【完結】魅了魔法のその後で──その魅了魔法は誰のため? 婚約破棄した悪役令嬢ですが、王太子が逃がしてくれません

瀬里@SMARTOON8/31公開予定

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1 悪役令嬢は負けた

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異世界から聖女様がやってきたのは、一年と半年ほど前のことだった。


◇◇◇◇◇


このロヴェルダイン王国には、聖女伝説がある。
百年に一度くらい、聖なる力を持った聖女が異世界から降臨するのだ。
その逸話は、民にもよく知られている。

聖女は祝福をもたらす力を持っていて、それはそれは大事にされ、崇められる。その崇拝を取り込むために、聖女が王室と婚姻を結ぶことは、もはやこの国の慣例になっていた。

百年前に降臨した先代の聖女も当時の王太子と結婚していた。今回の聖女降臨に際し、人々が聖女と王太子の結婚を考え始めたのも当然の流れだった。
そしてそれを阻む婚約者が邪魔者扱いされるのも、まあ自然なことだった。当時すでに王太子との仲が危ぶまれていた婚約者は、針のむしろにいるような状態に陥ったわけだ。
聖女がこれまたよくできた人物で、人々のために何かをしたいという博愛精神に満ち溢れた献身的な人柄だったのもそれに拍車をかけた。

聖女は王太子に恋をしているようだったし、王太子も聖女にまんざらでもないのは、周りで見ていた誰もが気づいていた。
婚約が破棄されるのは、時間の問題だったのだ。

そして、国民がしびれを切らせて、婚約者を悪役令嬢と呼び始めたころ、それは起こった。

王太子と婚約者、聖女の通う学園の卒業パーティで、王太子が悪役令嬢に婚約破棄を言い渡したのだ。

悪役令嬢は負けたのだ。

それが、一年前のことだった。


◇◇◇◇◇


「ねえねえ、聞いた? 王太子殿下の婚約式がやっと決まったんだって」
「聖女様との一年越しの恋を実らせたのねえ」
「あの元婚約者、ひどかったらしいじゃない。ほんと別れて正解よね」

隣の席の女性たちは、楽しげに噂話に花を咲かせている。
私は、この港町のお気に入りのカフェのお気に入りの席でくつろぎながら、のんびりと噂話に耳をそばだてていた。

「思ったより長くかかったわよね。大衆の面前での婚約破棄でしょ。最初の熱愛ぶりから、すぐにご結婚なさるかと思っていたのに」

(そうよねえ。思ったより時間がかかったんで私も驚いてる)

「婚約破棄から次の婚約まで1年は置かないと諸外国に対して決まりが悪かったんじゃないの?」
「悪女だっていう元婚約者は、曲がりなりにも公爵令嬢だったわけでしょう? 上位貴族の面子を立てたのかもしれないわ」

(確かにそうかもしれない。王室に変な印象がつかないためには、最低限の礼儀と常識はあることを見せた方がいいしね)

「そう言えば、元婚約者はどうしてるのかしら? 話を聞かないけれど」
「社交の場に全く出てこなくなってしまったらしいわよ」
「まあ、そうでしょうね。恥ずかしくて外を出歩けないでしょうね」

私は、そこまで聞くと席を立った。



外に出ると、港町の独特な潮の香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
胸いっぱいに香りを吸い込んで大きく伸びをする。

「うーんすがすがしい」

私は数か月前からこの港町に滞在している。
ちなみに、この一年ほどは、数か月ごとに国内の様々な都市を巡り、その地域の文化と生活を楽しむ旅をしていた。
何からも追い立てられない、のんびりまったりの旅生活は、とても充実していて楽しかった。

「王室の婚約って、そのあと、主要都市訪問があるのよね」

(この町にもきっと来るよね。それまでにはここを出ようかなあ。関係者もいっぱいくるだろうし、何があるかわからないし)

「そろそろ外国に行くのもいいかもしれない」

「そうやってまた逃げ出すつもりか」

低く、澄んだ、声だった。
冷たい余韻を残す聞き覚えのあるその声に顔を上げると、そこには──彼がいた。

金髪に碧眼。切れ長の瞳に通った鼻筋。舞台俳優もしっぽを巻く整った顔立ち。
けれど、彼の身分を物語るのはその容姿ではない。
その身にまとう、支配者たる威厳。

セディアス・ヴァル・ロヴェルダイン──殿下。この国の王太子だ。

そして私は彼がここに来た理由を知っている。

リシェル・ノクティア・エルグレイン──婚約破棄されたくだんの悪役令嬢とは、私のことだからだ。

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