはいけないよ」

「……でも、嘘教えてたらどうしよう……」

「ああ、それは宿題の答えを見ればきっとわかるだろう。あとは解き方だ。ふたりに伝えたように私に説明してみるといい」


「ぜ、是非お願い致します! アラン先生!」


 それから食事を済ませたふたりはアオイが幼少期から学びの部屋として使用していた、キュリオの執務室の隣り部屋で落ち合うことにして広間をあとにした。

「……」

(城の中でアランの名を口にされるのは複雑なものだな……)

 ここは父と娘、水入らずで過ごせる場所なはずなのだが、アランの名で呼ばれるとたちまち自分が教師という立場に成り変わってしまう気がしてならない。そして会話の中でそれとなく彼女の望む物を聞き出そうとしていたキュリオは、すっかりタイミングを逃してしまっていた。

 やがてアオイの待つ部屋の前まで来ると、室内から話し声が聞こえてきた。

「?」

 食後の紅茶を運ぶよう伝えた侍女がアオイと話し込んでいるのは何ら問題はないが、それにしてはやけに低音で……

(……男の声だな)

 キュリオは重厚な扉をノックし返事を待たずに入室する。
 まず視界に飛び込んできたのは迎えにでたアオイだった。ノックから入室までが早過ぎたせいか驚いたような顔でこちらを見つめているが、銀髪の王の視線はさらに奥へと向けられている。

「このくらいならまだ俺でも教えられるな!」

「駄目だよカイ。君の説明は混乱を招くことになるのは目に見えているから」

「っんなことないって!! そりゃお前みたいにはいかないけどさ……」

「…………」

 己の姫がどこにいるかを常に把握していたい世話係の青年が今夜もまた、彼女の傍で小さな言い争いを繰り広げていた。

「アレスとカイが、お父様が疲れてらっしゃるんじゃないかって来てくれたんです」

 あくまで忙しいキュリオの負担を軽減させるために来てくれたのだと、その気遣いに嬉しそうなアオイ。

「キュリオ様! どうぞおやすみになってください! アオイ姫様の宿題は俺たちが見させて頂きますので」

 月の綺麗なこの時分に、朝日のような溌剌とした笑顔で駆け寄ってきた剣士のカイ。そのあとに続いた魔導師のアレスが前に出て深く一礼し、似たような言葉をせせらぎのように穏やかに述べる。

「教育係として私が責任を持ってお教え致しますので、お先におやすみになってくださいキュリオ様」

 ふたりに悪気がないのはよくわかっている。
 彼らとて、学園に通い始めたアオイと過ごす時間が極端に短くなってしまった事に寂しさを感じているため、こうして出番を探してはちょくちょく会いに来たいのが本音というところだろう。

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