24 / 40
卵の雨
しおりを挟む
首にセイレーンの爪が食い込む。プツリと皮膚を突き破る音が聞こえた気がした。
痛みを感じる余裕はない。
息をする度に爪が深く食い込みそうで怖い。
浅い呼吸で喉がヒューヒュー鳴る。
「うふふふ。怖い?
ねぇねぇ、どうして記憶が残ってるのかしらぁ?
私の歌は完璧だったわ。それなのに、どうしてなの? ねぇ、教えてちょうだい、ビビアナちゃぁん」
どうしてだなんて、ビビアナが聞きたいくらいだ。
どうやら記憶が消えていないことは、セイレーンのプライドを傷つけたらしい。
セイレーンの殺気に、全身がゾクゾクする。身体が勝手に小刻みに震え、歯がガチガチと音を出した。
「ほぉら、早く教えないとぉ、首に穴が空いちゃうわねぇ。
首はねぇ~、派手に血が出るから面白いわよ。ブシャーッて吹き出るの。どんどん血が出て、顔が真っ白になって行くのよ。
んふふふ、ビビアナちゃんなら似合いそうねぇ」
「や、やめて……」
「あらあら、可愛い声出しちゃって。せめて苦しまないように、歌をうたってあげる……ふふ。サービスよ」
ラララ~~。
透き通った声が、不思議な旋律を紡ぐ。
ララララル~~。
(うう……頭がボーッとする。聞いたら駄目だ。何か別なことを考えないと)
歌に心を奪われないように……。頭の中を別のことでいっぱいにしなくては。
そういえば、ロニは無事に街へ帰れただろうか。
タンクの背中に乗って街に戻ったロニの事を考える。
(タンクのスピードに着いていけなくて、背中から転がり落ちてたりして……それで……)
ルラララ~~、ルルラル~~。
頭の中まで歌が入り込んでくる。
(……ダメ。目を開けないと)
ビビアナの意思とは裏腹に、勝手に目蓋が落ちてくる。
(何か、別の事を考えないと……。
卵が……あ、卵! 明日孵化する予定の卵は何個あったっけ……。
縞模様のと……)
コン。
「やだぁ、なぁに?」
(マーブル模様のと……)
コン。
「なぁに!?」
(稲妻模様と水玉模様のは、まだだっけ……)
コン、コン。
「ちょっとぉ! 何なのよぅ!!」
コン、コン、コン。
気がつくとセイレーンの歌は止まって、変わりにイラついた怒鳴り声が響く。
いつの間にかセイレーンの手はビビアナの首から外れていた。
ビビアナはまだぼんやりする頭をフルフルと降る。
(何がどうなってるの? 私の目がおかしくなった?)
ビビアナの目には、セイレーンの頭上に卵が次から次へと降って来る、不思議な光景が映っていた。
ビビアナには何がどうなっているのか分からないが、セイレーンも同じ気持ちらしい。
「どうなってるの? どうして!! 卵が降って来るのよ!!」
セイレーンは叫びながら、水で出来た鞭を振り回して、頭上から降って来る卵をグシャリと割る。割れた卵は、煙となって殻ごと消えた。
しかし、割っても割っても、卵は雨のように降って来る。割れずに溜まった卵は、すでにセイレーンの膝まで埋めてしまっていた。
「な、なんだかデジャヴ」
ビビアナは以前、マオとの出会った時を思い出した。
(あの時も、こんな風に卵に身体が埋まったっけ……いやいや、そんなこと思ってる場合じゃないから!)
逃げるなら今だ。
降って来る卵にセイレーンが気を取られているうちに、何とかこの場所から離れなければ。
セイレーンの背中を見つめながら、ソロリソロリと後ずさる。
様子を見ながら少しずつ。
なるべく気配を消して、音を立てずに。
(よし、いい感じ)
セイレーンに見つからないように慎重に……。
突然、セイレーンが顔だけクルリと後ろに向けた。
ビビアナと目が合うとニタリと笑う。
ビビアナはビクリと身体を震わせた。
(見つかった……)
「ビビアナちゃぁん」
ビビアナはすぐに走り出した。足がもつれて転びそうになりながらも、何とか走る。
「やだわぁ。無駄なことしちゃって」
水の鞭が走るビビアナに向かう。水しぶきをあげてビビアナの身体に巻き付いた。
「きゃっ!!」
捕らえられた身体は、後ろに引っ張られ、ビビアナの身体は足が地面から離れて空中を飛んだ。
あっという間にセイレーンの元に引き戻される。
髪を掴まれ、ビビアナの耳にフッと息を吹き掛けた。
「ひっ」
「ビビアナちゃんたら、逃げるなんて駄目よぅ」
セイレーンは髪を掴んだまま、ビビアナの頭を卵の山に押し付けた。
「ぐっ……」
ビビアナの身体は卵の山の中に、ズブズブと沈んで行く。
苦しくはない。
底無し沼のようにどこまでも沈んで行く感覚だった。
「うははははははっ」
甲高いセイレーンの笑い声が耳に響く。狂ったように鳴り止まない。
「うははははははっ」
どこまでも沈んで行く身体。
鳴り止まない笑い声。
どれくらいの時間だっただろうか。もしかしたら、一瞬の事だったのかもしれない。
突然、ピタリと笑い声が止んだ。
「こらこら、僕に黙ってなにやってるの」
ビビアナは息を飲んだ。
この声を知っている。
卵に沈んで行くビビアナから姿は見えないが、間違いない。
この数日、何度も何度も会いたいと思っていた。何度も何度も心の中で、その名前を呼んでいた。
「リュカ……!!」
痛みを感じる余裕はない。
息をする度に爪が深く食い込みそうで怖い。
浅い呼吸で喉がヒューヒュー鳴る。
「うふふふ。怖い?
ねぇねぇ、どうして記憶が残ってるのかしらぁ?
私の歌は完璧だったわ。それなのに、どうしてなの? ねぇ、教えてちょうだい、ビビアナちゃぁん」
どうしてだなんて、ビビアナが聞きたいくらいだ。
どうやら記憶が消えていないことは、セイレーンのプライドを傷つけたらしい。
セイレーンの殺気に、全身がゾクゾクする。身体が勝手に小刻みに震え、歯がガチガチと音を出した。
「ほぉら、早く教えないとぉ、首に穴が空いちゃうわねぇ。
首はねぇ~、派手に血が出るから面白いわよ。ブシャーッて吹き出るの。どんどん血が出て、顔が真っ白になって行くのよ。
んふふふ、ビビアナちゃんなら似合いそうねぇ」
「や、やめて……」
「あらあら、可愛い声出しちゃって。せめて苦しまないように、歌をうたってあげる……ふふ。サービスよ」
ラララ~~。
透き通った声が、不思議な旋律を紡ぐ。
ララララル~~。
(うう……頭がボーッとする。聞いたら駄目だ。何か別なことを考えないと)
歌に心を奪われないように……。頭の中を別のことでいっぱいにしなくては。
そういえば、ロニは無事に街へ帰れただろうか。
タンクの背中に乗って街に戻ったロニの事を考える。
(タンクのスピードに着いていけなくて、背中から転がり落ちてたりして……それで……)
ルラララ~~、ルルラル~~。
頭の中まで歌が入り込んでくる。
(……ダメ。目を開けないと)
ビビアナの意思とは裏腹に、勝手に目蓋が落ちてくる。
(何か、別の事を考えないと……。
卵が……あ、卵! 明日孵化する予定の卵は何個あったっけ……。
縞模様のと……)
コン。
「やだぁ、なぁに?」
(マーブル模様のと……)
コン。
「なぁに!?」
(稲妻模様と水玉模様のは、まだだっけ……)
コン、コン。
「ちょっとぉ! 何なのよぅ!!」
コン、コン、コン。
気がつくとセイレーンの歌は止まって、変わりにイラついた怒鳴り声が響く。
いつの間にかセイレーンの手はビビアナの首から外れていた。
ビビアナはまだぼんやりする頭をフルフルと降る。
(何がどうなってるの? 私の目がおかしくなった?)
ビビアナの目には、セイレーンの頭上に卵が次から次へと降って来る、不思議な光景が映っていた。
ビビアナには何がどうなっているのか分からないが、セイレーンも同じ気持ちらしい。
「どうなってるの? どうして!! 卵が降って来るのよ!!」
セイレーンは叫びながら、水で出来た鞭を振り回して、頭上から降って来る卵をグシャリと割る。割れた卵は、煙となって殻ごと消えた。
しかし、割っても割っても、卵は雨のように降って来る。割れずに溜まった卵は、すでにセイレーンの膝まで埋めてしまっていた。
「な、なんだかデジャヴ」
ビビアナは以前、マオとの出会った時を思い出した。
(あの時も、こんな風に卵に身体が埋まったっけ……いやいや、そんなこと思ってる場合じゃないから!)
逃げるなら今だ。
降って来る卵にセイレーンが気を取られているうちに、何とかこの場所から離れなければ。
セイレーンの背中を見つめながら、ソロリソロリと後ずさる。
様子を見ながら少しずつ。
なるべく気配を消して、音を立てずに。
(よし、いい感じ)
セイレーンに見つからないように慎重に……。
突然、セイレーンが顔だけクルリと後ろに向けた。
ビビアナと目が合うとニタリと笑う。
ビビアナはビクリと身体を震わせた。
(見つかった……)
「ビビアナちゃぁん」
ビビアナはすぐに走り出した。足がもつれて転びそうになりながらも、何とか走る。
「やだわぁ。無駄なことしちゃって」
水の鞭が走るビビアナに向かう。水しぶきをあげてビビアナの身体に巻き付いた。
「きゃっ!!」
捕らえられた身体は、後ろに引っ張られ、ビビアナの身体は足が地面から離れて空中を飛んだ。
あっという間にセイレーンの元に引き戻される。
髪を掴まれ、ビビアナの耳にフッと息を吹き掛けた。
「ひっ」
「ビビアナちゃんたら、逃げるなんて駄目よぅ」
セイレーンは髪を掴んだまま、ビビアナの頭を卵の山に押し付けた。
「ぐっ……」
ビビアナの身体は卵の山の中に、ズブズブと沈んで行く。
苦しくはない。
底無し沼のようにどこまでも沈んで行く感覚だった。
「うははははははっ」
甲高いセイレーンの笑い声が耳に響く。狂ったように鳴り止まない。
「うははははははっ」
どこまでも沈んで行く身体。
鳴り止まない笑い声。
どれくらいの時間だっただろうか。もしかしたら、一瞬の事だったのかもしれない。
突然、ピタリと笑い声が止んだ。
「こらこら、僕に黙ってなにやってるの」
ビビアナは息を飲んだ。
この声を知っている。
卵に沈んで行くビビアナから姿は見えないが、間違いない。
この数日、何度も何度も会いたいと思っていた。何度も何度も心の中で、その名前を呼んでいた。
「リュカ……!!」
0
あなたにおすすめの小説
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~
小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。
そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。
幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。
そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――?
「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」
鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。
精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。
神様の手違いで、おまけの転生?!お詫びにチートと無口な騎士団長もらっちゃいました?!
カヨワイさつき
恋愛
最初は、日本人で受験の日に何かにぶつかり死亡。次は、何かの討伐中に、死亡。次に目覚めたら、見知らぬ聖女のそばに、ポツンとおまけの召喚?あまりにも、不細工な為にその場から追い出されてしまった。
前世の記憶はあるものの、どれをとっても短命、不幸な出来事ばかりだった。
全てはドジで少し変なナルシストの神様の手違いだっ。おまけの転生?お詫びにチートと無口で不器用な騎士団長もらっちゃいました。今度こそ、幸せになるかもしれません?!
目覚めたら魔法の国で、令嬢の中の人でした
エス
恋愛
転生JK×イケメン公爵様の異世界スローラブ
女子高生・高野みつきは、ある日突然、異世界のお嬢様シャルロットになっていた。
過保護すぎる伯爵パパに泣かれ、無愛想なイケメン公爵レオンといきなりお見合いさせられ……あれよあれよとレオンの婚約者に。
公爵家のクセ強ファミリーに囲まれて、能天気王太子リオに振り回されながらも、みつきは少しずつ異世界での居場所を見つけていく。
けれど心の奥では、「本当にシャルロットとして生きていいのか」と悩む日々。そんな彼女の夢に現れた“本物のシャルロット”が、みつきに大切なメッセージを託す──。
これは、異世界でシャルロットとして生きることを託された1人の少女の、葛藤と成長の物語。
イケメン公爵様とのラブも……気づけばちゃんと育ってます(たぶん)
※他サイトに投稿していたものを、改稿しています。
※他サイトにも投稿しています。
処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜
放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!?
「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」
不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。
能天気な私は今日も愛される
具なっしー
恋愛
日本でJKライフを謳歌していた凪紗は遅刻しそうになって全力疾走してたらトラックとバコーン衝突して死んじゃったー。そんで、神様とお話しして、目が覚めたら男女比50:1の世界に転生してたー!この世界では女性は宝物のように扱われ猿のようにやりたい放題の女性ばっかり!?そんな中、凪紗ことポピーは日本の常識があるから、天使だ!天使だ!と溺愛されている。この世界と日本のギャップに苦しみながらも、楽観的で能天気な性格で周りに心配される女の子のおはなし。
はじめて小説を書くので誤字とか色々拙いところが多いと思いますが優しく見てくれたら嬉しいです。自分で読みたいのをかいてみます。残酷な描写とかシリアスが苦手なのでかかないです。定番な展開が続きます。飽き性なので褒めてくれたら続くと思いますよろしくお願いします。
※表紙はAI画像です
敵国に嫁いだ姫騎士は王弟の愛に溶かされる
今泉 香耶
恋愛
王女エレインは隣国との戦争の最前線にいた。彼女は千人に1人が得られる「天恵」である「ガーディアン」の能力を持っていたが、戦況は劣勢。ところが、突然の休戦条約の条件により、敵国の国王の側室に望まれる。
敵国で彼女を出迎えたのは、マリエン王国王弟のアルフォンス。彼は前線で何度か彼女と戦った勇士。アルフォンスの紳士的な対応にほっとするエレインだったが、彼の兄である国王はそうではなかった。
エレインは王城に到着するとほどなく敵国の臣下たちの前で、国王に「ドレスを脱げ」と下卑たことを強要される。そんなエレインを庇おうとするアルフォンス。互いに気になっていた2人だが、王族をめぐるごたごたの末、結婚をすることになってしまい……。
敵国にたった一人で嫁ぎ、奇異の目で見られるエレインと、そんな彼女を男らしく守ろうとするアルフォンスの恋物語。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる