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序章「異端魔法使い、現る。」
03.少女、その名は。
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「今すぐその人を放しなさい!」
聞き覚えのない女性の声が、聞こえる気がする。
「残念ながらそれは聞けねぇなぁ!」
耳元で大男が、何かを叫んでいる気がする。
空翔の聴覚は言葉の聞き分けのできないくらい、使い物にならなくなっていた。自分をこんなことにした大男と、自分の知らない女性。そんな2人が言葉を発していることだけが、空翔の脳内に情報として舞い込んでくる。その場を漠然と理解し、しかしまどろむ意識に抗えなくなったその時――
「第三階級術式治癒魔法...ミルへルート!」
――空翔の身体は謎の光に包まれ、傷が治っていった。
それだけではない。朦朧とする意識が、役割を果たさなくなった視界が、明瞭さを失った聴覚が、すべての感覚が身体に舞い戻ってきたのだ。突然の感覚に目を見張る空翔。その視界に映るのは、一人の少女。
空翔より10cm程低いであろう体躯に、目の前の男二人をしっかりと捉える丸い瞳。その瞳は左が碧眼、右が紅眼のオッドアイで、そこから魔法のような力が流れ出ているようにすら錯覚させるほど濁りのない綺麗な瞳だった。その右眼より少し薄い色をした桃色の髪は肩の高さくらいの長さで、後ろで一つに結ばれている。痩せすぎでも太りすぎでもない健康的な肉付きに対し、少しばかり、いやかなり自己主張が控えめな胸に目が行き――
「あんた...今失礼なこと考えてなかった?」
見抜かれていた。ジト目で見つめる少女に苦笑いを浮かべることしかできなかった空翔はキツい目つきで睨まれたが――しかし、まさに美少女と言うべきその少女に、目を奪われていた。
『ああ、こんな可愛い子を常に眺めていたい』
そんな、多少変態じみた思考に至った空翔は視界の中心に常に少女を捉えながら
「第三階級術式突風魔法、メルシーニャ...」
身体が地面に打ち付けられていた。空翔を担いでいた大男の肩から落ちる感覚があった。踏みしめられ固くなっていた地面に与えられた衝撃は生半可な物ではなく、その痛みにのたうち回りながらも
「な、なにしやがるんだ!死ぬかと思ったじゃねえか!」
空翔は吠えていた。しかし少女は睨む瞳の険しさを一層強くし
「死にかけてたあんたを助けたのは私だっての!ほら、あっち見てみなさい!」
指で空翔の斜め後ろを指し、そう叫んだのだった。
「あっちに何があるってんだ...って、はぁ!?」
――その視界の先には、傷だらけになって倒れる大男の姿があった。
「な、なにあれ!?お前何やったの!?」
「はぁ...ほんと何もわかってないみたいね。死にかけのあんたとあの男を私が偶然見かけたの。そしてあんたに治癒魔法をかけてからあの男を風魔法でぶっ飛ばした。ただそれだけよ。」
「それだけって...魔法とかすげえじゃねえか!」
地面に叩きつけられた憤慨はどこへやら、魔法という響きに空翔は興奮していた。しかし少女はその言葉に首を傾げ
「凄いって...術式魔法くらいなら誰でも使えるじゃないの。確かにさっきのは私が強化したオリジナルだけどさぁ。」
さっぱり意味がわからない。術式なんてゲームでしか聞いたことがない。他にも聞きたいことが多すぎる空翔は少女に尋ねた。
「なぁ...色々と聞いてみてもいいか?」
「何よ急に真面目になって...まあ、ちょうど暇してたところだしいいわよ。聞いてあげる。」
嫌な一つせず空翔の言葉に応じる少女。その反応に空翔は感謝を覚えながら、質問を始めることにした。
「まずお前はなんで、見ず知らずの俺のことを助けてくれたんだ?」
「そりゃ、困っている人がいたからに決まってるじゃない。」
「そんな理由で惜しみなく人助けする奴なんて実際にいたのか...じゃあ次、その術式魔法とやらは何なんだ?」
「その様子だと何も知らないのね。そうね、このカードを見て。」
その言葉とともに少女の懐から取り出される一枚のカード。掌くらいの大きさのそれを眺めて
「見るも何も、白紙じゃねえかこれ。」
「これは術式魔法として魔法を発動させる時の媒介、『術式紙』。あんたの言う通り普段はただの白い紙なの。でもね、こうやって魔力を注ぐと...」
そう言って手から青白い光を発する少女。それに合わせてその紙には魔法陣のような物が表示され
「第五階級術式凍結魔法、クリスト。」
その言葉とともに、小さな氷像が出現した。
「こんな感じで、魔法を使うことができるの。こうやって術式紙を使って発動させる魔法が、さっき言った術式魔法よ。」
「へ、へぇ...なんだかすごいな。他にも魔法ってあるのか?」
「ないこともないわ。あくまで術式魔法で発動できるのは中階級までの魔法だから、高階級魔法を使うためには自分の手で魔法陣を書いて、そこから使うしかないの。まあでも、そんな大魔法使うことなんて滅多にないんだけどね。」
「なんとなくわかった気がする。気がするだけだけど。じゃあ次の質問は...身長は?」
「158だけど?」
「うっへ、撫でやすそうな身長差」
「...この術式魔法、この距離だと火傷じゃ済まないわよ?」
「ごめんなさい!調子乗ってました!ちなみにスリーサイズは?」
「えーっと、上からななじゅうろ...って何言わせんのよ!バカ!変態!」
さっきまでの強気な姿勢が消え去り、涙目で怒りながら再び空翔を睨みつける少女。美少女は怒っても可愛いなぁ、なんて場違いなことを考えながら空翔が笑いながら発した言葉は――
「悪かったって。そうだ、それよりさ......名前を教えて?」
「はぁ、それが最初に来るべきでしょうが...七々瀬 璃衣花よ。あんたは?」
「俺は海星空翔。いろいろとありがとな、璃衣花。」
そう言って空翔は手を差し出す
「りぃでいいわよ、みんなそう呼んでるし。まあ、こちらこそ楽しかったわ、空翔。」
そう言いながら少女――――七々瀬 璃衣花は、差し出された手を取るのだった。
聞き覚えのない女性の声が、聞こえる気がする。
「残念ながらそれは聞けねぇなぁ!」
耳元で大男が、何かを叫んでいる気がする。
空翔の聴覚は言葉の聞き分けのできないくらい、使い物にならなくなっていた。自分をこんなことにした大男と、自分の知らない女性。そんな2人が言葉を発していることだけが、空翔の脳内に情報として舞い込んでくる。その場を漠然と理解し、しかしまどろむ意識に抗えなくなったその時――
「第三階級術式治癒魔法...ミルへルート!」
――空翔の身体は謎の光に包まれ、傷が治っていった。
それだけではない。朦朧とする意識が、役割を果たさなくなった視界が、明瞭さを失った聴覚が、すべての感覚が身体に舞い戻ってきたのだ。突然の感覚に目を見張る空翔。その視界に映るのは、一人の少女。
空翔より10cm程低いであろう体躯に、目の前の男二人をしっかりと捉える丸い瞳。その瞳は左が碧眼、右が紅眼のオッドアイで、そこから魔法のような力が流れ出ているようにすら錯覚させるほど濁りのない綺麗な瞳だった。その右眼より少し薄い色をした桃色の髪は肩の高さくらいの長さで、後ろで一つに結ばれている。痩せすぎでも太りすぎでもない健康的な肉付きに対し、少しばかり、いやかなり自己主張が控えめな胸に目が行き――
「あんた...今失礼なこと考えてなかった?」
見抜かれていた。ジト目で見つめる少女に苦笑いを浮かべることしかできなかった空翔はキツい目つきで睨まれたが――しかし、まさに美少女と言うべきその少女に、目を奪われていた。
『ああ、こんな可愛い子を常に眺めていたい』
そんな、多少変態じみた思考に至った空翔は視界の中心に常に少女を捉えながら
「第三階級術式突風魔法、メルシーニャ...」
身体が地面に打ち付けられていた。空翔を担いでいた大男の肩から落ちる感覚があった。踏みしめられ固くなっていた地面に与えられた衝撃は生半可な物ではなく、その痛みにのたうち回りながらも
「な、なにしやがるんだ!死ぬかと思ったじゃねえか!」
空翔は吠えていた。しかし少女は睨む瞳の険しさを一層強くし
「死にかけてたあんたを助けたのは私だっての!ほら、あっち見てみなさい!」
指で空翔の斜め後ろを指し、そう叫んだのだった。
「あっちに何があるってんだ...って、はぁ!?」
――その視界の先には、傷だらけになって倒れる大男の姿があった。
「な、なにあれ!?お前何やったの!?」
「はぁ...ほんと何もわかってないみたいね。死にかけのあんたとあの男を私が偶然見かけたの。そしてあんたに治癒魔法をかけてからあの男を風魔法でぶっ飛ばした。ただそれだけよ。」
「それだけって...魔法とかすげえじゃねえか!」
地面に叩きつけられた憤慨はどこへやら、魔法という響きに空翔は興奮していた。しかし少女はその言葉に首を傾げ
「凄いって...術式魔法くらいなら誰でも使えるじゃないの。確かにさっきのは私が強化したオリジナルだけどさぁ。」
さっぱり意味がわからない。術式なんてゲームでしか聞いたことがない。他にも聞きたいことが多すぎる空翔は少女に尋ねた。
「なぁ...色々と聞いてみてもいいか?」
「何よ急に真面目になって...まあ、ちょうど暇してたところだしいいわよ。聞いてあげる。」
嫌な一つせず空翔の言葉に応じる少女。その反応に空翔は感謝を覚えながら、質問を始めることにした。
「まずお前はなんで、見ず知らずの俺のことを助けてくれたんだ?」
「そりゃ、困っている人がいたからに決まってるじゃない。」
「そんな理由で惜しみなく人助けする奴なんて実際にいたのか...じゃあ次、その術式魔法とやらは何なんだ?」
「その様子だと何も知らないのね。そうね、このカードを見て。」
その言葉とともに少女の懐から取り出される一枚のカード。掌くらいの大きさのそれを眺めて
「見るも何も、白紙じゃねえかこれ。」
「これは術式魔法として魔法を発動させる時の媒介、『術式紙』。あんたの言う通り普段はただの白い紙なの。でもね、こうやって魔力を注ぐと...」
そう言って手から青白い光を発する少女。それに合わせてその紙には魔法陣のような物が表示され
「第五階級術式凍結魔法、クリスト。」
その言葉とともに、小さな氷像が出現した。
「こんな感じで、魔法を使うことができるの。こうやって術式紙を使って発動させる魔法が、さっき言った術式魔法よ。」
「へ、へぇ...なんだかすごいな。他にも魔法ってあるのか?」
「ないこともないわ。あくまで術式魔法で発動できるのは中階級までの魔法だから、高階級魔法を使うためには自分の手で魔法陣を書いて、そこから使うしかないの。まあでも、そんな大魔法使うことなんて滅多にないんだけどね。」
「なんとなくわかった気がする。気がするだけだけど。じゃあ次の質問は...身長は?」
「158だけど?」
「うっへ、撫でやすそうな身長差」
「...この術式魔法、この距離だと火傷じゃ済まないわよ?」
「ごめんなさい!調子乗ってました!ちなみにスリーサイズは?」
「えーっと、上からななじゅうろ...って何言わせんのよ!バカ!変態!」
さっきまでの強気な姿勢が消え去り、涙目で怒りながら再び空翔を睨みつける少女。美少女は怒っても可愛いなぁ、なんて場違いなことを考えながら空翔が笑いながら発した言葉は――
「悪かったって。そうだ、それよりさ......名前を教えて?」
「はぁ、それが最初に来るべきでしょうが...七々瀬 璃衣花よ。あんたは?」
「俺は海星空翔。いろいろとありがとな、璃衣花。」
そう言って空翔は手を差し出す
「りぃでいいわよ、みんなそう呼んでるし。まあ、こちらこそ楽しかったわ、空翔。」
そう言いながら少女――――七々瀬 璃衣花は、差し出された手を取るのだった。
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