見合い相手が女装した男だった。しかも僕のストーカーらしい。

一一(カズイチ)

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脅迫状編

メス堕ちじゃないんだからね

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「お相手との顔合わせは上手くいったようですね」
「……母上は本当に、この縁談を成立させるつもりですか?」
「勿論です。冷やかしでする事ではないでしょう。貴方こそ覚悟を決めなさい」

 ピシャリと言い切られて、ラインハルトの顔が引きつった。

(マジかよ)

 初回の顔合わせの翌日。
 マクガーデン家当主からマリアンヌに、縁談続行の連絡が来た。
「是非近いうちに」と相手は乗り気で、2度目のマクガーデン家への招待付き。
 元より縁談に乗り気のマリアンヌは、息子の意思を確認する事なく了承の返事を出した。

「ここまでお膳立てしているのです。次回も上手くやるのですよ」
「母上。僕は男色家ではありません」
「分かっています。分かっているからこそ、マクガーデンのお嬢さんと引き合わせたのです」
「いえ、分かってませんよね」

 強めに主張しても、マリアンヌが息子の言葉を聞き入れる様子はない。

(理解ある振りをして、自分の都合を押し付けてるじゃないか!)

 不満が喉まで出かかったが、ラインハルトも大人だ。前世と合算すれば、100歳超えているので母親を非難する声を飲み込んだ。
 彼女は苦労しながら子供達を育てた。
 使用人が居たとはいえ、シングルマザーは大変だ。

 未婚で死んだ春は出産も子育て経験も無い。
 仕事だって自分一人を養うくらいの気軽さだったので、経済的な負担も少なかった。
 前世で妹や友人達が子供の世話をする姿を見て、自分にはとてもできないと思ったのを覚えている。

 何もマリアンヌは悪意があって、息子に男の嫁を宛てがおうとしている訳ではない。
 彼女なりに息子に寄り添った結果、女として育てられた男と言う奇跡のような物件を掘り当てたのだろう。

「ルイーゼ嬢が貴方に是非話したいことがあるそうよ。次の休みに伺うと返事をしておきました」
「そんな勝手な」
「貴方は筆無精ですからね。返事を任せたら何日も放置するでしょう。仕事ではそんな事がないのに、プライベートはいつまでも子供の頃のままなんですから」

 溜息をつくマリアンヌに、ラインハルトはぐうの音も出ない。
 前世はスタンプ1つで返信できたのに、今は下書きなしの一発勝負で挨拶から手書きしなければいけない。
 異世界転生して最も不便だと感じているのがこれだ。
 この世界は写真はあるが、電話はないので、連絡手段は手紙しかない。



**



 マリアンヌは本気でこの縁談をまとめるつもりだ。
 大学内の部屋でラインハルトが項垂れていると、恐る恐るといった風にアーサーが声を掛けてきた。

「ハルさん、お見合いどうだった? もしかして相手の人好きになっちゃった?」
「それは無い……」

 ラインハルトは半眼で力なく答えた。
 それでも麗しい憂い顔に見えるのだから、美形は得である。

(女装強姦魔に一目惚れとかヤバ過ぎんだろ)

 建前では無く、本音で否定しているのを察知してアーサーの顔がほころぶ。

「そっか! あれ? もしかしてハルさん調子悪い?」
「ああ。ちょっとした筋肉痛です」
「足……いや、腰かな。マッサージしようか?」
「筋肉痛は休めるのが一番ですから。気持ちだけもらっておきます、ありがとう」

(そもそも筋肉痛じゃないし)

 表面上はいつも通りだが、ラインハルトの些細な変化に体の不調を読み取ったらしい。
 この国の騎士団は、警察+自衛隊な存在だ。
 アーサーは身体能力だけでなく、洞察力もあるのでスカウトされている。

 ラインハルトの不調の原因は、先日の凶行により傷ついた後孔だ。
 もしかしたら内壁も傷付いているかもしれない。
 ピリっと痛むだけでなく、偶に血が付着するのだ。

 初めての切れ痔。
 見えない場所なので自分ではどうしようもなく、かと言って家の専属医に診せる事もできない。専門家が見れば、何が原因で傷付いたのか一目瞭然だ。
 家中に「ラインハルト男色確定のお知らせ! しかも受け!」が広がることになる。



 触れなければ痛みを感じることはないが、ふとした拍子に少量の出血がある。
 ラインハルトの下半身がそんな状態になった頃、2度目の訪問の日を迎えた。

 あの令嬢()と顔を合わせる事に、最初は憂鬱な気持ちを抱いていたが、ラインハルトは徐々に心待ちにするようになった。

 快楽堕ちではなく、あの時言えなかった不満が後から後から出てきて抑えられなくなったからだ。
 一言、いや二言三言くらい言ってやらなくては気が済まない。
 しかし、完全に文句だけ言いたい訳でもない。
 レイプ魔とはいえ、かなりの美少年。
 二重でアーモンド型の目、卵形の輪郭の所為で少し幼く見えるが、年齢的には大学生くらいだろう。

 ラインハルトの勤め先は、男子専用の寄宿学校および男女共学の大学が一つの敷地にまとまった学舎だ。
 共学と言えどまだ女性の社会進出は少なく、進学する女子は余程の傑物だ。
 圧倒的に男女比が偏っているので、過ち防止の為に寄宿学校と大学の間には柵があり行き来できるのは職員のみ。

 ラインハルトは非常勤講師も兼ねているので、寄宿学校の方で教鞭をとる事もある。
 日頃から未成年の若者を見慣れているからこそ、年齢の見立てには自信がある。

 見合い相手の彼は、本来であれば同世代の友人達と窮屈でありながら自由な学生生活を謳歌している筈の年齢だ。
 目の前のできごとで一喜一憂し、大人になれば些細な問題も人生をかけた大問題のように頭を悩ませる。
 将来の事よりも、今日の課題の方が心配で。
 責任感よりも、友達との義理の方が大事で。
 彼はそんな青春とは無縁で、あの綺麗で広い屋敷で静かに過ごしている。

 マクガーデン家は手広く商売をしており、伯爵家の中でも特に裕福な家だ。
 金銭的な不自由はないが、だからこそ醜聞を表に出すことができないのだろう。
 無名の伯爵家であれば、性別に関して後からしれっと修正申告して役人に金を握らせれば終わりだ。

(人生の先輩として、専門ではないが教職に就く者として力になろう)

 最近少し下半身が疼くと言うか、あの日の感覚を体が勝手に思い出そうとするが気の所為だ。

(僅かに気持ちよくなりかけただけだし、違和感の方が強かった)

 ラインハルトは別に2回目に期待している訳ではない。

(だから快楽堕ちではない筈だ。絶対に!)
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