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PREQUEL
放課後の先生たちは大変なんだ
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草木が緑一色になり、すっかり夏めいたとある日の放課後。
温まったままの空気を一気に吸い込むと、草の匂いが微かにする。
開け放った窓の外からは、部活に打ち込む生徒達の声が聞こえてくる。
ここ、叡智学園高等学校は、文武両道で県内でも名の知れた名門校、だった。そう、少なくとも三年前までは。
今から三年前の夏、全校生徒の約半数が何かしらの処分を受けた飲酒事件が起きた。この騒動を機に、叡智学園の評判は地に堕ちた。
当時、学園祭の打ち上げで生徒の集団飲酒があったと保護者から匿名で報告があり、問題になった。
高校生の飲酒くらいで……と思われるかもしれないが、それが名門校である叡智学園で、しかも関わった生徒数に周囲は驚愕した。
学園側の処分は重く、その年の部活動、学業以外の催事は全て制限・縮小され、事件に関わった生徒は例外なく大会への出場資格を奪われた。
それからの三年間、四倍を切ったことのなかった受験者の倍率は徐々に低迷し、今では一.四倍にまで落ち込んだ。
今年の夏に行われるオープンスクールの申し込み数の少なさには管理職はみな頭を抱え、何か対策はないか全教員参加で臨時会議が開かれる事態にまでなった。
「先生方、何か良い案はありませんかね」
マイクを使って切り出したのは、この学園の理事長である。
「皆さん、そう硬くならずに、浮かんだ案をどんどん挙げてください。こうやって教員の皆さん全員で話し合う機会というのはなかなかありませんもので、けれども、それだけの事態なのです、だからこそ、真剣に、そして柔軟に、意見をお聞かせ願いたい」
理事長の言葉に、静まり返った会議室だったが、学校長が続け、催促した。
「さあ」
「……」
「……」
「誰か」
「……」
「皆さん、自分の意見はないのですか?」
「……」
「そんなに主体性のない集団に、生徒が付いてきますかね」
学校長の寂れた声が、室内に響く。おまけに、熱弁すぎたのか、ハウリングしている。
それを横目に、教頭が目の前の教師たちの顔を覗き込むようにして見回したが、誰一人として目を逸らし、下を向いている。
「ごほん、発言した者には、臨時ボーナスを差し上げよう」
理事長が駄目押しで言った。
「……」
「いらんのか」
「……」
「やはり駄目か」
「……」
「では、学年主任、代表して発言してくれたまえ」
痺れを切らした教頭は、ゴホン、と咳払いをした後、マイクを持って各学年主任の元へやって来た。
最初に教頭の餌食となったのは一年生の主任であるアラフォー女教師、片岡だった。
「片岡先生、どう思う?」
「は、はい、何か、慈善活動でもしてみてはいかがでしょうか?」
「ううむ、慈善活動ね」
「それを、学園新聞や地元の回覧板などで広告し、イメージアップを狙うというのは……」
(安易だなあ)
二年生の学年主任である林は頭を掻いた。片岡の次は絶対に当たる。
片岡の発言に、ボソボソと意見を言い合う教師達の様子をしばし伺ってから、理事長は言った。
「なんだかそれでは、三年前のことに全く関与していない現生徒達にまるで罪滅ぼしをさせているような感じがしませんかね」
「はあ……」
「慈善活動というのはそもそも強制するものではなく率先的に取り組むことに意味があるのでは?」
「はい、そう、ですね」
(そりゃそうだな、そういう類のことは生徒発信だからこそ意味があるんだぜ)
「では~、林先生どうですかね、何か良い案はありませんか?」
(来やがったな)
林は、心の呟きと打って変わって爽やかな口調で、
「はい」
と返事をし、しなやかに起立した。
温まったままの空気を一気に吸い込むと、草の匂いが微かにする。
開け放った窓の外からは、部活に打ち込む生徒達の声が聞こえてくる。
ここ、叡智学園高等学校は、文武両道で県内でも名の知れた名門校、だった。そう、少なくとも三年前までは。
今から三年前の夏、全校生徒の約半数が何かしらの処分を受けた飲酒事件が起きた。この騒動を機に、叡智学園の評判は地に堕ちた。
当時、学園祭の打ち上げで生徒の集団飲酒があったと保護者から匿名で報告があり、問題になった。
高校生の飲酒くらいで……と思われるかもしれないが、それが名門校である叡智学園で、しかも関わった生徒数に周囲は驚愕した。
学園側の処分は重く、その年の部活動、学業以外の催事は全て制限・縮小され、事件に関わった生徒は例外なく大会への出場資格を奪われた。
それからの三年間、四倍を切ったことのなかった受験者の倍率は徐々に低迷し、今では一.四倍にまで落ち込んだ。
今年の夏に行われるオープンスクールの申し込み数の少なさには管理職はみな頭を抱え、何か対策はないか全教員参加で臨時会議が開かれる事態にまでなった。
「先生方、何か良い案はありませんかね」
マイクを使って切り出したのは、この学園の理事長である。
「皆さん、そう硬くならずに、浮かんだ案をどんどん挙げてください。こうやって教員の皆さん全員で話し合う機会というのはなかなかありませんもので、けれども、それだけの事態なのです、だからこそ、真剣に、そして柔軟に、意見をお聞かせ願いたい」
理事長の言葉に、静まり返った会議室だったが、学校長が続け、催促した。
「さあ」
「……」
「……」
「誰か」
「……」
「皆さん、自分の意見はないのですか?」
「……」
「そんなに主体性のない集団に、生徒が付いてきますかね」
学校長の寂れた声が、室内に響く。おまけに、熱弁すぎたのか、ハウリングしている。
それを横目に、教頭が目の前の教師たちの顔を覗き込むようにして見回したが、誰一人として目を逸らし、下を向いている。
「ごほん、発言した者には、臨時ボーナスを差し上げよう」
理事長が駄目押しで言った。
「……」
「いらんのか」
「……」
「やはり駄目か」
「……」
「では、学年主任、代表して発言してくれたまえ」
痺れを切らした教頭は、ゴホン、と咳払いをした後、マイクを持って各学年主任の元へやって来た。
最初に教頭の餌食となったのは一年生の主任であるアラフォー女教師、片岡だった。
「片岡先生、どう思う?」
「は、はい、何か、慈善活動でもしてみてはいかがでしょうか?」
「ううむ、慈善活動ね」
「それを、学園新聞や地元の回覧板などで広告し、イメージアップを狙うというのは……」
(安易だなあ)
二年生の学年主任である林は頭を掻いた。片岡の次は絶対に当たる。
片岡の発言に、ボソボソと意見を言い合う教師達の様子をしばし伺ってから、理事長は言った。
「なんだかそれでは、三年前のことに全く関与していない現生徒達にまるで罪滅ぼしをさせているような感じがしませんかね」
「はあ……」
「慈善活動というのはそもそも強制するものではなく率先的に取り組むことに意味があるのでは?」
「はい、そう、ですね」
(そりゃそうだな、そういう類のことは生徒発信だからこそ意味があるんだぜ)
「では~、林先生どうですかね、何か良い案はありませんか?」
(来やがったな)
林は、心の呟きと打って変わって爽やかな口調で、
「はい」
と返事をし、しなやかに起立した。
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