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PREQUEL
よし、イメージ戦略として大会を開こう
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「片岡先生の案は、とても良心的で作為的ではなく、良いと思いました」
林に微笑まれ、先ほどの女教師が顔を紅潮させている。
「先生の発言を聞いていて、浮かんだ案なのですが、よろしいでしょうか」
「お願いします」
学校長の合図に、全教師の注目が林に注がれた。
「我が学園のモットーは優れた文武両道、高い学力と品性、で間違いありませんよね」
「あ、ああ、そうであるとも」
「では、その優れた学力と品性を、改めて地域に知ってもらいましょう」
「……どんな方法で?」
学校長だけではなく理事長も興味津々な様子である。これを見た林は畳み掛けるように弁を振るった。
「慈善活動、というのも良いのですが、この際、学力を競う大会を我が校主催で、県内の高校に呼び掛けましょう」
「大会?」
「はい、大会です。お祭りとか大会とか、みんな好きでしょう。地域も巻き込んで、盛大に! そのためには地元の新聞や番組取材も積極的に受け入れましょう」
「ほう」
「これは我が校のイメージアップのビッグチャンスですよ。大会で見事優勝すれば、注目度も好感度も上がります。倍率だって回復するでしょう」
教師達がコソコソと話す声が聞こえ、学校長はそのうちの一人に意見するよう催促した。
「本間先生、君は林先生の案をどのように思いますか?」
「……そうですね、町おこし的なことは、確かに周囲に好印象を与えるでしょうね。でも、参加校はちゃんと集まるでしょうか? それに、我が校の生徒は確かに優秀ですが、優勝なんて本当にできますか?」
(出たな、マイナス思考の否定的人間め)
実は、林には既に当てがあり、会議中に選出メンバーを決めていた。
「理事長、学校長、ここは私に大会ルールとメンバーの人選を一任させていただけないでしょうか」
そう言った林の顔は自信に満ちていたため、管理職陣は二つ返事で了承した。
「では、君に企画を任せよう。勝算があるのか?」
「ええまあ。もし万が一優勝できなくとも、絶対にやってよかったと思える結果は残せると踏んでいます」
「よし、では我が学園の名誉挽回のため、皆一丸となりましょう」
「林先生、企画や予算のことで困ったら何でも言ってくれ、できるだけのことはするよ」
「先生方も、林先生に協力するようお願いします」
ここで職員会議は終了となった。
職員達が散り散りになる中、学校長が林の元へ寄ってきて言った。
「林先生のおかげで、先生達の士気が上がったようだ。ありがとう」
「いえいえ、それより学校長。成功したら、今年のボーナス、期待していますよ」
「そうだな」
「よろしくっす」
「わかったよ」
帰り支度を始めた林の頭には、この一大プロジェクトの枠組みがだいたい出来上っていた。
(あとは生徒だな、さっそく明日、あいつを呼び出すか)
「林先生」
「はい?」
ふいに後ろから呼び止められる。
「さっきは、ありがとうございました」
片岡だった。
「え、何が?」
「私を、立ててくれるような発言をしてくださって」
片岡はモジモジしながら近寄ってきた。普段の片岡の印象とはかなり違う。
「いえいえ」
林が爽やかな営業スマイルを返すと、面白いくらいにその顔は赤く染まった。林は帰りたかったが、片岡は何か言いたげである。
「林先生ってなんか、他の先生とは違いますよね。あんなに大勢の前で、堂々と自分の意見を言えるのですから」
「ああ、ボクね、教員になる前に一般企業でサラリーマンしていたことがあるんです。営業とかもね、だからこういうのは普通です」
「へえ、そうなんですか……」
片岡は目を丸くして大袈裟に驚いている。
「今は、学校だって潰れる時代ですからね。失業したくありませんし。だから一緒に力を合わせましょー。」
「ええ、ええもちろんです……ところで、先生、大会の趣旨は分かりましたが、その、内容とか、人選とかは……もう、お考えなんですか?」
「そうですねえ、まあ……私だって失敗したくありませんからそこは慎重に、硬く、行きますよ」
「はあ、では、やっぱり、試験で上位の子達に声を掛けるんですか?」
「うーん、まあ、そうですけどね、それだけでは駄目です」
「というと?」
「世間ってイケメン好きじゃないですか、イケメン」
「……イケメン……」
「そう」
「……はい?」
「つまり、ボクが集めるメンバーは、インテリでイケてるメンズ」
「はい……え、それはヤラセの匂いがぷんぷんします」
「イメージ戦略と言ってくださいよ。要は、こんな高校に通いたい、通わせたい、って皆が思ってくれればいいんですから」
「そんな」
「ビジュアルは重要な要素ですよ」
「はあ」
「大丈夫。大会は、ちゃんと行いますし、やるからには優勝を目指します」
「でもっ」
「イケメン、お嫌いですか?」
「……好きです」
片岡はもうそれ以上何も言わなかった。
林は、
「では、お疲れさまです」
と、右手をひらひらさせながら颯爽と行ってしまった。
遠ざかっていく我が校のイケメン教師の背中を熱い視線で見送る片岡。
(む、むしろ、あなたが好きです!)
そう心の中で思い切り叫んだ。
林に微笑まれ、先ほどの女教師が顔を紅潮させている。
「先生の発言を聞いていて、浮かんだ案なのですが、よろしいでしょうか」
「お願いします」
学校長の合図に、全教師の注目が林に注がれた。
「我が学園のモットーは優れた文武両道、高い学力と品性、で間違いありませんよね」
「あ、ああ、そうであるとも」
「では、その優れた学力と品性を、改めて地域に知ってもらいましょう」
「……どんな方法で?」
学校長だけではなく理事長も興味津々な様子である。これを見た林は畳み掛けるように弁を振るった。
「慈善活動、というのも良いのですが、この際、学力を競う大会を我が校主催で、県内の高校に呼び掛けましょう」
「大会?」
「はい、大会です。お祭りとか大会とか、みんな好きでしょう。地域も巻き込んで、盛大に! そのためには地元の新聞や番組取材も積極的に受け入れましょう」
「ほう」
「これは我が校のイメージアップのビッグチャンスですよ。大会で見事優勝すれば、注目度も好感度も上がります。倍率だって回復するでしょう」
教師達がコソコソと話す声が聞こえ、学校長はそのうちの一人に意見するよう催促した。
「本間先生、君は林先生の案をどのように思いますか?」
「……そうですね、町おこし的なことは、確かに周囲に好印象を与えるでしょうね。でも、参加校はちゃんと集まるでしょうか? それに、我が校の生徒は確かに優秀ですが、優勝なんて本当にできますか?」
(出たな、マイナス思考の否定的人間め)
実は、林には既に当てがあり、会議中に選出メンバーを決めていた。
「理事長、学校長、ここは私に大会ルールとメンバーの人選を一任させていただけないでしょうか」
そう言った林の顔は自信に満ちていたため、管理職陣は二つ返事で了承した。
「では、君に企画を任せよう。勝算があるのか?」
「ええまあ。もし万が一優勝できなくとも、絶対にやってよかったと思える結果は残せると踏んでいます」
「よし、では我が学園の名誉挽回のため、皆一丸となりましょう」
「林先生、企画や予算のことで困ったら何でも言ってくれ、できるだけのことはするよ」
「先生方も、林先生に協力するようお願いします」
ここで職員会議は終了となった。
職員達が散り散りになる中、学校長が林の元へ寄ってきて言った。
「林先生のおかげで、先生達の士気が上がったようだ。ありがとう」
「いえいえ、それより学校長。成功したら、今年のボーナス、期待していますよ」
「そうだな」
「よろしくっす」
「わかったよ」
帰り支度を始めた林の頭には、この一大プロジェクトの枠組みがだいたい出来上っていた。
(あとは生徒だな、さっそく明日、あいつを呼び出すか)
「林先生」
「はい?」
ふいに後ろから呼び止められる。
「さっきは、ありがとうございました」
片岡だった。
「え、何が?」
「私を、立ててくれるような発言をしてくださって」
片岡はモジモジしながら近寄ってきた。普段の片岡の印象とはかなり違う。
「いえいえ」
林が爽やかな営業スマイルを返すと、面白いくらいにその顔は赤く染まった。林は帰りたかったが、片岡は何か言いたげである。
「林先生ってなんか、他の先生とは違いますよね。あんなに大勢の前で、堂々と自分の意見を言えるのですから」
「ああ、ボクね、教員になる前に一般企業でサラリーマンしていたことがあるんです。営業とかもね、だからこういうのは普通です」
「へえ、そうなんですか……」
片岡は目を丸くして大袈裟に驚いている。
「今は、学校だって潰れる時代ですからね。失業したくありませんし。だから一緒に力を合わせましょー。」
「ええ、ええもちろんです……ところで、先生、大会の趣旨は分かりましたが、その、内容とか、人選とかは……もう、お考えなんですか?」
「そうですねえ、まあ……私だって失敗したくありませんからそこは慎重に、硬く、行きますよ」
「はあ、では、やっぱり、試験で上位の子達に声を掛けるんですか?」
「うーん、まあ、そうですけどね、それだけでは駄目です」
「というと?」
「世間ってイケメン好きじゃないですか、イケメン」
「……イケメン……」
「そう」
「……はい?」
「つまり、ボクが集めるメンバーは、インテリでイケてるメンズ」
「はい……え、それはヤラセの匂いがぷんぷんします」
「イメージ戦略と言ってくださいよ。要は、こんな高校に通いたい、通わせたい、って皆が思ってくれればいいんですから」
「そんな」
「ビジュアルは重要な要素ですよ」
「はあ」
「大丈夫。大会は、ちゃんと行いますし、やるからには優勝を目指します」
「でもっ」
「イケメン、お嫌いですか?」
「……好きです」
片岡はもうそれ以上何も言わなかった。
林は、
「では、お疲れさまです」
と、右手をひらひらさせながら颯爽と行ってしまった。
遠ざかっていく我が校のイケメン教師の背中を熱い視線で見送る片岡。
(む、むしろ、あなたが好きです!)
そう心の中で思い切り叫んだ。
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