3 / 13
なんで俺が……
なんでアイツの名前が……
しおりを挟む
「二年D組の長谷部恵吾くん、職員室、林のところまで来るように」
帰りのホームルームが終ってすぐ、バイトまでの時間をどう潰そうかと考えていた長谷恵吾は、林からの突然の呼び出しに溜息を洩らした。林の呼び出しは、そのほとんどが面倒な雑務ばかりである。
実は、恵吾の母親と林は姉弟で、二人は親戚である。そのため、事ある毎に公私問わずにこうやって呼びつけるのだ。
(あいつ、校内放送を携帯電話かなんかと勘違いしてんな、ったく)
「翔ちゃん、頼むから校内放送を使って俺を呼ぶの止めてくんないかな」
「おう、恵吾、来たか」
「……今回は、何のようだよ」
「オイオイ、なんでお前はいつもそう不機嫌そうな顔をしてんだ」
「翔ちゃんが、嫌なことをするから」
恵吾は膨れっ面で言った。
「嫌なことって、呼び出しか?」
「いつもいつも呼び出し食らってちゃ、俺のイメージが……」
「はは、イメージってなんだ」
「恵吾様のイメージだよ!!」
「なんだお前、人の目なんか気にしてんのか一丁前に」
「とにかく恥ずかしいから止めてくれよな」
「わかったよ、もうしない」
嘘だ。林はいつもそうやって言うのだ。一枚上手というか、食えないやつという感じがある。母から聞くにプライベートも派手でいろいろあるらしく、そんな林が教師という職業を選択したときは家族みんな驚いたそうだ。
恵吾は甥っ子という立場のせいで、なんだかんだで気付けばいつも良いように利用されている気がする。いい加減、結婚でもして落ち着けばいいのに。
「翔ちゃん、結婚しないの?」
「なんだ、いきなり」
「翔ちゃん、もう若くないでしょ」
「そうかなあ」
「だって三十三でしょ」
「そうだよ」
「オジサンでショ」
「うん、僕が君の叔父さんであることは間違いない」
「俺のじゃなくって、世間一般にいうオジサン」
「うーん」
林は、結構真剣に唸っている。
「まあ、いいや、それより用って何? 俺、今日バイトがあるから手短にお願い」
「ああ、お前さ、有名人になる気はないか?」
「へ?」
「いや、ちょっとした大会に出てほしいんだけど、」
「大会? 俺チームプレイ、苦手だぞ」
「いいんだ、だが問題が一つあって、頭を使う」
「……バカの俺が?」
「……そうだ。でもお前、この学校に入れたんだから、できるって!」
「待って待って、何俺に試験以外に勉強すれっていうの? イヤだぜ、バイトだってあるし」
「代わりに一個、何でも言うこと聞いてやるからさ、頼む」
「何でもって……」
恵吾は、『何でも』という言葉に釣られそうである。今まで散々こき使われてきたけれど、交換条件の提案なんて初めてだった。この際、うんと高いモノでも買ってもらおうか――。
結局、今回も林のお願いを断れなかった恵吾は、話を一旦切り上げてバイト先のコンビニへ向かった。
恵吾の働いているコンビニは駅やバス停から少し遠い、自宅近くにある。その分、帰りは歩いて帰れるから気楽でいい。
その日は以外に客の出入りがあり、いつもより忙しなく働いた。
十分休憩の間、恵は林から手渡されたメモを見ながら、やっぱり今回だけは断れば良かったと後悔していた。
恵吾は少し長くなった前髪の毛先をちりちりと捩じりながら、そこに書かれたある人物の名前を、じっと見つめていた。
林からの説明はとても簡易なものだった。
「恵吾、このメモに書いている奴に声掛けて、八月の大会に出場してほしいんだ」
「は? 大会って何のだよ」
「暗記力を競うんだ」
「え~、俺、中の下なのに」
「うん、だからちょっとやってくれよ、勉強」
「なんで俺なんだよぉ」
「うーん、まあ、単純に見た目がな、ジャ○ーズにいそうだから」
「なんだよ、それー」
「どうせ我が校の宣伝するんなら可愛い子の方がいいだろ」
「はあ?」
「いやいや、こっちの話だ。とにかくお前が鍵なのは確かなんで。ま、頭の方は他の奴らには任せよう」
「っつーか、それに参加したらいいことあるのかよ」
「だから、何でも言うこと聞いてやるって」
「本当に何でも?」
「本当に、何でも」
怪訝そうな恵吾に対して、林は満面の笑みだ。
「回らない寿司屋でも、高級レストランでも、いいぞ。うまいもん、何でも食わしてやる」
「そうやって食いもんで釣ろうとして……、子どもじゃないんだぞ」
「子どもだろ」
「うるせっ! だいたい、他のやつらはどうやって集めるんだよ。翔ちゃんがやればいいのになんで俺が誘うの?」
「まあまあ、とにかくコレ、はい」
そう言って渡された林メモ。細かいことは何も書いていない。林の、決して綺麗とは言えない箇条書き。
恵吾は、そこに書かれた人物のうち、一人をよーく知っている。
(なんでだよ、翔ちゃん……よりによってなんてアイツの名前が)
悶々としていた恵吾は、バイトの相方に呼び鈴で呼ばれた。カメラを見るとレジが並んでいる。
「うわ、もう10分経ったのか~、パン食おうと思ってたのに!」
一先ず、急いでレジへと向かった。
帰りのホームルームが終ってすぐ、バイトまでの時間をどう潰そうかと考えていた長谷恵吾は、林からの突然の呼び出しに溜息を洩らした。林の呼び出しは、そのほとんどが面倒な雑務ばかりである。
実は、恵吾の母親と林は姉弟で、二人は親戚である。そのため、事ある毎に公私問わずにこうやって呼びつけるのだ。
(あいつ、校内放送を携帯電話かなんかと勘違いしてんな、ったく)
「翔ちゃん、頼むから校内放送を使って俺を呼ぶの止めてくんないかな」
「おう、恵吾、来たか」
「……今回は、何のようだよ」
「オイオイ、なんでお前はいつもそう不機嫌そうな顔をしてんだ」
「翔ちゃんが、嫌なことをするから」
恵吾は膨れっ面で言った。
「嫌なことって、呼び出しか?」
「いつもいつも呼び出し食らってちゃ、俺のイメージが……」
「はは、イメージってなんだ」
「恵吾様のイメージだよ!!」
「なんだお前、人の目なんか気にしてんのか一丁前に」
「とにかく恥ずかしいから止めてくれよな」
「わかったよ、もうしない」
嘘だ。林はいつもそうやって言うのだ。一枚上手というか、食えないやつという感じがある。母から聞くにプライベートも派手でいろいろあるらしく、そんな林が教師という職業を選択したときは家族みんな驚いたそうだ。
恵吾は甥っ子という立場のせいで、なんだかんだで気付けばいつも良いように利用されている気がする。いい加減、結婚でもして落ち着けばいいのに。
「翔ちゃん、結婚しないの?」
「なんだ、いきなり」
「翔ちゃん、もう若くないでしょ」
「そうかなあ」
「だって三十三でしょ」
「そうだよ」
「オジサンでショ」
「うん、僕が君の叔父さんであることは間違いない」
「俺のじゃなくって、世間一般にいうオジサン」
「うーん」
林は、結構真剣に唸っている。
「まあ、いいや、それより用って何? 俺、今日バイトがあるから手短にお願い」
「ああ、お前さ、有名人になる気はないか?」
「へ?」
「いや、ちょっとした大会に出てほしいんだけど、」
「大会? 俺チームプレイ、苦手だぞ」
「いいんだ、だが問題が一つあって、頭を使う」
「……バカの俺が?」
「……そうだ。でもお前、この学校に入れたんだから、できるって!」
「待って待って、何俺に試験以外に勉強すれっていうの? イヤだぜ、バイトだってあるし」
「代わりに一個、何でも言うこと聞いてやるからさ、頼む」
「何でもって……」
恵吾は、『何でも』という言葉に釣られそうである。今まで散々こき使われてきたけれど、交換条件の提案なんて初めてだった。この際、うんと高いモノでも買ってもらおうか――。
結局、今回も林のお願いを断れなかった恵吾は、話を一旦切り上げてバイト先のコンビニへ向かった。
恵吾の働いているコンビニは駅やバス停から少し遠い、自宅近くにある。その分、帰りは歩いて帰れるから気楽でいい。
その日は以外に客の出入りがあり、いつもより忙しなく働いた。
十分休憩の間、恵は林から手渡されたメモを見ながら、やっぱり今回だけは断れば良かったと後悔していた。
恵吾は少し長くなった前髪の毛先をちりちりと捩じりながら、そこに書かれたある人物の名前を、じっと見つめていた。
林からの説明はとても簡易なものだった。
「恵吾、このメモに書いている奴に声掛けて、八月の大会に出場してほしいんだ」
「は? 大会って何のだよ」
「暗記力を競うんだ」
「え~、俺、中の下なのに」
「うん、だからちょっとやってくれよ、勉強」
「なんで俺なんだよぉ」
「うーん、まあ、単純に見た目がな、ジャ○ーズにいそうだから」
「なんだよ、それー」
「どうせ我が校の宣伝するんなら可愛い子の方がいいだろ」
「はあ?」
「いやいや、こっちの話だ。とにかくお前が鍵なのは確かなんで。ま、頭の方は他の奴らには任せよう」
「っつーか、それに参加したらいいことあるのかよ」
「だから、何でも言うこと聞いてやるって」
「本当に何でも?」
「本当に、何でも」
怪訝そうな恵吾に対して、林は満面の笑みだ。
「回らない寿司屋でも、高級レストランでも、いいぞ。うまいもん、何でも食わしてやる」
「そうやって食いもんで釣ろうとして……、子どもじゃないんだぞ」
「子どもだろ」
「うるせっ! だいたい、他のやつらはどうやって集めるんだよ。翔ちゃんがやればいいのになんで俺が誘うの?」
「まあまあ、とにかくコレ、はい」
そう言って渡された林メモ。細かいことは何も書いていない。林の、決して綺麗とは言えない箇条書き。
恵吾は、そこに書かれた人物のうち、一人をよーく知っている。
(なんでだよ、翔ちゃん……よりによってなんてアイツの名前が)
悶々としていた恵吾は、バイトの相方に呼び鈴で呼ばれた。カメラを見るとレジが並んでいる。
「うわ、もう10分経ったのか~、パン食おうと思ってたのに!」
一先ず、急いでレジへと向かった。
0
あなたにおすすめの小説
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら
たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生
海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。
そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…?
※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。
※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。
幼馴染みに告白したら、次の日オレ当て馬になってたんですけど!?
曲がる定規
BL
登場人物
慎太郎 (シンタロウ)
ユキ
始 (ハジメ)
あらすじ
慎太郎とユキ、始の三人は幼馴染で、隣同士に住んでいる。
ある日、慎太郎がユキの部屋でゲームをしていると、ユキがポツリと悩みを口にした。『友達の好きと恋愛の好きって、何が違うの?』と。
密かにユキに想いを寄せていた慎太郎。ここは関係を一歩進められるチャンスだと思い、ユキに想いを告げる。
唇を近づけた慎太郎。そこに偶然やって来た始に、慎太郎は思いっきり殴られてしまう。慎太郎は何がなんだかわからないと混乱する。しかし、ユキと始に帰るよう言われ渋々帰宅した。
訳のわからないまま翌日になると、ユキと始は付き合い始めたと言われてしまう。
「この作品は『KADOKAWA×pixiv ノベル大賞2024』の「BL部門」お題イラストから着想し、創作したものです。
そちらに加筆、修正を加えています。
https://www.pixiv.net/novel/contest/kadokawapixivnovel24」
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
【完結・BL】春樹の隣は、この先もずっと俺が良い【幼馴染】
彩華
BL
俺の名前は綾瀬葵。
高校デビューをすることもなく入学したと思えば、あっという間に高校最後の年になった。周囲にはカップル成立していく中、俺は変わらず彼女はいない。いわく、DTのまま。それにも理由がある。俺は、幼馴染の春樹が好きだから。だが同性相手に「好きだ」なんて言えるはずもなく、かといって気持ちを諦めることも出来ずにダラダラと片思いを続けること早数年なわけで……。
(これが最後のチャンスかもしれない)
流石に高校最後の年。進路によっては、もう春樹と一緒にいられる時間が少ないと思うと焦りが出る。だが、かといって長年幼馴染という一番近い距離でいた関係を壊したいかと問われれば、それは……と踏み込めない俺もいるわけで。
(できれば、春樹に彼女が出来ませんように)
そんなことを、ずっと思ってしまう俺だが……────。
*********
久しぶりに始めてみました
お気軽にコメント頂けると嬉しいです
■表紙お借りしました
男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる