鑑定や亜空間倉庫がチートと言われてるけど、それだけで異世界は生きていけるのか

はがき

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第六章

母なる龍の意思

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俺が半ば放心していると、リモアが心配そうに俺を覗き込んできた。

「っ!」

(・・・・・・落ち着け。俺は何しにここに来たんだ。思い出話をしに来たんじゃない。俺の仲間の、俺の子供の未来を守りに来たんだ!)

俺は一気に頭が冷えた。
自分の亜空間倉庫からオレンジジュースを取り出し、一気飲みする。

「好みが合わなかったかの」
「そうか。うちの妹がすまなかったな。それに俺のこともありがとう」

爺さんは顔を綻ばせる。

「良いのじゃ。お主が天寿を全うしたら龍の一族の力を返してくれればよい。それまでは人生を謳歌すると良い」
「それは出来ねえな」
「・・・ん?どう言うことじゃ」

爺さんは顔をしかめる。

「この世界をリセットさせるわけには行かない」
「・・・・・・」

爺さんは目を細くして、俺を探るように見た。1分ほど黙って見つめ合い、

「それはお主には関係ないことじゃ。この世界のことじゃからの」
「そうでもねえよ。今俺はここに居るんだから」

爺さんはじっと俺を見る。

「なるほどの。わかった。ならばこうしよう。お主とあやつ、お主の妹を元の世界に帰してやろう」

俺は大きく目を見開く。

「っ!出来るのか!」

爺さんはふぉっふぉっふぉっと笑う。

「ちいとばかししんどいが、出来ぬことはない。そのあと300年ほど魔力を貯めねばならぬようになるがの。召喚の魔導書を返すのじゃ、さすればお主の世界に帰してやろう」
「記憶は?」
「今のまま帰るのも、お主の世界で新たに生を受けるのも選べるぞ。スキルなどはないが、裕福な家庭に生まれるようにしてやろう」

爺さんはにっこりとして、あごひげを触る。
俺は一瞬誘惑に駆られたが、

「ダメだ、俺の目的は俺の子供の未来を守ることだ。俺が帰ることじゃない」
「お主の世界で育てれば良い」
「この世界の仲間も居るんだ、それは出来ない」
「ならばその仲間も一緒に帰してやろう」
「・・・・・・ダメだ。たくさん居るんだよ。それこそ国単位ほどな」
「・・・・・・」

爺さんはまた顔をしかめた。
時の魔導書が出したお茶をすすり、また俺を見る。

「のう、何故この世界のことに関わりたがるのじゃ」
「時間ってのは絶対に戻らないんだよ。お前が時の魔導書で時間を戻さないのが証拠だ。そして俺は知ってしまった。それはもう変わらないからだ」
「ワシらの苦悩を知っとるのじゃろ?お主はワシらだけに犠牲になり続けて生きろと申すか?」
「そうは言わねえが、全世界の生物を殺すことは許せねえな」

爺さんと俺はまた睨み合う。
数分の時が流れ、

「ふむ、良かろう。ワシが折れよう」
「っ!本当か!」
「うむ。呼んでしまったのはこちらじゃ。仕方なかろう」

爺さんはあごひげを触りながら、元の慈愛に溢れた表情をする。

「次元の魔導書を返すのじゃ。ワシら龍の一族はお主の元いた世界に行こう。そこには人族しか居ないと聞く。食うには困らんじゃろ」
「はあ?!」

俺はソファーから立ち上がる。

「なんでそうなるんだよ!」
「どうしたのじゃ。何をそんなに慌てとる」
「っつうか、龍の一族って、もうお前しか居ないだろ!」

爺さんはまたふぉっふぉっふぉっと笑う。

「ワシが何と呼ばれてるか知っとるか?」
「当たり前だ、龍神王だろ?」
「変だと思わぬか?」
「・・・は?」
「龍の王なら龍王で良い、龍の神ならば龍神じゃ。じゃがワシは龍神王じゃ」
「・・・・・・」

(ん?ってことは龍神の王?)

「さよう。龍の一族は全て龍神なのじゃ。時が経つにつれ、人間からは敬われなくなったが、元々龍神と人間から言われておった。それを纏めるから龍神王じゃ」
「・・・ってことは・・・」
「あやつらは復活出来る。ワシが肉体を与えればまた復活するのじゃ」
「・・・」

(いやいや、そんなことはどうでもいいんだよ!)

「と、とにかく!地球へ行かせるわけには行かねえ!それに、リモアは渡さねえ!」

爺さんはきょとんとする。

「何故じゃ、お主はこちらを選んだのじゃろ?じゃからワシはお主の選択を優先して、ワシらが引くと言っておるのじゃ。ワシらも見知らぬ土地ならばしがらみもない、自由に生きれるのじゃ」
「地球が滅亡するじゃねーか!」
「食料が無くなっても困るでの、その辺はうまくやるわい」

俺は想像する。ジャンボジェットを超える龍が、地球の大空を自由に飛び交い、人間を捕食していく。
大地は血と阿鼻叫喚に溢れ、近代兵器で対抗するも、龍の火力には勝てず、人々は龍に怯えながら暮らす。

地獄だ。

「だ、ダメだダメだ!そんなのは許せねえ!」

すると爺さんは、初めて殺気を放ち出した。

「お主は何を言っておるのじゃ。あれもダメ、これもダメ。お主はワシらをどうしたいのじゃ」

俺は言葉につまる。

「わからねえ・・・、わからねえけど、それはダメだ!」
「龍に滅びろと言っておるのか?龍に未来永劫苦しみを味わえと言うのか?」
「・・・・・・」

爺さんは数瞬考えて、

「お主の世界にこんな言葉があるの。7つの大罪と言ったか、
人の物は返さない嫉妬
数多の女をはべらし色欲
戦いは仲間任せ怠惰
龍までをも喰らい暴食
こちらが譲歩しても怒り狂い憤怒
相手の都合を考えず傲慢
この世の全てを欲する強欲
・・・・・・まさに、お主そのものじゃ」
「・・・・・・」

俺は愕然とする。

「ワシら龍とお主、一体聞き分けのないのはどちらなのか。頭を冷やして考えてみるのじゃ」


俺の心は折れかけていた。
一体何が正しいのか。
俺はどうしたいのか。
傲慢なのか。
自分さえ良ければいいのか。

すると、俺の首筋が急激に熱くなり、俺はアザのような紋章を手で抑える。
そして俺の紋章から光の玉が生まれ、俺たちと爺さんから数m離れた場所に、丸い光が飛んでいき、それは徐々に人型になっていく。

「心を惑わされてはいけません」
「・・・・・・アンジェラ?」
「母様!」

リモアがそう叫んだ。俺はリモアとアンジェラを交互に見る。
そこに現れたのは、迷宮都市の孤児院に居るシスターアンジェラだった。
爺さんと時の魔導書も目を見開いている。

「ま、まさか、大ババ様・・・」
「嘘、バカな・・・」

アンジェラは爺さんたちに目もくれず、

「お久しぶりですね、ヨシト様」
「お前・・・、一体・・・」
「ヨシト様、良く思い出すのです。この世界に来て見たことを。数々の人間に説いた真理を。貴方は、問答をしに来たのですか?わかっているでしょう、答えなどないことを。私の目を覚まさせてくれたのはヨシト様、貴方なのですよ?」

アンジェラは真っ直ぐ俺を見る。

(・・・・・・そうだ、答えなんてねえ。誰もが幸せになれることなんかねーんだ。人は、生物は、他の命を奪わなければ生きていけない。それが真理だ。そう、俺は・・・こいつらの幸せを奪って、俺たちが幸せになるためにここに来たんだ!)

「大ババ様!まさか、人族に味方するのか!!」

爺さんはソファーから立ち上がり、アンジェラに食ってかかる。

「ハデス、今は龍神王ですか。なまじ頭が回る分だけこじれましたね」

爺さんは顔を真っ赤にして激昂する。

「ふ、ふざけるな!ワシらは大ババ様の意思を守るために、どれだけの苦痛を!!」

アンジェラは爺さんに頭を下げた。

「そのことについては謝ります。私も、私の後を継いで龍王と呼ばれたあの子も、言葉が足りませんでした。そのせいで貴方たちを苦しめた。ごめんなさい」

爺さんは腰をぬかして、ソファーに身を投げ出すように座る。

「そ、そんな、そんな言葉で・・・、ワシらの努力はなんだったのじゃ・・・」
「ハデス。終わりが来たのです。龍の時代の終焉なのです」
「ふ、ざ、け────」

アンジェラは俺を見る。
そして俺にも深々と頭を下げて謝る。

「本当に申し訳ありません。私は、皆が、数多の種族が平等に幸せになれればと思ってました。ですがそれは私の過ちでした。・・・平等なんてないのです。ないものを作ろうとするから、どこかにねじれが溜まっていく。そして、私にはそれを解消する力も、権利も、義務も、何もない。そうですよね?だって私は観察者ですから」

俺の頭の中で全て繋がった。

「なんでお前が生きてるかとか、色々言いたいことはあるけどよ、・・・今回は俺がお前のケツを拭いてやる。お前がバカやったことを精算してやるよ」
「よろしくお願いします、ごめんなさい、ありがとう」

アンジェラは光の玉になり、どこかへとフッと消えた。
爺さんは俺を怒鳴りつける。

「ふざけるな!ワシら龍が全て割食ってるだけではないか!」

俺はソファーから立ち上がり、

「じじい、悪いな。そういう運命だ。お前は不幸だった。でも同情はしねえ。・・・俺はお前の不幸を背負って、これからもこの世界を生きていく!」
「っ!貴様!」
「所詮俺たちは龍と人間、獣と獣。食うか食われるかしかねえんだ。・・・終わらせようぜ」

爺さんは激昂してソファーから飛び上がり、俺たちから距離を取る。

「下手に出ていればつけあがりおって!!・・・良かろう!貴様を殺して、世界を蹂躙してやる!」

俺はすまし顔で亜空間倉庫から風神と雷神を出す。

「それでいい。ここが種の終わりで、ここが種の始まりだ。勝った奴が総取りだ」
「抜かせ大罪人が!!」


今、最後にして、始まりの戦い。
種族の存亡をかけた、雌雄を決する時。
その火蓋が切って落とされた。
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