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第四章 縛りと役目

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 数日後、俺達は代表合宿が終わり、洸の引っ越しの手伝いをしていた。俺はスイセンを眠らせれば、引き離す必要もないんじゃないかと思ったが、スイセンを俺と離すのは夜だけだし、俺達親が居ると成長を遅らせてしまうらしい。こっちに帰って来てすぐに、母さんが俺のジャージに印を付ける為、家に来てくれた時にスイセンの話を少し聞いたのだ。


「洸、スイセンの事頼むな。夜うるさかったら、スイセンが霊体になる前に電話してこい」


「スイセンも、このぬいぐるみは凛がお前に預けるって、渡したやつなんやから、これ置いて来るのは許さんからな」


「分かった……僕頑張る。カカ様、僕早く大人になるから、ギュッてして」


「いいよ。スイセンは大人になっても、抱きしめるくらいしてあげるし、撫でてあげるから頑張ってね」


 俺がスイセンに渡したのは、三匹の子トラのぬいぐるみだ。俺が選んだぬいぐるみで、スイセンにとっては俺達がそばに居る気になれるだろうと渡したが、これを見た洸がボソッと「いいな」と呟いた。


「洸にはロケットペンダントね。スポーツ用のだから、ずっと付けててもいいよ。俺達の写真欲しがってたでしょ」


「凛くんが、スイセンにぬいぐるみ渡したら、洸も欲しがるんやないかって言ったんや」


「俺等三人だけの写真、お前何回か撮ろうとして失敗しとったやろ。普通に言えば撮らせたるのに」


 洸は、スイセンすらも写したくはなかったらしく、何度か挑戦していたが、なかなかあの合宿中では難しく、撮れる瞬間といえば、俺が二人に抱かれてる時だけだった。


「俺が抱かれてるとこ、撮られそうでヒヤヒヤしてたけど、我慢してたみたいだからね」


「ありがとう……大事にする!!」


 洸は俺に抱きつくと、珍しく渇き以外でキスをしてきた。


「凛……好き。大好き」


 うん。知ってる……洸が本当は俺を抱きたい事も、渇き以外でキスをしたら、回数関係なくしたくなる事も。


「んンッ……はぁ、洸……おち、ついて」


「自分の家に好きな子居ったら、そうなるよな……洸、凛くんが苦しそうや」


「ごめん、凛。嬉しくて……つい」


 まあ、尻尾を視れば嬉しいのは分かる。ただ……


「一番最初のゼルも、こんな感じだった」


「言わんでええやん!! あん時は、嬉しすぎて余裕無かったんや!! 洸……そのキスは、凛に拒まれるから、少し抑えた方がええで」


「分かった……キスって難しい」


「ブハッ……舌だけ絡めたらええやん。お前等は、ガッツリ口塞いでまうから、凛くんが苦しくなるんや」


 その後は、何故かキスのレクチャーが始まってしまい、洸の回数がオーバーしていたが、本人達が凄く真剣なものだから、俺も口を挟む事が出来ず、家に帰る頃にはグッタリしていた。


 本当にこの兄弟!! 俺キスで酸欠になって死ぬのだけは嫌だからね!? そんな恥ずかしい死に方したくない!!


「凛くん、ごめんな。大丈夫か?? 渇きとかない??」


「そう言えば……今日の洸、喉渇いたって言わなかったね。俺も大丈夫みたいだし」


「そら、あんだけキスしたらなぁ。凛からの誘いが無いのは残念やけど、しゃーないか」


 何言ってるの。あそこまで狂ったように求めないけど、俺だって誘うくらいはいつでも出来るよ。それに……


「久しぶりに俺達だけだよ。まだ夕方だけど……誘ってもいいでしょ??」


 俺はフェロモンを出してベッドに誘い、二人の鎖骨に噛み付くと、ゼンとゼルの目が光ってるよう見え、久しぶりの感覚にゾクッとする。


「正気の凛くんに、こんな可愛い誘われ方したら、朝まで離してやれんな」


「凛……そんな誘い方、いつ覚えたんや?? この歯で血でも吸いたかったん??」


 二人はそう言いながら、俺の中にゆっくり入ってくる。


「うん。離さないで……俺に全部ちょうだい。俺のも半分じゃなくて、全部ゼンとゼルにあげるから」


「ええよ……凛くんに全部あげるわ」


「俺のも……凛に全部あげる」


『凛、愛してる』


 その瞬間、フワフワした感覚になり、何か大事な情報がどんどん頭に入ってくる。変な感覚だけど、それは嫌ではなく、寧ろ全部大切な思い出で、二人の記憶も流れて混んでくる。


「ゼン、ゼル……俺……」


「言わんでええよ。思い出したんやろ?? オカンは記憶消したんやなくて、隠したんやな」


「俺等にも凛の記憶が入ってくるわ。凛が覚えとらん事もな……凛もそうやろ??」


「うん……これだけは言える。ゼン、ゼル……二人は捨てられてなんかなかった……よ」


 そこで急な眠気に襲われ、俺はまた少し長めの眠りについてしまった。


 ゼンとゼルは捨てられてなかった。父親である二人の神が消滅し、母親である神も耀と洸の様子からして、消滅してしまったのかもしれない。


 二人が地上で生まれてすぐ、一匹の大きな真っ黒い狼に襲われた。この狼が耀と洸の父親だろう。その狼は、重たい枷を壊して、ゼンとゼルに噛みつこうとしたが、二人の父親はゼンとゼルを守ろうとした結果、狼に魂ごと食い殺されてしまった。そう……狼は例えではなく、スイセンのように実体化した狼なのだ。


 それを見た母親はショックのあまり、自分も後を追うように消滅しようとしたが、食べられそうになっているゼンとゼルを見て、守ろうとした母親は二人を庇った。


「フェン……お願いよ。この子達だけは……やめて!!」


「そもそもお前が、僕の子を孕めば、神殺しなどせずに済んだんだ。僕の子を孕……い、嫌だ……ディンを傷つけた……二人を食べちゃった……これ以上は……」


 狼は自分と話しているのか、母親を押さえ付けながら、涙を流している。悲しい涙だった。


「フェン……貴方、感情がグチャグチャじゃない。私が枷を嵌めたから……それとも、愛さなかったから??」


「ディン、逃げ……嫌だ!!……孕め!! 僕の子だけを……愛して……」


 その後、耀と洸を孕んだ母親は、狼にゼンとゼルまで食われないように二人を手放した。ここからはゼンとゼルの記憶に繋がるんだろう。二人は死後、天界へ逝くと母さんと死神の話をしていた。そしてゼンとゼルは、何度目かの死で俺と出会い、無の感情に近かった二人は、どんどんいろんな感情を覚えていってるように感じた。


 ゼン、ゼル……何度も置いていってごめんね。でも、俺が二人と一緒になるには、最後の死は必要だったんだ。もうバレちゃったよね。お義母さんに、俺がお願いした事……俺が起きたら、二人は怒るかな?? それとも褒めてくれる??





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