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悠久の王・キュリオ編2
《番外編》ホワイトデーストーリー6
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「……君たちの気持ちは嬉しいが、私の用件はそれだけではない。アオイに大事な話があるんだ」
立場をわきまえている彼らには、もっともらしく深刻な表情を浮かべ言葉少なめに伝えるだけで十分だ。例え、その内容がホワイトデーの贈り物の話だとしても。
「大事なお話、……ですか?」
まさかの言葉に目を丸くしているアオイ。
そしてその後方で勢いよく頭を下げたのはアレスだった。
「……っ! も、申し訳ございません! 出過ぎた真似をっ……いくぞカイ!」
アレスは半ば蒼白になりながら、呑気にアオイのノートをめくっている剣士の腕を掴んだ。
「痛ててっ! 引っ張るなって! あっ……! アオイ姫様!」
ずるずると引きずられながらニカッと笑顔を見せたカイが、謎の一言を放つ。
「本当に鉛筆でいいんですか?」
「う、うんっ!」
それに対し、力強く頷いたアオイ。恐らくキュリオが来る前の話の続きだと思われるが……
「……鉛筆? なんの話だい?」
扉が閉まったことを確認し、アオイに向き直ったキュリオはそれほど気に留めた様子もなく訪ねる。
「あ、えっと、欲しい物がないか聞かれたんです」
「……」
(当然アレスにも聞かれたのだろうな……)
「お父様? 大事なお話って?」
「ああ、取り敢えずそこへ座ろうか」
「はいっ」
視線でソファへと促されたアオイは宿題や筆記用具を抱えて移動を開始する。
「…………」
(無欲なアオイの事だ。”欲しい物”と聞かれて答えるのは恐らく”必要な物”なのだろう。その先を聞き出すには別の言い回しが必要か……)
「……?」
急に考え込んでしまった父と向かい合わせに腰を下ろしたアオイ。
視線が交わらないことから、珍しく言いたいことがまとまっていないのだろうと静かに待つこと数分――。
「アオイ」
「……は、はい!」
突然名を呼ばれ、緊張が脳天を突き抜けるような錯覚を覚えて背筋を伸ばす。
「お前が”女性として”贈られたら嬉しいものを教えてほしい」
「女性として、ですか……?」
随分と具体的な問いかけに今度はアオイが口を噤んでしまう。
(……なんだろう、考えたこともなかった。
”学校以外でミキやシュウと過ごす時間”っていうのは”女性として”とはならないだろうし……)
納得のいく答えが帰ってくるよう、細部にこだわった質問を投げかけてきたキュリオ。そのおかげでアオイの思考からは早くも幾つかの候補が崩れ落ちていく。
――コンコンコン
『キュリオ様、アオイ姫様。お飲物をお持ちいたしましたっ』
「ああ、入ってくれ」
質問で頭がいっぱいなアオイの代わりにキュリオが侍女へと指示を与え、目の前に出されたのは温かなハーブティーだった。”うーん、うーん”と唸る姫の姿に侍女はソワソワと表情を伺っているが、ふたりの間に流れる空気が険悪なものではないと判断すると、笑みを浮かべた侍女はそっと部屋をあとにする。
「アオイ、いますぐその答えを求めているわけではないんだ。近いうちで構わないよ」
立場をわきまえている彼らには、もっともらしく深刻な表情を浮かべ言葉少なめに伝えるだけで十分だ。例え、その内容がホワイトデーの贈り物の話だとしても。
「大事なお話、……ですか?」
まさかの言葉に目を丸くしているアオイ。
そしてその後方で勢いよく頭を下げたのはアレスだった。
「……っ! も、申し訳ございません! 出過ぎた真似をっ……いくぞカイ!」
アレスは半ば蒼白になりながら、呑気にアオイのノートをめくっている剣士の腕を掴んだ。
「痛ててっ! 引っ張るなって! あっ……! アオイ姫様!」
ずるずると引きずられながらニカッと笑顔を見せたカイが、謎の一言を放つ。
「本当に鉛筆でいいんですか?」
「う、うんっ!」
それに対し、力強く頷いたアオイ。恐らくキュリオが来る前の話の続きだと思われるが……
「……鉛筆? なんの話だい?」
扉が閉まったことを確認し、アオイに向き直ったキュリオはそれほど気に留めた様子もなく訪ねる。
「あ、えっと、欲しい物がないか聞かれたんです」
「……」
(当然アレスにも聞かれたのだろうな……)
「お父様? 大事なお話って?」
「ああ、取り敢えずそこへ座ろうか」
「はいっ」
視線でソファへと促されたアオイは宿題や筆記用具を抱えて移動を開始する。
「…………」
(無欲なアオイの事だ。”欲しい物”と聞かれて答えるのは恐らく”必要な物”なのだろう。その先を聞き出すには別の言い回しが必要か……)
「……?」
急に考え込んでしまった父と向かい合わせに腰を下ろしたアオイ。
視線が交わらないことから、珍しく言いたいことがまとまっていないのだろうと静かに待つこと数分――。
「アオイ」
「……は、はい!」
突然名を呼ばれ、緊張が脳天を突き抜けるような錯覚を覚えて背筋を伸ばす。
「お前が”女性として”贈られたら嬉しいものを教えてほしい」
「女性として、ですか……?」
随分と具体的な問いかけに今度はアオイが口を噤んでしまう。
(……なんだろう、考えたこともなかった。
”学校以外でミキやシュウと過ごす時間”っていうのは”女性として”とはならないだろうし……)
納得のいく答えが帰ってくるよう、細部にこだわった質問を投げかけてきたキュリオ。そのおかげでアオイの思考からは早くも幾つかの候補が崩れ落ちていく。
――コンコンコン
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「ああ、入ってくれ」
質問で頭がいっぱいなアオイの代わりにキュリオが侍女へと指示を与え、目の前に出されたのは温かなハーブティーだった。”うーん、うーん”と唸る姫の姿に侍女はソワソワと表情を伺っているが、ふたりの間に流れる空気が険悪なものではないと判断すると、笑みを浮かべた侍女はそっと部屋をあとにする。
「アオイ、いますぐその答えを求めているわけではないんだ。近いうちで構わないよ」
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