異世界から来た馬

ひろうま

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第4章 深まる絆

第20話 嫉妬

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◆Side アイリス◆
シメイは私を馬房に入れると、別の牝馬を連れて行った。
最近、シメイが他の牝馬の側にいると、複雑な気持ちになる。
それと、私はリンさんも気になっていた。
恐らく、リンさんはシメイのことが好きだ。
本人が気付いているか微妙だし、シメイも彼女は先輩という立ち位置であるため、恋愛対象としては見てない。
しかし、人間同士ということで、もし二人の関係が進んだら私は分が悪い。
そうなったら嫌だ。
これが嫉妬というものだろうか。
ルナさんもハイ・ホースだが、嫉妬している様子は見たことがなかった。
私は、もしかしたら独占欲が強いのかも知れない。

そんな事を考えていたら、シメイとリンさんがやって来た。
「アイリス、あの人アイリスを買うのはやめたよ。」
「……。」
良かった……。
今は周りに他の人もいて言葉が出せないので、シメイに頭を擦り付けようとしたが、リンさんを見てやめた。
「アイリス、良かったわね。私はお邪魔みたいだから、退散するわ。でも、シメイはアイリスとイチャイチャするのはほどほどにして、仕事に戻りなさいよ。」
「は、はい。」
リンさんはシメイをからかうような感じであんな事を言っているが、ちょっと寂しげもあった。
やはり、彼女はシメイのことが好きなのだろう。
私は、彼女にちょっと悪いと思いつつも、彼女が去った後シメイに甘えるのだった。

◆Side 紫明◆
「あの人、やっぱり買うのをやめたらしいわ。」
僕がアイリスの手入れを終え、次の馬の準備をしていると、林藤さんが来てそう言った。
「本当ですか?」
「ええ。社長が言ったんだから、間違いないわ。」
「良かった……。」
そうなるだろうとは思っていたが、確実ではないため不安があった。
これで、ひとまずは安心だ。
「それと、須崎さん、今日仕事終わった後、話を聞いてくれるらしいわよ。」
「え?もう須崎先輩と話したんですか?」
「ええ。さっき、ちょうど話しをするタイミングがあったのよ。」
「ありがとうございます。」

アイリスに今回は買おうとした人は諦めたという話しをしたら、彼女は安心していた。
今後も同じようなことがあるかも知れないと伝えるか迷ったが、アイリスを不安にさせると思い、やめておいた。
伝えるとしたら、須崎さんと話しをして、対策の方針が決まってからだろう。

「須崎先輩、お疲れ様です。」
「お疲れ様。リンちゃんから話は聞いたよ。」
「時間取らせてしまって、済みません。」
今日の作業が終わってクラブハウスに行くと、既に須崎先輩がいた。
須崎先輩は、林藤先輩のことを『リンちゃん』と呼んでいる。
林藤先輩はアイリスにも『リン』と呼ばせていたし、そう呼ばれる方が良いのだろう。
「あ、お待たせしました。」
そう考えていたら、その林藤先輩が現れた。
「林藤先輩も済みません。」
「私はアイリスの担当だから、重要なことよ。」
「そうだな。それで、俺に相談ということは、アイリスを自馬にすることを考えているということかな?」
「はい。ただ、本当にそれが良いのか、そもそも費用的にはどうなのかが気になりまして。」
もちろん、会員さん向けには、自馬について入厩料とか預託料等が規定されている。
しかし、スタッフについてそれがそのまま適用されるかどうかは触れられていない。
会員さん向けの金額を払うのは、正直厳しい。
「そうか。売られないという点では、自馬にするのが一番だとは思う。」
「やっぱり、そうですか。」
「うん。乗馬クラブによってはオーナーの意思を無視して売る所もあるけど、本来ならやってはいけないことだ。ここの社長は、そこはわきまえている。」
確かに、『来てみたら自分の馬が知らない内に売られていて、その馬房には別の馬が入っていた』みたいな話は聞いたことがあった。
そんなことが本当にあるのか疑問に思っていたが、実際にあるらしい。
「それで、費用的なところはどうなんでしょう?」
「規定がある訳ではないからあれだけど、俺の場合は入厩料は免除してもらって、預託料は半額位で給与天引きされてるな。まあ、会員のレッスンにも使うという条件があるからかも知れないが。」
「そうなんですね。」
それ位ならギリギリ何とかなるかも知れない。
ちょっと希望が出て来た気がする。
「ただ、自分の馬にする訳だから、乗馬クラブから買い取ることになる。」
「あ……。」
気が付かなかったが、言われてみればそうか。
「これは、馬によるから何とも言えないな。今回の事で、アイリスが高値で売れる可能性があるとわかったから、そこそこの金額は出さないといけないかも知れないな。」
「……。」
僕はそれを聞いて、また急に不安になるのだった。
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