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第2章 コロラドリア王国編

第三十四話

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 アリサはまるでお姫様のようだった。
 髪は綺麗に解かされ、ゆるやかなウェーブがついている。花飾りがついたカチューシャを付け、肩や袖など首回りに布地のない、胸元の開いた白いウェディングドレスのようなものを着て、白いヒールを履いて、コツコツと歩いてくる。

「ふふっ、どうかしら?ライト」
「……結婚するのか?」
「そう言うあんたもそんな感じよ?」
「用意されただけだ」
「もちろん私もよ」

 いつもの感じで言い合う。

「綺麗だ、すごく綺麗だよ、おチビちゃん」

 アリサは笑顔で首を傾げて、

「あら?お姫様ごっこは終わりなの?」
「あれをずっとは無理だ。陛下の前でもやらねえんだぞ?」

 と、笑いながら冗談を言う領主に、アリサも手の甲を口に当てながら笑う。

「うふふ、それは悪いことをしたわね」
「ああ、なんたっておチビちゃんは特別だからな」

 アリサもメイドさんに椅子を引かれ、ゆっくりと席につく。

「まあとりあえずは飯を食ってくれ、美味いぞ」
「ええ、いただくわ」

 俺たちはやっと飯にありついた。



 なんだろう、アリサは俺と虎子しかいない時は、肉に素手でかぶりついたり、両手にパンを持ってがっついたりしてるくせに、今は本物のお姫様のようにテーブルマナーを守りながら、静々とたべている。俺の脳裏に「本当にお前誰だ」と言う言葉が繰り返されるが、料理が美味いのでスルーした。

 そして、一通り食べ終わったあと、

「どうだ、うまかったか?おチビちゃん」
「ええ、とても美味しかったわ。こんなのが毎日食べられたら幸せね」
「そ、そうだろ!」

 領主は完全にターゲットをアリサに絞っている。俺は事の成り行きを静かに見守る。

「おチビちゃんさえ良ければ、毎日これを食べられるぞ」
「あら、それは毎日ご招待されるってこと?」
「それでも良いが面倒だろ。なんだったらここに住んだって良いんだぞ」
「そう。ライトが住むなら私も住むわ」
「あ?」
「……」

 アリサは俺に振ってきた。俺は返答はしなかったが、領主はアリサの答えが予想外だったようだ。

「……おチビちゃんはこいつのツレなのか?」
「違うわよ」

 領主は俺を見る。

「違いますよ。訳あって一緒に行動してますが、彼女とかではないです」

 領主は困惑の表情を浮かべる。そして俺とアリサを交互に見る。

「必要ないけど教えてあげるわ。私はライトに頼み込んで一緒に居させてもらってるの。そしてライトを利用してるわ。それが私には必要だからよ」
「利用?」

 領主は利用と言う言葉に引っかかった。それはそうだ、仮に友達でも、パーティーメンバーなだけだとしても、相手を利用なんて面と向かって言う言葉ではない。

「そう、利用。恋愛感情はないわよ。ライトもないはず」
「ああ、ないな」
「ね?そう言う関係なの。だからライトが住まないなら私は住めないわ。まだライトを利用しきってないし、これからも利用する必要があるもの」

 領主の困惑は続く。
 困惑しすぎて、もうそこを追うのはやめたらしい。

「なら俺を利用するか?それでも構わないぞ」
「ライトはなんて?もう聞いたのよね」
「おチビちゃんに聞けと言った」
「なら私の答えは」

 アリサは数秒溜めてから、不敵な笑みを浮かべてきっぱりと言う。

「《貴方では話にならない》ね」

 領主は初めて怒りの表情を浮かべる。

「……話にならない?」
「ええ、話にならないわ。あなたには利用する価値がない。……、違うわね。あなたは私が求めるものを提供することが出来ないわ」
「……馬鹿にしてるのか?」
「まさか。馬鹿にしてないわ。単純な話よ。貴方は私が欲しいものを提供出来ない、ライトは出来る。ただそれだけよ。あなたが用意できるのなら、私はすぐに乗り換えるわ」
「……俺は辺境伯だぞ」
「知ってるわ」

ガタン!

 領主が勢いよく立ち上がり、椅子を倒す。

「俺に用意出来ずに小僧には出来るってのか!!」
「ええ、それも絶対無理ね」
「ふざけるな!昨日冒険者になった奴だぞ?!!」

 どうやら俺たちのことはある程度調べたようだ。

「証拠もあるわ」
「言ってみろ!」
「あなた、ライトに勝てる?」
「……なんだと?」
「あなただけじゃないわ。騎士団長なのよね?騎士を何人使っても良いわよ。1000人でも10000人でも連れてくれば?それで本気になった・・・・・・ライトに勝てたら、乗り換えてあげる」
「……何を言っている」

 領主は驚愕の目で俺を見る。俺も流石に黙ってられない。

「お前、俺を巻き込むなよ」
「だって事実じゃない」
「お前な。もうここに居たら?俺といるより近道じゃないか?」

 アリサは鋭い目つきで、

「それ、本気で言ってる?私の目的・・を知ってるわよね?それがこんなところでお姫様して叶うと思う?」
「……」

 アリサの目的は復讐することだ。それも自分の手でザマァすること。確かに国の力を使えたら復讐を出来る可能性は高いだろう。だが、自分の手ではどうか。自分の手でやるには鍛えなきゃならない、鍛えるならば虎子相手が1番だ。何せ、今日のゴブリンとの戦闘でそれが証明された。たった2、3週間の訓練で、ただのジャパニーズJKだったアリサがあそこまで戦えるようになったのだ。

「……無理だな」
「当たり前でしょ。わかりきったマヌケなこと言わないで」

 アリサの執念はまだ消えてなかったってことだ。どんな贅沢よりも、何を引き換えにしても復讐をやり遂げるつもりだ。

「信じられんが、本気の話なんだな」
「そう言ってるじゃない。ここまで接待してくれた人に嘘は言わないわよ」
「…………」

 ここまでと言い切れるほどの贅沢だ。アリサもこの贅沢に何も感謝がないってことはない。
 だが、領主が納得できないのも無理はない。俺一人が騎士10000人よりも強いとアリサは断言した。そんな馬鹿げた話はあり得ない。

 領主は少し黙って考えて、鋭い目つきでアリサを見る。

「正直、お前らを言うこと聞かせるカードは持っている。だが俺もちっと頭にきたからな。その馬鹿げた話に乗せられてやる。俺が小僧に勝てば良いんだな?」
「私は本気の・・・って言ったのよ?今日は疲れてるわ。本気なんて出せないわよ」
「なら明日だ、それで良いんだな」
「あのな……、俺はやりたくないんだが」

 領主は俺を見て、

「勝てないとは言わねえんだな」
「いや、勝てないですよ」
「それは侮辱と同じだ。逃がさねえぞ、小僧」
「俺はなんも言ってないのに……」
「恨むならこの生意気なチビを恨め。こっちも本気で行かせてもらう」

 アリサは火に油を注ぐ。

「あなた一人じゃ話にならないから、たくさん兵隊を連れてきなさいよ」
「黙れ!もうなかったことには出来んぞ!!」

 領主は怒って出ていった。
 俺は盛大にため息をつく。

「お前さ、何が目的なの?」
「きっとバレてるわよ」
「何が」
「トラッチ以外全部。面倒事は片付けた方が後が楽よ?」
「余計に面倒だろうが」
「その時は皆殺しにしちゃえば?」
「笑いながら言うことじゃねえよ……」

 アリサが言う本気・・の意味はわかってる。だが何故最後の切り札をいきなり切らせるのか。間違いなく無事では済まないと思うのだが……、訓練的な意味で。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



~~ジョージニア辺境伯の寝室~~

「そんなに強いのか?」
「それはあり得ないと思います。お館様より強いことはありません」
「それは希望ではなくだな?」
「はい、身体も触りました。あの程度でそんな力を持っているわけありません」

 ミスティはジョージニアに答える。

「やはり特別な異界人の力と言うことか」
「おそらく。それ以外考えられません」
「……」

 ジョージニアは考え込む。

「抱き込むことは?」

 ミスティは首を横に振る。

「難しいでしょう。意外でした」
「まさか手をつけんとはな」
「若さゆえの暴発はありましたが」

 ミスティはコロコロと笑ってこたえる。

「それだけ聞くと可愛いものだが」
「予想を言っても?」
「もちろん構わん」
「きっとあの子が1番だと思います。はぐれですから」
「教国イチオシの【勇者】よりもか?!」
「おそらく。あの小娘は馬鹿ですが、普通はあそこまで大事になれば、戦わされる本人は狼狽えます。あの落ち着き方は異常です、仮にこのガルシアごと敵に回しても絶対に負けないと言う自信の現れでしょう」
「…………、ミランダを学院から呼び戻して嫁がせるか?」
「失礼を承知で申しますが、その程度の色香で落ちるなら、既に私たちが落としてます」
「……だろうな」
「それにお館様が出て行かれてから、面倒ならば皆殺しにでもと言ってました」

 ジョージニアは目を見開く。

「歴戦を勝ち抜いた、常勝無敗の南部騎士団だぞ!?」
「処分致しますか?」
「……」

 本気でその力が本物なら間違いなく脅威だ。どこかに行かれるくらいなら、殺しておく方が安全策と思える。だが、敵対したわけでもないし、むしろこちらが一方的にしかけているだけだ。味方に出来るならなんとしてもしたい。
 何せセントフォーリアが召喚したバカ高い金額の異界人だ、しかも2人。まともに戦力になる異界人2人を買うなどコロラドリア王国の資産では到底不可能なのだから。それが今、自分の手の中に転がり込んで来ている。この幸運を見逃すほど、アスタリカとの緊張状態は楽観視出来るものではない。

「とりあえず、明日を見る。念のため、砦内に常駐している精鋭を100人集めておけ」
「かしこまりました」

 そして、夜は更けていった。
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