異端魔法の加護

Rin.

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序章「異端魔法使い、現る。」

05.愛された異端魔法使い

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「...すぐには信じられねえよそんなの。」

 璃衣花の言葉にそう返す空翔くうと。それもそのはずだった。いきなり現れた世界で恐れられている存在が自分だなんて、信じられるはずがない。いっそ近くの男達に笑い飛ばされる方が何百倍も楽だ。しかし空翔のそんな希望も虚しく

「あの兄ちゃんが、異端の生き残り?」
「ありえないだろ、異端はみんな殺されてるはずなのに...」
「悪夢だ...あいつらの片割れが生きてるだなんて悪夢だあああああ!」

 彼らのそんな言葉に、かき消されてしまっていた。この世界で生きていける気がしなかった。もういっそ、どうやって死ぬかを空翔は模索し始めてすらいた。頬と背中に感じる大量の冷や汗。空翔の精神は既に、崩壊を始めようととしていた。遅れてそのことに気付く璃衣花。対処が遅くなったのを悔やみながら彼女は一枚の白い紙を取り出し

「第四階級術式転送魔法、アカンプ」

 二人は柔らかな光に包まれ、その場から姿を消した。

「...食い逃げはされてねえっけど、そんなこと以上にやべえ事態になっちまったみてえだな、あん時の兄ちゃん」

 律儀に二人分の食事代金が置かれた机を眺めながら、店主の男は――――ライオンのような牙と鬣を持った亜人は、そう呟いていた。

- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

 光に包まれた二人は、その直後には誰かの家の、可愛らしいインテリアで飾られた大きな部屋にいた。

「............ここは?」

「私の部屋よ。」

「そうかそうかりぃの部屋か...ってそれ入っちゃっていいの!?」

「いいわよ別に、変な物もないし。あ、ただ靴は脱いでおいてくれる?それでこの袋にでも入れといて。」

 そう言って一枚の袋が渡される。それを受け取ろうとして空翔は叫ぶ。

「ありがたいけど!そうじゃないだろ!そんな簡単に男連れ込んじゃまずいだろ!?」

「?何を言ってるの?別に男子来たっていいじゃない。何をそんなに驚いてるのよ...」

「嘘だろおい...そういえば聞いてなかったけど、りぃって今何歳なの?」

「え、17だけど?」

「俺と同じでそのピュアさだと!?」

「空翔もなんだ!同い年だったんだね、少し嬉しいかも♪」

 相変わらず少し噛み合わない空翔と璃衣花。そのことに歯がゆさを覚えながらしかし口を閉ざすことしかできない空翔は、なんとも言えない感覚に悶えていた。

「ってかそれは置いといて、ちょっと大事な話をしよっか。」

「...ああ」

 そう璃衣花が言い出し、今後に関する重要な会話が始まろうとしていた。






――――この話し合いが、いずれこの世界をも揺るがすことになるのだった。




- - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

「まずわかってて欲しいんだけど、私は異端魔法使いを恐れても憎んでもいないわ。むしろ一度会って話してみたいって思ってたくらい。だから、空翔とは出会えて正直嬉しいの。信じてもらえるかはわからないけど、信じてあなたのこと全部教えて?」

「ああ、解った。まず何から話せばいい?」

「関係ありそうなこと、全部話して。もしかしたらいろんなことわかってあげられるかもしれない。」

「そうだな...俺は実は―――」


 空翔は、この世界に来る前のことと来てからのことを、全て包み隠さず話した。
 自分は平凡な男子高校生だったこと、ゲームの氷魔法を叫んだら部屋が凍ったこと、咄嗟に唱えたゲームでの炎魔法が使えたこと、そして家から出たらこの世界に繋がっていたこと。この世界に来てからまず駅だった場所を目指したこと、そのための道の構造が変わっていないこと、駅だった場所がここでは情報案内センターだったこと、そこで出会った女性のこと、自分が外国人だと嘘をついたらその女性が恐怖しあの大男に殴られたこと。
 それを聞いた璃衣花は、どこか納得したような表情をした。そしてその口を開き発せられた言葉は

「なるほどね...。私すら信じ難いことなんだけど、空翔が今話したことはこの国に伝わる昔話にすごく似ているの。」

 そんな、この日何度目かすらわからなくなっている、信じられない言葉だった。

「それってどんな昔話なんだ?」

「この世で唯一、恐れられていない異端魔法使いの話よ。異端魔法の印象を変えることはできなかったけれど、怖がられることもなかった一人の異端魔法使いがいたの。どんな話か、聞く?」

「聞かせてくれ。」

「ええ、わかったわ。」

 そうして、璃衣花の口から昔話が語られることになるのだった。


「その異端魔法使いの名は、ソラ。ソラは突然この世に現れ、その魔法の力を全て治癒に使ったと言われてるわ。この国で傷つく人を見る度に、惜しむことなく治癒魔法を使う。そんな姿に、最初は彼を恐れていた国民も、最後には彼だけは信じられる異端魔法使いと皆が思ったそうよ。そしてソラはある日その働きが認められ感謝され、国王と直接話すことになったの。彼は王に自分が来た時のことを話すから、そのことを後世に伝えて欲しいと頼んだそう。国王はそれを承諾し、使用人に筆を取らせたわ。」

「その内容が、俺の話と似てるってことか?」

「ええそうよ。と言うより、空翔の話のゲームの部分を物語に変えればあとはほんとにそのまま。出会った人もあったことも、全部一致してるの。ただソラはそれとは他に、二つほど語っていたらしいの。」

「と、言うと?」

「まず一つ目は、来る前に不思議な声を聞いたということ。幻想的な女性の声で、『あなたに魔法の加護を授ける』と言われたそうなの。」

「声...?何か、忘れているような...」

「ん?なにか思い当たることでもあるの?」

「...いや、なんでもない。続けてくれ。」

「ん、わかった。...ソラの語ったことの二つ目は、自分がこの世界に来る瞬間の話だった。彼は、この世界に来る時、彼のいる空間が歪んでいくのを感じたそうよ。そのことは王国の研究者もすぐに調査に取り掛かったわ。そして数十年経って、その研究は実を結んだ。この世界ではない、違う世界があることが科学的に証明されたの。そしてこの国には、その世界から人を呼び寄せる力があることも。その力のことは詳しい事は今もわかってないけれどね。まあこれが、唯一愛された異端魔法使いの話よ。そしてこの話と大きく一致している空翔は多分だけど、ソラと同じようにこの世に呼び出されている存在だと思う。そうすれば説明つくことも、多少はあるんじゃないかしら?」

 璃衣花の話が終わる。すると空翔は割とすんなり受け入れたようで

「だからって、魔法がいきなり使えるだなんて思ってもみなかったけどな。でも一致してんならもしかしたらそうなのかも。」

 そんな言葉を、語り終えた少女に放っていた。そして会話はまだまだ続き

「てか俺って、ほんとに異端魔法使いなのか?イマイチ実感湧かないんだけど。」

「それなら実際に使ってみればいいじゃない。ここで使っても問題ない魔法なら...クルートとか!」

「それ、もしかして変声魔法だったりする?」

「あれ、知ってるの?私この魔法のこと話したっけ?」

「いや、今までりぃが使った魔法さ、全部俺の知ってるゲームの中で出てくるのと一緒なんだよ。」

「そうなの!?それなら教える手間も省けてそれはそれはすごーく楽ね!」

「お前意外とめんどくさがりなのな...まあ使ってみっか。クルート!……あーあーあー。おお!ほんとに変わった!すげえ!ゲームの世界が目の前にある!!!!」

 自分の声がまるでヘリウムガスを吸った後のようになりはしゃぐ空翔。その姿を眺める璃衣花はそんな空翔を冷たい目で見つめながら

「これで自分が異端魔法使いってわかった?ただそれ、とんでもなく面倒で迷惑な力なのを覚えておいてね。なんたって魔法の名前を言うだけで発動しちゃうんだから、絶対にこれからは魔法の名を必要以上に言わないこと!いいね?」

 そう忠告した。すると空翔もすぐ

「はーいよ!わかってるわかってるって!クルート解除!」

 そう、声を元に戻しながら返したのだった。そしてそこに璃衣花は言葉を続ける。













「わかったなら、空翔。あなたを七々瀬家の専属魔法使いに任命します。」
















「――――――はい?」
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