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第四章 縛りと役目
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しおりを挟む次の日、俺は午前中だけ大学に行き、午後はファルコンの練習に行くと、誰も居ない部屋に連れて行かれて、母さんに洸は大丈夫だったかと聞かれた。
昨日の夕方頃に、スイセンの迎えに来た洸は、母さん達と会ってしまい、閉じ込めないでと怯えていたのだ。その時、俺は落ち着かせるように洸の頭を撫でると、母さんとお義母さんが、天界での事を洸に謝ってくれて、少し怯えながらも話し合いをした結果、何故か最後は俺の写真で盛り上がっていた。
「大丈夫だったよ。俺とゼンとゼルの写真も貰って喜んでたし……洸とスイセンのセットって可愛いよね」
「確かに可愛いわ。でも……あの尻尾大丈夫なの?? あんなに尻尾振る子、視た事ないんだけど。陣の尻尾はあまり動かないし……」
「やっぱ取れそうよな。大丈夫なもんなんかな……カイとレイですら、あそこまで振らんし」
「いやいや、大丈夫に決まっとるやん!! なんで気になるとこがそこなんや。今気にするとこは、なんでユラがここに居るんやっちゅう事なんやけど!!」
ユラは大学から俺にくっついて来てしまい、今は実体化して俺の肩に乗って寝ているのだ。陣とお兄ちゃんも、ユラが居なくなった事に気付いてないどころか、生まれた事にすら気付いてない様子で、連絡しても返信がこない。
「いや、いつの間にか居ったんや。凛から離れんし、喋ってもくれんから、どうしていいか分からんくてな」
「陣とお兄ちゃんにも連絡したんだけど、全然返信がこなくて、置いて行く訳にもいかないから連れて来たんだけど……」
「陣なら、今日は練習試合の筈よ。斗季は分からないけど、陣と離れてるなら気付かないんじゃないかしら」
せめてユラが、喋ってくれたらいいんだけど……なんで喋れないんだろう。スイセンも俺の中で爆睡してるしな。
「ユラ……ユラ起きて。陣の所に戻らなくていいの??」
ユラはすぐに起きてくれたが、やはり何も喋ってくれなくて、俺に頬に擦り寄ってくるだけだった。
「ユラ、凛くんから離れろ」
「兄貴、無理やで。俺が引っ張ったり命令したりしても、絶対に離れないんや。凛なら床に下ろしたりできるんやけど、またいつの間にか肩に乗っとる」
んー……これって母様と同じような事してるんだよな。なんでユラが出来るんだ??
「凛、思い当たる事があるんでしょうけど、言ってはダメよ。ゼンとゼルも、凛の記憶を共有したなら、気付いてる筈よ」
「あー……ほんまに理解出来んわ」
「陣の子やからって事やろ?? 陣は知っとるんですか?? 凛には??」
「凛には言ってもいいわよ。元々は凛の記憶だし、番なら大丈夫よ。ただ陣は知らないから、秘密にしておいて」
ゼンは、この現象について考えているのか、ユラを触ったり引っ張ったりして、いろいろ観察している中、ゼルはユラが居るからと言って、俺にスマホを見せてきた。そこには、陣が本当の双子だという事と、俺の方が先に生まれていた事が書かれていて、そこでやっと納得出来た。
「それなら、母様の方を引き継いだって事か。でも、なんで喋らないんだろう。それは関係ないよね??」
「多分喋れないのよ。ユラはこっちの子じゃないわ。迎えに来てもらった方が良いかしら」
母さんのその言葉に、ユラはフルフルと首を横に振って、俺の首に巻き付いてくる。
「うっ……く、苦しい」
「凛くん!! アカン、首絞まっとる!! ユラ!!」
「ユラ、落ち着け!!」
ダメだ……これは、どうする事も出来ない。スイセン、スイセン起きて。ユラを止めて。
「ユラ……カカ様に何してるの。僕のカカ様になんで乗ってるの。なんで首絞めてるの。許さない!!」
スイセンは起きてくると、大きい状態で実体化し、ユラに噛み付くと、ユラも大きくなって獣同士の喧嘩が始まってしまった。
「ゲホッ……ゲホッ」
「凛くん!! 大丈夫か!? もう今すぐ帰ろう」
「凛!! こんな事なら、置いてきたら良かった。家に居ったら安全や。家に帰ろう」
「落ち着きなさい。それより今はあの子達よ。この部屋には誰も居ないけど、実体化してるなら壁を壊すくらい簡単にするわ。凛、貴方なら止めれる筈よ。今なら声も出るでしょ??」
うぅ……母さん、俺はまだ獣の王とかそういうの分からないんだけど……そんなに凄いものなのか?? ゼンとゼルにも教えてあげたいんだけどな。
「ゼン、ゼル……なんで俺が、バラバラにされても、銃で撃たれても、川まで行けたのか見せてあげる。でもこれ、俺の場合は獣にしか効かないし、こっちでは出来る事が少ないから、少しだけね……それと、終わったら少し眠らせて」
慌てていた二人を、俺は抱きしめながら少し力を分けてもらい、一言だけ声を発すると、そのまま軽く眠りについた。
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