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第六章

ポンコツ

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「お兄ちゃん!、見て見て、お腹の中が動────、・・・お兄ちゃん?」

アリサがヨシトの部屋のドアを開けると、ヨシトの剣、見た目は飾り気の無い実直な一対の剣、アテナの剣とイージスの剣が、クロスするように床に突き刺さっている。

「・・・え?お兄ちゃん・・・、メイ、メイ!!!」

アリサは部屋を飛び出し、メイの元へ向かった。

メイはアリサに連れられ、システィーナと一緒にヨシトの部屋に来ると、床に刺さった剣を見て目を見開いた。

「ヨシト様・・・・・・、まさか・・・リモアを探して!システィーナ、全員を集めなさい!」
「っ!はい!メイお姉様!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



ヨシトの部屋に、ヨシト抜きの四姫桜、葉っぱ、システィーナが集まる。

「どこにもいないよ、メイ子」
「お父様に遣いを出しましたが、時間がかかります」

メリッサがメイに言う。

「またリモアとどっか行ってるんでしょ。そんなに騒ぐことないんじゃない?」
「・・・違うわ」

アリサはお腹をさすりながら、床に刺さったままの一対の剣を睨む。

「お兄ちゃんはどこかへ行くならちゃんと言っていくわ。それに、剣を置いて行く理由がないもの」
「でも、ただ剣が置いてあるだけでしょ。そう心配しなくても────」
「何かあったはずです」

メイも剣を睨みつけながら、

「たしかにただ剣があるだけです。ですが剣を亜空間倉庫から出す理由もないです。剣を使用する理由があったのか、はたまた剣を置いて行かなければならない理由があったのか・・・。とにかく黙って出かけるのは普通じゃありません」


実際は、そんな理由で置いていったのではないのだが、何かしらのメッセージになってしまった。
これはヨシトの失態である。
モーラがふと、何かに気づいたように、

「まさか、いや・・・」
「なんです?モーラ」
「まさか、一人で龍神王の所へ・・・」

メリッサは笑う。

「ないない!ヨシトよ?そんな一生懸命戦うわけないわ!それにそれなら剣を持ってくわよ」
「・・・そうだね・・・」
「そうよ、ないない!」

するとアリサが急に、

「あた、あいたたたた・・・」

アリサはお腹を抱き抱えるように座り込んだ。

「アリサ!」
「ソフィア、アリサをベッドへ!」
「っ!わかった!」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



今、そびえ立つ龍神王の居城、ドラゴンパレスの目の前に、ヨシトとリモアは立っている。
ドラゴンパレスは見えないバリアのようなもので覆われており、リモアが魔物言葉で呪文を唱えると、人の大きさほどだけバリアが消え、バリア内にヨシトたちが入ると、バリアはまた閉じた。

俺たちは城の門を開き、ドラゴンパレス内を歩く。

「やっぱでけえな・・・」

まるで自分が小人になってしまったと錯覚するほどの大きさの城だ。
通常の城に、バー○ー人形が歩いているようなサイズ感だ。
この廊下?でさえ、道幅は50mはあるだろう。ドラゴンが闊歩出来るように作られてるのだろう。
それに、人や魔物の気配が一切しない。

すると廊下の先から、1人のメイドが歩いてきた。

若い。年の頃20行くか行かないかと言うところだろう。

「ようこそお越しくださいました」

メイドは90度に腰を折る。

「お前は誰だ」
「私は時の魔導書と申します。龍神王様の命により、ヨシト様をお迎えにあがりました」
「・・・」
「まずは龍玉をお出しください」
「龍玉?」
「はい、これと同じものです」

時の魔導書は、メイド服のポケットから真っ黒な玉を取り出した。ヴィーヴルやケツアルクワトルが持っていたものだ。

「・・・・・・嫌だと言ったら?」
「私は時を操れます。お出し頂けない場合は、《ここを出て行かれたら1000年経っていた》なんてことも出来ますが?」
「・・・・・・」

するとリモアが俺の前に出る。

「母様の意思は、全てを滅ぼすことじゃないわ。龍神王さ────、龍神王に従ってはダメ」

メイドは一気に目つきを厳しくする。

「黙れ!、恥知らずの尻軽女。母様はお亡くなりになったのです。現当主は龍神王様。貴女こそ龍神王様にお力を頂いておきながら、なぜ逆らうのですか!」
「リモアは母様に会った!母様は後悔してたわ!もう龍の時代は終わったのっ!」

メイド女から、七色に輝くようなオーラのようなものが立ち上る。

「そのような・・・、そのような戯言を!貴様・・・、言っていい事と悪い事が分からぬか!」

それは竜巻のように螺旋を描き、メイド服のスカートを巻き上げ、うねりと化す。

「嘘じゃないもんっ!」
「待て、リモア」

俺は亜空間倉庫から、龍玉を取り出す。

「ファブニールの分、ヴィーヴル、ウロボロス、ケツアルクワトル、それと召喚の魔導書が持っていたやつだ。他にもあるか?」

七色の竜巻は搔き消えるように収まり、メイドの表情も柔らかくなる。
そして笑顔を見せる。

「いえ、合っています。お渡しくださいますね?」
「・・・ああ」

俺は全ての龍玉をリモアに渡して、リモアとアイコンタクトをする。
リモアは渋々ながら頷いた。

パタパタと飛んでいき、時の魔導書に触らないように全ての龍玉を渡す。

(浦島太郎は勘弁だからな。こいつが嘘付いてるかもしれんけど、そのへんはリモアに任せよう)

「では、ご案内致します」

俺たちはメイド女の時の魔導書に付いて行った。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



そこは巨大な空間だった。
巨大な円柱のような部屋だ。だが、天井は見えないほど高く、どこまで続いてるかわからない。
円柱の広さも、直径にして100mはあるんじゃないかと思えるほど広い。そして壁は全て本棚になっていて、本がビッシリと詰まっている。
辞書のような物、古いもの、銀色に輝いてる本もチラホラ見える。

そして、部屋の中央には、見た目80歳前後に見えるじいさんが、書斎の机のようなものと椅子に座っている。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、よく来たの」

見た目は気の優しい爺さんって感じだ。邪悪な気配も一切ない。
とても悪い奴には見えない。

「お前が龍神王か?」

爺さんは椅子にもたれかかり、またふぉっふぉっと笑う。

「威勢の良い子じゃ。龍玉を回収してもらって悪かったの」
「・・・お前はみんなを殺すのか?」

爺さんはちょっと目を開いて、

「ふぉっふぉっふぉっ、・・・ふむ、どうやら誤解があるようじゃ。どれ、ちと話でもするかの。グリモアよ、お茶を用意せい」
「かしこまりました」

時の魔導書は部屋から出て行った。爺さんが指をパチンと鳴らすと、ソファーとローテーブルが現れた。

「座るがよい、運命の子よ」
「・・・運命の子?」
「ふぉっふぉっふぉっ、呼び方など何でも良い。自力でここに来たのじゃ、充分運命の子と言えるじゃろ」

俺はソファーに座る。メイドである、時の魔導書が帰ってきて、テーブルにお茶を置いた。

「毒など入っとらん。むしろワシから見たらそうする必要もないでの」
「・・・・・・」

とりあえずお茶には手をつけなかった。

爺さんは書斎の机から、俺の向かいのソファーに座り、お茶を一口飲んでからまっすぐ俺を見つめる。

「まずはすまなかった」

爺さんはいきなり頭をテーブルにつくほど下げた。

「え?、は?」

爺さんは頭をあげる。

「ラステルがまた異界の者を召喚しようとしてたでの。止めようとしたのじゃが、止めきれんかった」
「は?」

俺は理解が追いつかない。
するとリモアが俺の袖を掴む。

「マスター、落ち着いて」
「そうじゃ、ゆっくりでよい。落ち着くのじゃ」
「・・・・・・」
「異界の人間を召喚するのは禁忌じゃ。異界は生活も常識も文化も違う。必ず不幸になる。なので止めたかったのじゃが・・・」

俺は大きく深呼吸をする。

「女神が異界人を召喚しようとした。それは異界人にとって不幸になるから、それを止めたかった。でも失敗したと言ってるのか?」
「その通りじゃ。戦乱のない世界から、死が身近にある世界へ強制的に拉致されるのじゃ、不幸じゃろ」
「・・・」

まったくもってその通りだ。
ひょっとしたら、迷宮に潜る前にここに来てたら、違った未来になってたかもしれないと思えるほど、爺さんの顔は慈愛に満ちていた。

「なら、なんでアリサを召喚した」

爺さんは首をかしげる。

「うむ?聞いとらんのか?」
「・・・何をだ?」
「あやつは望んで来たのじゃぞ?」
「・・・はああああ?!」

俺がソファーから立ち上がろうとすると、

「まあ落ち着くのじゃ、せっかちな子じゃの。最後まで聞くのじゃ」
「・・・」

俺は座り直した。

「たしかに呼び出したのはワシじゃ。じゃがワシはこの世界に来ることを勧めとらん」
「じゃあ、なんでだよ」
「お主の血縁のようじゃったからの。話を聞きたかったのじゃ。お主のことは大ババ様が邪魔をするで、見えんのでの」
「・・・」
「そしたらあやつは、兄が居るなら自分もこの世界で暮らしたいと言い張ったのじゃ。ワシは帰ることを勧めたのじゃ。一度地を踏んだら戻ることは出来んでの」
「・・・」

爺さんは呆れるようにソファーの背もたれに寄りかかる。

「そしたらまあ、やかましいやかましい。ちーと?がなんじゃらと騒ぎ立て、力を寄越せと黙りゃあせん。それに若くなりたいから0歳から始めたいと無理も言う。仕方なく禁断の魔導書を使って若返らせて転生させたのじゃ」
「・・・」

(おいおい、マジかよ。・・・いやいや、こいつは敵だ。・・・でも辻褄は合ってる。それにアリサならすごく言いそうだ。・・・まさかこれが真実か?)

「じゃからワシも一つ頼んだのじゃ。力をやるで、迷宮から女神を出してくれとな。あやつは忘れとったみたいじゃが・・・」
「それで、紋章を使って結局皆殺しにするんだろ?その為の駒にしたんだろ?」

爺さんはあごひげを触り、

「参ったの、それも忘れとるのか」
「?」
「ちゃんと始めに言うておる。この世界はリセットするつもりじゃと。じゃが、お主とあやつが天寿を全うするまではせんと言っといてあるのじゃが」
「はあ?!」
「そしたらあやつは、《死んだ後はどうでも良いから、今力を寄越せ》とガミガミ言うてたのじゃ。ワシはちゃんと始めからみな説明しておる」
「・・・・・・」

俺はリモアの顔を見る。
リモアは困った顔をして、

「流石にリモアもそこまではわからない・・・」
「・・・」

(あのポンコツ・・・・・・!いや、状況はまるで良くなってもいないし、何も変化はしてない。でもちゃんと説明されてたとなると、こっちが悪いみたいに思えてくる。それにじじいの言うことは筋が通ってるし、スッゲーアリサが言いそうな口ぶりが真実味を増す。俺を止められなかったと詫びまでされちまった。・・・あのクソ妹がっ!)

俺が困惑まじりで爺さんを睨んでいると、

「ワシもこれでも神を名乗っておるでの。それにまかりなりにも調停者の一族じゃ。この世界の住人ではないお主をかどわかす理由もないし、本人が望んだとはいえ、呼び出した者を無慈悲には扱わんぞ」
「・・・・・・」

俺は色々な意味でおもいっきし拠点に帰りたい気持ちで一杯になったが、踏ん張って爺さんとの話を続けた。
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