上 下
227 / 361
第四章 縛りと役目

37

しおりを挟む


 次の日、俺は午前中だけ大学に行き、午後はファルコンの練習に行くと、誰も居ない部屋に連れて行かれて、母さんに洸は大丈夫だったかと聞かれた。


 昨日の夕方頃に、スイセンの迎えに来た洸は、母さん達と会ってしまい、閉じ込めないでと怯えていたのだ。その時、俺は落ち着かせるように洸の頭を撫でると、母さんとお義母さんが、天界での事を洸に謝ってくれて、少し怯えながらも話し合いをした結果、何故か最後は俺の写真で盛り上がっていた。


「大丈夫だったよ。俺とゼンとゼルの写真も貰って喜んでたし……洸とスイセンのセットって可愛いよね」


「確かに可愛いわ。でも……あの尻尾大丈夫なの?? あんなに尻尾振る子、視た事ないんだけど。陣の尻尾はあまり動かないし……」


「やっぱ取れそうよな。大丈夫なもんなんかな……カイとレイですら、あそこまで振らんし」


「いやいや、大丈夫に決まっとるやん!! なんで気になるとこがそこなんや。今気にするとこは、なんでユラがここに居るんやっちゅう事なんやけど!!」


 ユラは大学から俺にくっついて来てしまい、今は実体化して俺の肩に乗って寝ているのだ。陣とお兄ちゃんも、ユラが居なくなった事に気付いてないどころか、生まれた事にすら気付いてない様子で、連絡しても返信がこない。


「いや、いつの間にか居ったんや。凛から離れんし、喋ってもくれんから、どうしていいか分からんくてな」


「陣とお兄ちゃんにも連絡したんだけど、全然返信がこなくて、置いて行く訳にもいかないから連れて来たんだけど……」


「陣なら、今日は練習試合の筈よ。斗季は分からないけど、陣と離れてるなら気付かないんじゃないかしら」


 せめてユラが、喋ってくれたらいいんだけど……なんで喋れないんだろう。スイセンも俺の中で爆睡してるしな。


「ユラ……ユラ起きて。陣の所に戻らなくていいの??」


 ユラはすぐに起きてくれたが、やはり何も喋ってくれなくて、俺に頬に擦り寄ってくるだけだった。


「ユラ、凛くんから離れろ」


「兄貴、無理やで。俺が引っ張ったり命令したりしても、絶対に離れないんや。凛なら床に下ろしたりできるんやけど、またいつの間にか肩に乗っとる」


 んー……これって母様と同じような事してるんだよな。なんでユラが出来るんだ??


「凛、思い当たる事があるんでしょうけど、言ってはダメよ。ゼンとゼルも、凛の記憶を共有したなら、気付いてる筈よ」


「あー……ほんまに理解出来んわ」


「陣の子やからって事やろ?? 陣は知っとるんですか?? 凛には??」


「凛には言ってもいいわよ。元々は凛の記憶だし、番なら大丈夫よ。ただ陣は知らないから、秘密にしておいて」


 ゼンは、この現象について考えているのか、ユラを触ったり引っ張ったりして、いろいろ観察している中、ゼルはユラが居るからと言って、俺にスマホを見せてきた。そこには、陣が本当の双子だという事と、俺の方が先に生まれていた事が書かれていて、そこでやっと納得出来た。


「それなら、母様の方を引き継いだって事か。でも、なんで喋らないんだろう。それは関係ないよね??」


「多分喋れないのよ。ユラはこっちの子じゃないわ。迎えに来てもらった方が良いかしら」


 母さんのその言葉に、ユラはフルフルと首を横に振って、俺の首に巻き付いてくる。


「うっ……く、苦しい」


「凛くん!! アカン、首絞まっとる!! ユラ!!」


「ユラ、落ち着け!!」


 ダメだ……これは、どうする事も出来ない。スイセン、スイセン起きて。ユラを止めて。


「ユラ……カカ様に何してるの。僕のカカ様になんで乗ってるの。なんで首絞めてるの。許さない!!」


 スイセンは起きてくると、大きい状態で実体化し、ユラに噛み付くと、ユラも大きくなって獣同士の喧嘩が始まってしまった。


「ゲホッ……ゲホッ」


「凛くん!! 大丈夫か!? もう今すぐ帰ろう」


「凛!! こんな事なら、置いてきたら良かった。家に居ったら安全や。家に帰ろう」


「落ち着きなさい。それより今はあの子達よ。この部屋には誰も居ないけど、実体化してるなら壁を壊すくらい簡単にするわ。凛、貴方なら止めれる筈よ。今なら声も出るでしょ??」


 うぅ……母さん、俺はまだ獣の王とかそういうの分からないんだけど……そんなに凄いものなのか?? ゼンとゼルにも教えてあげたいんだけどな。


「ゼン、ゼル……なんで俺が、バラバラにされても、銃で撃たれても、川まで行けたのか見せてあげる。でもこれ、俺の場合は獣にしか効かないし、こっちでは出来る事が少ないから、少しだけね……それと、終わったら少し眠らせて」


 慌てていた二人を、俺は抱きしめながら少し力を分けてもらい、一言だけ声を発すると、そのまま軽く眠りについた。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,265pt お気に入り:33

初恋の実が落ちたら

BL / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:124

【完結】その約束は、陽だまりで…。

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:11

【R-18・連載版】部長と私の秘め事

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:3,941pt お気に入り:732

仲良しな天然双子は、王族に転生しても仲良しで最強です♪

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:887pt お気に入り:307

ふたなり性徒会

大衆娯楽 / 連載中 24h.ポイント:49pt お気に入り:86

処理中です...