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第三話 クズ勇者、ダンジョンへ行く
その二十七
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「それじゃ、オレたちも王国へ帰るわ」
「おや? ファーナンドには行かないのですか?」
ロゼルが不思議そうな顔をするので、「いや、寄らないことにする」と応える。
実のところ、ナタリアに会うのが怖い。なにせ、ロゼルから魔力を奪ってしまったものなあ――『教会の至宝になんてことをしてくれたんだ!』と剣幕でまくしたてるナタリアの顔しか思い浮かばない。
前の人生でも教会の人たちばかりでなく、市民からも石を投げつけられファーナンドの街から追い出された。さすがに、あれがトラウマになっている。
「そうですか――ナタリアが残念がりますよ」とロゼル。そりゃあ、『逃げるんじゃない! 一発と言わず、数発殴らせろ!』と残念がるだろう――
「それなら、私たちも途中まで一緒させてもらうわ」とサリア。
彼女たちの故郷は帝国の外れらしいのだが、そこに残してきた兄弟たちに、今回手に入れた財宝を持って帰るのだそうだ。
自由奔放に生きているのかと思っていたが、けっこう苦労しているんだなぁ――
「わかりました、それではお元気で、ニグレアとクローゼに会うことがあったらよろしく言っておいてください」
「――ロゼルは王国へ戻らないのか?」
「ええ、もう私は勇者パーティにいる資格はないですからね。田舎に帰って、畑でも耕して生活しますよ」と笑う。
「ロゼル……本当にすまない。もし、魔法毒を解毒する方法が見つかったら、連絡するよ」
オレがそう言うと、ロゼルは「その必要はありません」と言う。
「私はもともと農家の子供でしたから、やっと、本来の仕事に戻るだけです。それに、私の両親の仇はきっとアナタが討ってくれますから」
――えっ?
「いや、オレはもう勇者じゃない。魔王を討つのは勇者の仕事だろ?」
ロゼルは、「そうですね。勇者の仕事です」とだけ口にした。
「ロゼル、これはボクからの餞別――」とマルタはリュックから金色の首飾りを出す。真ん中には蒼玉が取り付けられている。
「もしかして、魔除け石ですか」ロゼルがたずねると、「そうだよ。王の間の宝物庫で見つけたんだ」とマルタはうれしそうに笑った。
魔除け石――自然界ではとても貴重な光魔法が含まれる鉱石でできている。その名の通り、魔物や魔族など光魔法を嫌う種族が忌避する。この大きさだと、市場では金貨十枚は下らないだろう。
「こんな貴重なモノはいただけません。マルタが持っていてください」
「ううん。ロゼルは魔法が使えないのでしょ? だから、それで自分の身を守ってほしいんだ。それに、ボクはグエルが守ってくれるから」
照れながら、そんなことを言う。
「ああ、マルタのことはオレが守ってやる。だから、それはロゼルが持っていればイイ」
そう、オレはマルタの頭を撫でた。
すると、サリアがオレたちをニヤニヤしながら見る。
「なんだよ。気持ち悪いなあ。何が言いたい?」
「ねえ? もしかして、グエルとマルタって付き合っているの?」
――えっ?
「「「え、ええぇぇぇぇっ!」」」オレだけでなく、マルタとなぜかフィルも大声を出す。
「な、な、な、何を言っている!」
「だって、ダンジョンの時から、ふたりってタダならぬ雰囲気だったし――それに、グエルはさっきロゼルとキスしていたでしょ? やっぱりグエルって、そういう性癖なのかと――ねえ! やっぱりそうなんでしょ」と、興味津々という顔で迫ってくる。
だから性癖ってなんだよ!
ロゼルとキスって、あれは救護だろ!
一緒にするな!
「グエル――申し訳ない。私はそうゆう趣味はないので――」とロゼルは目を背ける。だから、勘違いすんじゃねえ!
「それで、どっちが攻めで、どっちが受けなの?」
「どっちでもねえ! そういう言い方をするな!」
「せめ? うけ?」とフィルがきょとんとした顔をするので、ミリアが耳元でゴニョゴニョと説明する。とたんにフィルの顔が真っ赤になった。
こらぁ! 余計なことを吹き込むなぁ!
「大丈夫です。私はわかっていますから!」とフィルが真剣な目でオレの手を握る。
「フィル……」
「女性で、一番愛しているのは私なのですよね!」
わかってねえぇぇっ! どいつもこいつもオレを偏愛主義者にしようとすんじゃねえ!
「おや? ファーナンドには行かないのですか?」
ロゼルが不思議そうな顔をするので、「いや、寄らないことにする」と応える。
実のところ、ナタリアに会うのが怖い。なにせ、ロゼルから魔力を奪ってしまったものなあ――『教会の至宝になんてことをしてくれたんだ!』と剣幕でまくしたてるナタリアの顔しか思い浮かばない。
前の人生でも教会の人たちばかりでなく、市民からも石を投げつけられファーナンドの街から追い出された。さすがに、あれがトラウマになっている。
「そうですか――ナタリアが残念がりますよ」とロゼル。そりゃあ、『逃げるんじゃない! 一発と言わず、数発殴らせろ!』と残念がるだろう――
「それなら、私たちも途中まで一緒させてもらうわ」とサリア。
彼女たちの故郷は帝国の外れらしいのだが、そこに残してきた兄弟たちに、今回手に入れた財宝を持って帰るのだそうだ。
自由奔放に生きているのかと思っていたが、けっこう苦労しているんだなぁ――
「わかりました、それではお元気で、ニグレアとクローゼに会うことがあったらよろしく言っておいてください」
「――ロゼルは王国へ戻らないのか?」
「ええ、もう私は勇者パーティにいる資格はないですからね。田舎に帰って、畑でも耕して生活しますよ」と笑う。
「ロゼル……本当にすまない。もし、魔法毒を解毒する方法が見つかったら、連絡するよ」
オレがそう言うと、ロゼルは「その必要はありません」と言う。
「私はもともと農家の子供でしたから、やっと、本来の仕事に戻るだけです。それに、私の両親の仇はきっとアナタが討ってくれますから」
――えっ?
「いや、オレはもう勇者じゃない。魔王を討つのは勇者の仕事だろ?」
ロゼルは、「そうですね。勇者の仕事です」とだけ口にした。
「ロゼル、これはボクからの餞別――」とマルタはリュックから金色の首飾りを出す。真ん中には蒼玉が取り付けられている。
「もしかして、魔除け石ですか」ロゼルがたずねると、「そうだよ。王の間の宝物庫で見つけたんだ」とマルタはうれしそうに笑った。
魔除け石――自然界ではとても貴重な光魔法が含まれる鉱石でできている。その名の通り、魔物や魔族など光魔法を嫌う種族が忌避する。この大きさだと、市場では金貨十枚は下らないだろう。
「こんな貴重なモノはいただけません。マルタが持っていてください」
「ううん。ロゼルは魔法が使えないのでしょ? だから、それで自分の身を守ってほしいんだ。それに、ボクはグエルが守ってくれるから」
照れながら、そんなことを言う。
「ああ、マルタのことはオレが守ってやる。だから、それはロゼルが持っていればイイ」
そう、オレはマルタの頭を撫でた。
すると、サリアがオレたちをニヤニヤしながら見る。
「なんだよ。気持ち悪いなあ。何が言いたい?」
「ねえ? もしかして、グエルとマルタって付き合っているの?」
――えっ?
「「「え、ええぇぇぇぇっ!」」」オレだけでなく、マルタとなぜかフィルも大声を出す。
「な、な、な、何を言っている!」
「だって、ダンジョンの時から、ふたりってタダならぬ雰囲気だったし――それに、グエルはさっきロゼルとキスしていたでしょ? やっぱりグエルって、そういう性癖なのかと――ねえ! やっぱりそうなんでしょ」と、興味津々という顔で迫ってくる。
だから性癖ってなんだよ!
ロゼルとキスって、あれは救護だろ!
一緒にするな!
「グエル――申し訳ない。私はそうゆう趣味はないので――」とロゼルは目を背ける。だから、勘違いすんじゃねえ!
「それで、どっちが攻めで、どっちが受けなの?」
「どっちでもねえ! そういう言い方をするな!」
「せめ? うけ?」とフィルがきょとんとした顔をするので、ミリアが耳元でゴニョゴニョと説明する。とたんにフィルの顔が真っ赤になった。
こらぁ! 余計なことを吹き込むなぁ!
「大丈夫です。私はわかっていますから!」とフィルが真剣な目でオレの手を握る。
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