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ポントー町
しおりを挟む俺たちはキョウ国へついた。
まずは何はなくともポントー町だ。
ポントー町は、昼は誰もが入れる観光地、【川床】を営業している。夜ももちろんやっているのだが、夜は知る人ぞ知る歓楽街と化す。だが、金さえ払えば誰でも入れるわけじゃない。ここの夜の遊びは、隠れた大人の社交場なのだ。
川床を説明しよう。川床とは、ポントー町のすぐ隣を流れる川、カモネギ川にせり出す形で作られたテラスだ。
自然の水蒸気により、陸地より涼をとり、さらにうまい飯と酒、これを堪能しようというものだ。
値段は、ざっくり言うと、1人一万エルもあれば充分楽しめる。だがやはり、優雅なひと時を楽しみたいなら、1人30000エルは準備したいところだ。
料理のメインとなるのは、キョウ国の名産品のキョウ野菜や、アユ、ナマユバ、そしてなんと言っても夏の風物詩、ハモだ。
ハモは骨が多い魚で、普通に食ったら食えたものじゃない。だが料理人の丁寧な仕事により、その身を輝くような真っ白な宝石に変える。料理人の腕の鳴る、贅沢な魚だ。
俺たちは、ポントー町の老舗、ヤマノタミに入る。
「おいで、やすぅ~」
「ああ、来たぞ」
何?風情がない?うるさい、俺はハードボイルドだ。
俺たちは川床の一番角の席に案内される。ある意味一等地だが、ある意味一番おざなりの席だ。
「オカミ、 裏タカセガワコースを2人分頼もうか」
オカミの目がキラリと光る。
「堪忍しておくれやす、おきゃくはん、知っとおて、言ってらしゃりますな、いけずやわぁ~」
「マスター、裏とはなんですか?」
セイコが聞いてくる。
「裏とは常連にしか出さない、豪華なコースだ。一見には出さないものだ」
オカミが俺をたしなめる。
「違いますぅ。きちんと、ご予約を頂いてるなら、ご用意いたしますえ。ご予約分しか材料がないんです」
「オカミ様。通常のコースでお願いします」
「……娘はん、ほんに、おおきに」
オカミは下がって行った。
「マスター、私でも知っています。マスターみたいなのを、《ヤカラ》と言うんです」
「…………」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
料理が運ばれてくる。
美味い、確かに美味いが、やはり伊勢海老は欲しかった。
くそが、セイコめ。
すると、真ん中の席の方で、何やら数人立ち上がり、ざわざわと騒いでいる。
よく見ると、竹槍のような物や、長槍を持ち、川床の下をつついている。
俺はスタスタと歩いていく。
喧騒は大きくなり、数人の怒鳴り声のようなものが響き渡っている。
「オカミ、どうした?」
「……、あっ、おきゃくはん。なんでもありまへん。大丈夫どす」
「そんなわけないだろう、話してみろ」
オカミは少し考えてから、
「いえ、カモネギ川からエルダースライムが上がってこようとしとるんですぅ」
「何?」
俺は人ごみを掻き分け、喧騒の真ん中に入る。
そこには馬鹿でかいスライムが、川から触手を伸ばし、人を捕まえようとしたり、料理をつかんだりしている。徐々に川床の支柱を伝い、上に登ろうとしているようだ。
それを槍で対処しようとしたみたいだ。
「おきゃくはん、今、魔鋼機がくるさかい、お座りになっておくれやす」
「……バカだな」
(スライムを魔鋼機で。出来ないこともない。だが、それをしたら魔鋼機の火力で川床はめちゃくちゃになる。飯どころではない)
「オカミ、ビニールを一枚よこせ」
「ビニール……どすか?」
オカミは手提げタイプのビニールを持ってきた。
俺はその中に手を入れ、エルダースライムに対峙する。
「さわれば硫酸を纏っているものも居るからな。……スライムは魔鋼機ではダメだ。……特にここではな。川床に魔鋼機は似合わない」
俺はビニールをかぶせた手のひらをスライムに当てる。
「水面のように……、力を……いくぞ!」
俺の右腕が光る。
「奥義、明鏡浸透掌!」
外側から見たら何も変化なく見える。
だが、エルダースライムの中身は、巨大なハリケーンが現れたように、力が猛威を奮っている。
水に電気を走らせるように、力の奔流がエルダースライムの体内を走る。
パシャン!
しばらくすると、エルダースライムは少しだけはじけ、水に帰ったかのように川に戻って行った。
シーン
「「「「「うおおおおおおおおお」」」」」
大歓声が巻き起こる。従業員も客も一斉に歓喜の声をあげ、俺を称えてくる。
俺は無言で自分の席に帰る。
やがて表情が一変したオカミがやってきて、伊勢海老の造りを持ってきた。
「これは私からのお礼どす」
「ありがとう、だが俺は花を買いたいんだが」
オカミは目を見開いた。
またしばらく沈黙して、
「仕方ありまへんな、22時にもう一度きておくれやす。ご用意しときますさかいに……」
「ありがとう」
俺は一見お断りの門を破る切符を手に入れた。
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