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4 エロ魔王に訊いてみな(その2)
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体育館を通り過ぎて普通教室棟へ入ったところで、とりあえず思いついたことを言ってみる。
「ブルマってさ、“タイトスカート尻”とか“巨乳”とか“透けブラ”とかとは違って、“流通してる商品”なわけだろ」
「それがどうかしたのです?」
「いや、もしブルマにエロ妄想を抱いてるヤツがいたら、ブルマを手に入れることを考えそうな気がするんだよな。そういうヤツを探す道具みたいなのは持ってないのか」
「う~ん、ないのです」
「全校の男子生徒に尋ねて回るわけにはいかないしな」
廊下や教室は登校してきた、あるいは始業を待つ生徒たちの談笑で早くも賑わっている。
いくつめかの教室の前にさしかかった時、前から歩いてくる数人の女生徒がギィアに目を留めた。
昨日の昼休みに話してた“結い髪トリオ”である。
「ギィアちゃん、ぐっもーにん」とツインテール彦崎真澄が言えば、
「ぐーてんもーげん」と三つ編み米原芳香、
「ぼんじょるの」とシニヨン池野冬美が続いて、
「おはようなのです」とギィアが返す。
静刻がこの三人から有用な情報は引き出せないものかと、漠然と考えた時、それに反応したらしいAR機能がメッセージボックスを開いて池野冬美の“所属する委員会”を表示させた。
「なるほど」
静刻はギィアの耳元に顔を寄せてささやく。
「わかったのです。訊いてみるのです」
静刻とギィアが“結い髪トリオ”に続いて教室へと入る。
三人の席は窓側で、それぞれが席につくが、もちろん、ギィアと静刻には席がない。
三人の席をぐるりとまわりこんだギィアはしゃがんで窓の下に背を預ける。
一方の静刻は少し離れた窓枠にもたれかかって教室を見渡す。
その様子は昨日と変わらず、朝だというのに静刻の体験した中学時代よりも騒々しい。
教室の後方を占有している派手なグループがこのクラスの中核、言わば最大派閥のようだった。
男女合わせてクラスの半数近くが固まっているその一角に、当然のような顔をした中辺がいるが、誰も中辺には話しかけず目も向けない。
やはり“当人だけ”が“最大勢力の一員”と思っているだけで、他のメンバーからは相手にされてないのが見て取れた。
思わず苦笑する静刻と目があった中辺が怒声を上げる。
「なに見てんだ、こら」
まためんどくさいことになりそうなので、あえて、聞こえないふりをする。
そんな静刻へ中辺が罵声を続ける。
「びびって目ぇそらすくらいなら最初から見てんじゃねえよ、バーカ」
そして、一瞬静まりかえった“最大派閥”へ笑いかける。
「あのバカ、鬱陶しくてよう」
しかし、例によって“最大派閥”の誰も反応しない。
中辺自身が存在しないかのようにそれぞれの談笑を再開する。
「哀れよの」
静刻はぼそりとつぶやき、改めて周囲の話題に耳を澄ませる。
盛り上がっている内容は“昨日見たテレビ番組について”である。
可聴範囲内の各グループに意識を向けてみるが、どのグループもそれは変わらない。
とはいえ世間の話題を独占するほどの超人気番組が放送されているわけでもなければ、大きなニュースがあったわけでもない。
この時代のこの町には都市部とはちがって夜に中高生が出歩くスポットもなければ、おそらくコンビニもまだないのだろう。
かといって家にいたところでパソコンもスマホもない。
ゲーム機はあるだろうが、自分専用のテレビを持ってない限り家族の揃う夜に遊ぶことができない。
特にこの時代における親世代はテレビゲームを知らない世代であり、こどもと一緒にゲームを嗜むどころかこどもがゲームで遊ぶこと自体をよく思わない世代なのだ。
そんな世界において夜の過ごし方といえば“家族でテレビ”が圧倒的多数を占めることは言うまでもない。
さらにこの時代における地方のテレビといえばBSもCSも存在しないうえ、民放はローカル二局のみなのでクラスのほぼ全員が同じ番組を見ている可能性が極めて高い。
十代向けの情報番組でMCが“これを知ってる君は明日からクラスの人気者っ!”みたいな煽りをいれてくる演出があるが、あれは言うまでもなく“その番組を見ているのが君だけ”の場合にのみ適用されるケースである。
つまり、都市部のようにテレビを見ること自体が複数ある夜の過ごし方における選択肢のひとつであり、さらにその番組がいくつかあるチャンネルのひとつであればこその話であり、ほとんどのクラスメートが同じ番組を見て同じ情報を得ているこの田舎町ではその煽りになんの意味もないのだ。
そんな教室の中でテレビ以外の話題に耽るグループがある。
もちろんギィアと“結い髪トリオ”である。
「そんなの見たことないよ」
答える池野冬美は“購買委員”だった。
ここ山葵坂中学校の購買は外部業者への委託ではなく、生徒自身によって運営されている。
つまり、購買委員が商品の発注や在庫管理を行い、当番制でレジを打つのだ。
「少なくとも私が当番の時はブルマ買ってる男の子とか見たことないなー」
「じゃあ、たとえば盗まれたとか、みたいな話はないのです?」
「そんなのあるわけないじゃん。ねー」
同意を求められた彦崎真澄がツインテールを揺らしながら笑う。
「ないない。面白いねー。ギィアちゃんは」
「本当にないです?」
「ないってば。だいたい、ガッコー来てから帰るまで穿きっぱなしなのに、どーやったら盗まれるのさ」
そこへ割り込んだのは米原芳香。
「あ、でも、洗濯して干してたら盗まれるってトーコが言ってた」
トーコって誰だ?――と思う静刻をよそに、ギィアが前のめりで三人に詳細を催促する。
「あ、あるのです?」
芳香が答える。
「でも干してて盗まれるのってブルマに限んないって。スカートとかタンクトップとか」
「それって“ブルマだから”じゃなくて“トーコだから”じゃないの?」
と眉をひそめる真澄に冬美が乗っかる。
「かもねー。山葵坂中のエロ女帝だからねー」
一斉に上がる笑い声に合わせるかのように朝のショートホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。
廊下で他クラスの友人と話してた者や教室のあちこちに分散して談笑していた者たちがばたばたと着席する。
静刻とギィアはそのどさくさに紛れて教室を出る。
そんなふたりと入れ違いで、廊下からとなりの“二年二組”へ入っていくひとりの女生徒がいた。
その頭上に静刻のARがメッセージボックスを表示させる。
“氏名:国見桐子”
その女生徒は二十歳の静刻が思わず立ち止まるほどの色香をまとっていた。
「ブルマってさ、“タイトスカート尻”とか“巨乳”とか“透けブラ”とかとは違って、“流通してる商品”なわけだろ」
「それがどうかしたのです?」
「いや、もしブルマにエロ妄想を抱いてるヤツがいたら、ブルマを手に入れることを考えそうな気がするんだよな。そういうヤツを探す道具みたいなのは持ってないのか」
「う~ん、ないのです」
「全校の男子生徒に尋ねて回るわけにはいかないしな」
廊下や教室は登校してきた、あるいは始業を待つ生徒たちの談笑で早くも賑わっている。
いくつめかの教室の前にさしかかった時、前から歩いてくる数人の女生徒がギィアに目を留めた。
昨日の昼休みに話してた“結い髪トリオ”である。
「ギィアちゃん、ぐっもーにん」とツインテール彦崎真澄が言えば、
「ぐーてんもーげん」と三つ編み米原芳香、
「ぼんじょるの」とシニヨン池野冬美が続いて、
「おはようなのです」とギィアが返す。
静刻がこの三人から有用な情報は引き出せないものかと、漠然と考えた時、それに反応したらしいAR機能がメッセージボックスを開いて池野冬美の“所属する委員会”を表示させた。
「なるほど」
静刻はギィアの耳元に顔を寄せてささやく。
「わかったのです。訊いてみるのです」
静刻とギィアが“結い髪トリオ”に続いて教室へと入る。
三人の席は窓側で、それぞれが席につくが、もちろん、ギィアと静刻には席がない。
三人の席をぐるりとまわりこんだギィアはしゃがんで窓の下に背を預ける。
一方の静刻は少し離れた窓枠にもたれかかって教室を見渡す。
その様子は昨日と変わらず、朝だというのに静刻の体験した中学時代よりも騒々しい。
教室の後方を占有している派手なグループがこのクラスの中核、言わば最大派閥のようだった。
男女合わせてクラスの半数近くが固まっているその一角に、当然のような顔をした中辺がいるが、誰も中辺には話しかけず目も向けない。
やはり“当人だけ”が“最大勢力の一員”と思っているだけで、他のメンバーからは相手にされてないのが見て取れた。
思わず苦笑する静刻と目があった中辺が怒声を上げる。
「なに見てんだ、こら」
まためんどくさいことになりそうなので、あえて、聞こえないふりをする。
そんな静刻へ中辺が罵声を続ける。
「びびって目ぇそらすくらいなら最初から見てんじゃねえよ、バーカ」
そして、一瞬静まりかえった“最大派閥”へ笑いかける。
「あのバカ、鬱陶しくてよう」
しかし、例によって“最大派閥”の誰も反応しない。
中辺自身が存在しないかのようにそれぞれの談笑を再開する。
「哀れよの」
静刻はぼそりとつぶやき、改めて周囲の話題に耳を澄ませる。
盛り上がっている内容は“昨日見たテレビ番組について”である。
可聴範囲内の各グループに意識を向けてみるが、どのグループもそれは変わらない。
とはいえ世間の話題を独占するほどの超人気番組が放送されているわけでもなければ、大きなニュースがあったわけでもない。
この時代のこの町には都市部とはちがって夜に中高生が出歩くスポットもなければ、おそらくコンビニもまだないのだろう。
かといって家にいたところでパソコンもスマホもない。
ゲーム機はあるだろうが、自分専用のテレビを持ってない限り家族の揃う夜に遊ぶことができない。
特にこの時代における親世代はテレビゲームを知らない世代であり、こどもと一緒にゲームを嗜むどころかこどもがゲームで遊ぶこと自体をよく思わない世代なのだ。
そんな世界において夜の過ごし方といえば“家族でテレビ”が圧倒的多数を占めることは言うまでもない。
さらにこの時代における地方のテレビといえばBSもCSも存在しないうえ、民放はローカル二局のみなのでクラスのほぼ全員が同じ番組を見ている可能性が極めて高い。
十代向けの情報番組でMCが“これを知ってる君は明日からクラスの人気者っ!”みたいな煽りをいれてくる演出があるが、あれは言うまでもなく“その番組を見ているのが君だけ”の場合にのみ適用されるケースである。
つまり、都市部のようにテレビを見ること自体が複数ある夜の過ごし方における選択肢のひとつであり、さらにその番組がいくつかあるチャンネルのひとつであればこその話であり、ほとんどのクラスメートが同じ番組を見て同じ情報を得ているこの田舎町ではその煽りになんの意味もないのだ。
そんな教室の中でテレビ以外の話題に耽るグループがある。
もちろんギィアと“結い髪トリオ”である。
「そんなの見たことないよ」
答える池野冬美は“購買委員”だった。
ここ山葵坂中学校の購買は外部業者への委託ではなく、生徒自身によって運営されている。
つまり、購買委員が商品の発注や在庫管理を行い、当番制でレジを打つのだ。
「少なくとも私が当番の時はブルマ買ってる男の子とか見たことないなー」
「じゃあ、たとえば盗まれたとか、みたいな話はないのです?」
「そんなのあるわけないじゃん。ねー」
同意を求められた彦崎真澄がツインテールを揺らしながら笑う。
「ないない。面白いねー。ギィアちゃんは」
「本当にないです?」
「ないってば。だいたい、ガッコー来てから帰るまで穿きっぱなしなのに、どーやったら盗まれるのさ」
そこへ割り込んだのは米原芳香。
「あ、でも、洗濯して干してたら盗まれるってトーコが言ってた」
トーコって誰だ?――と思う静刻をよそに、ギィアが前のめりで三人に詳細を催促する。
「あ、あるのです?」
芳香が答える。
「でも干してて盗まれるのってブルマに限んないって。スカートとかタンクトップとか」
「それって“ブルマだから”じゃなくて“トーコだから”じゃないの?」
と眉をひそめる真澄に冬美が乗っかる。
「かもねー。山葵坂中のエロ女帝だからねー」
一斉に上がる笑い声に合わせるかのように朝のショートホームルーム開始を告げるチャイムが鳴った。
廊下で他クラスの友人と話してた者や教室のあちこちに分散して談笑していた者たちがばたばたと着席する。
静刻とギィアはそのどさくさに紛れて教室を出る。
そんなふたりと入れ違いで、廊下からとなりの“二年二組”へ入っていくひとりの女生徒がいた。
その頭上に静刻のARがメッセージボックスを表示させる。
“氏名:国見桐子”
その女生徒は二十歳の静刻が思わず立ち止まるほどの色香をまとっていた。
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