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~ 二 ~ チーム・ラオ始動!
第三十話
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眼鏡の似合う知的な少女。彼女もガスリー伯のメイド⁉
「そ、そうなんですか?」
だとしたら昼間、屋敷で顔を合わせるはずだが……
「私は伯爵の事業を手伝っているから、普段、伯爵の事務所にいるの」
エスカフローネはペンを止めることなく、スラスラと応える。
「はあ……」
メイドなのに事業を手伝うなんて――なんかスゴいなあ……と考えてしまう。
いろいろ聞きたいが、邪魔してはいけないと、炊事場に足を運びお茶を淹れる。ここのチームハウスには何度も入っているので、勝手知ったる――だ。
戻って、ポットを置くと「ありがとう」とエスカフローネがニッコリほほ笑む。
「やあ、ニーニャちゃん。いつも早いね」
男性の声、チーム・オブライエン、キート地区の代表であり、この国の王子でもある、ジェラルド・ビルヌーブ・ヤーハン殿下だ。
「おはようござ……」
ニーニャがあいさつを返す前に、エスカフローネが割って入る。
「トレーナー! 何ですか⁉ この領収証は⁉」
えっ? 領収証?
「あ、それね――貴族たちと食事をした時のモノだよ」
「それはこっちですよね? これは何です⁉」
「ああ……その時には盛り上がってね。もう一軒――」
「ダメです! これは経費で落ちません!」
ジェラルドの胸に紙を押し付ける。
「えーっ? そこをなんとか――エスカちゃんのチカラで……」
「何を言っているのですか⁉ それは立派な犯罪です! それに、この雑費は異常です! いくら、チーム・オブライエンでも、これじゃ破産します! お金の使い方を見直してください!」
マシンガンのようにまくし立てるエスカフローネ。ジェラルドはタジタジだ。
こうなるとどちらが偉いのかわからない。まるで、社長を叱る敏腕秘書のようだ。
「ここでも経理担当をしているのかい?」
チームハウスに入ってきた男性。
「伯爵⁉ お、おはようございます」
ニーニャ達のオーナー、ガスリー伯爵だった。慌てて頭を下げる。
伯爵は「おはよう」と挨拶を返したあと――
「しかしエスカフローネ君、そのくらいにしたらどうだ? ジェラルドも困っているじゃないか?」
「オーナー! ちょうどお話したいことがあったんです!」
「――えっ?」
「今月の綿花の仕入れ値、何ですかあれは⁉」
まさか、自分まで振られるとは思わなかったガスリー。「いや、とても良い綿花だったんでな……」と、しどろもどろになる。
「それでも、市場の五割増しはありえないでしょ⁉ 製品価格に転嫁できませんよ! 大赤字です!」
いつもは堂々としているガスリーも、完全に気迫負けしていた。
そんな三人の会話に入り込める雰囲気はとてもないと思ったニーニャ。そろそろと後ずさりする――と、うしろから――
「ニーニャちゃん、おはよう」
ひときわ身長の高いナターシャが声を掛けてきた。
「お、おはようございます」
「なあに? またやっているの? 大変ね」
大人二人が少女に叱られている様子をチラ見する。言葉とは裏腹に、楽しそうなナターシャだ。ニーニャが「また――なんですか?」と質問する。
「ええ、エスカちゃん、敏腕の経理担当なの。彼女がここに来てから三カ月で、ずいぶん、このチームの財政支出も健全化したのよ。まあ、ほとんど、トレーナーのムダ遣いが原因なんだけど……」
「えっ? 三カ月? それじゃ――」
「うん、ニーニャちゃんと同い年。そして今週デビュー戦のはずよ」
「えっ……ええーつ⁉」
「そ、そうなんですか?」
だとしたら昼間、屋敷で顔を合わせるはずだが……
「私は伯爵の事業を手伝っているから、普段、伯爵の事務所にいるの」
エスカフローネはペンを止めることなく、スラスラと応える。
「はあ……」
メイドなのに事業を手伝うなんて――なんかスゴいなあ……と考えてしまう。
いろいろ聞きたいが、邪魔してはいけないと、炊事場に足を運びお茶を淹れる。ここのチームハウスには何度も入っているので、勝手知ったる――だ。
戻って、ポットを置くと「ありがとう」とエスカフローネがニッコリほほ笑む。
「やあ、ニーニャちゃん。いつも早いね」
男性の声、チーム・オブライエン、キート地区の代表であり、この国の王子でもある、ジェラルド・ビルヌーブ・ヤーハン殿下だ。
「おはようござ……」
ニーニャがあいさつを返す前に、エスカフローネが割って入る。
「トレーナー! 何ですか⁉ この領収証は⁉」
えっ? 領収証?
「あ、それね――貴族たちと食事をした時のモノだよ」
「それはこっちですよね? これは何です⁉」
「ああ……その時には盛り上がってね。もう一軒――」
「ダメです! これは経費で落ちません!」
ジェラルドの胸に紙を押し付ける。
「えーっ? そこをなんとか――エスカちゃんのチカラで……」
「何を言っているのですか⁉ それは立派な犯罪です! それに、この雑費は異常です! いくら、チーム・オブライエンでも、これじゃ破産します! お金の使い方を見直してください!」
マシンガンのようにまくし立てるエスカフローネ。ジェラルドはタジタジだ。
こうなるとどちらが偉いのかわからない。まるで、社長を叱る敏腕秘書のようだ。
「ここでも経理担当をしているのかい?」
チームハウスに入ってきた男性。
「伯爵⁉ お、おはようございます」
ニーニャ達のオーナー、ガスリー伯爵だった。慌てて頭を下げる。
伯爵は「おはよう」と挨拶を返したあと――
「しかしエスカフローネ君、そのくらいにしたらどうだ? ジェラルドも困っているじゃないか?」
「オーナー! ちょうどお話したいことがあったんです!」
「――えっ?」
「今月の綿花の仕入れ値、何ですかあれは⁉」
まさか、自分まで振られるとは思わなかったガスリー。「いや、とても良い綿花だったんでな……」と、しどろもどろになる。
「それでも、市場の五割増しはありえないでしょ⁉ 製品価格に転嫁できませんよ! 大赤字です!」
いつもは堂々としているガスリーも、完全に気迫負けしていた。
そんな三人の会話に入り込める雰囲気はとてもないと思ったニーニャ。そろそろと後ずさりする――と、うしろから――
「ニーニャちゃん、おはよう」
ひときわ身長の高いナターシャが声を掛けてきた。
「お、おはようございます」
「なあに? またやっているの? 大変ね」
大人二人が少女に叱られている様子をチラ見する。言葉とは裏腹に、楽しそうなナターシャだ。ニーニャが「また――なんですか?」と質問する。
「ええ、エスカちゃん、敏腕の経理担当なの。彼女がここに来てから三カ月で、ずいぶん、このチームの財政支出も健全化したのよ。まあ、ほとんど、トレーナーのムダ遣いが原因なんだけど……」
「えっ? 三カ月? それじゃ――」
「うん、ニーニャちゃんと同い年。そして今週デビュー戦のはずよ」
「えっ……ええーつ⁉」
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