幼馴染みが記憶トレーニングと称して、いやらしく俺に触れてくるんだが。

ことりさん

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なんで俺が……

林先生の交換条件

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 林が人選したリストには、名前と簡単な情報が載っていた。
 恵吾は、そのうちの一人を知っている。しかしどうにもやっかいな相手のため、一先ず今日のところは残りの二人をスカウトすることに決めた。

 昼休みの時間を使って、林メモを見直しながら進む。




~林メモ①~


三ノ宮草太。
 二年A組。
 落語愛好会所属。
 身長182センチ。
 メガネ君。
 得意科目、古文。
 苦手なもの、お化け。
 あだ名、イイヒト。


東條正紀。
 二年A組。
 同じく落語愛好会所属。
 身長174センチ。
 髪がやけにサラサラ。
 前髪は切った方がいい。
 得意科目、現国と英語。
 三ノ宮の声が好きらしい。


 大会前にイメチェンさせてイケメンにしてくれ、よろしく。


~~~~~~~~



(ったく、なんだよこの大雑把で偏った情報。イメチェンって重要なの? 意味わからん)

 恵吾はメモをクシャクシャに丸め、二人の在籍するA組へと足を運んだ。


 ここ叡智学園は一年時は入学試験の成績、二年と三年ではそれぞれ学年末試験の成績の順に編成され、S組、A組、B組から、E組までと続く。
 D組の恵吾は、上位の組に足を踏み入れることに対してほんの少しだけ引け目を感じる。
 S組、A組は東大を志望するやつらが何人もいるのだ。彼等と自分とでは、頭の作りが違う。同じ制服を着ているのに、何だか別の生き物みたいだ。


 A組の教室を覗き、見たことのある顔を探したが、そもそも馴染みは一人としていない。
 三ノ宮と東條に関しては、顔すらも知らないので、誰かに聞いて呼び出すしかない。
 話し掛けやすそうな生徒を探していると、後ろから声を掛けられた。
「あれ、長谷部君だ」
「あ」
 振り向くと、同中の遠山みくだった。

「珍しいね、うちのクラスの誰かに用事?」

(そっかあ、遠山がいたなあ)

「遠山、久しぶりだな、元気か?」
「見れば分かるでしょ、この通り元気よ」
「お、おう」
 相変わらず、可愛い顔に似合わぬ鋭い返しだ。それでも長谷部は、このタイミングで神様を見つけたような気分だった。

「あのさ、このクラスに三ノ宮と東條ってやつ、いるだろう」
「ああ~、なに、長谷部君ってあの変人たちと友達なの?」
「変人?」
「うん、二人っきりで落語愛好会ってのをやってて、休み時間もずっとなんか、落語? 聞いてるの」
「へえ……そういう、やつらなんだ。で、今はどこにいるの?」
「昼休みはだいたい屋上にいるみたいよ。落語の練習するんだって」
「屋上ね、さんきゅ!」
 まだ休み時間は始まったばかりだ。長谷部はその足で屋上に行ってみることにした。



 屋上へ上がるのは、考えてみれば初めてだった。
(うへぇ~、屋上っていつでも上がれるようになってんのな。知らんかった)

 ここまで来るのにだいぶ時間をロスしてしまった。ちゃっちゃと屋上へ続く階段を昇っていく。階段は結構暗いが、屋上の扉の窓からは陽が射していて今日が快晴であることが分かる。
 恵吾はノブに手を掛け、扉を開けた。

 ふわっと、心地良い風が入って来る。今は六月だ。煩い蝉も、むさ苦しい風もない。

(気持ちいいな)

 屋上に出て、少し進むと、何やらぶつぶつと呟くような、囁くような声が聞こえてくる。
(ヤバめな雰囲気だな……頼むよー翔ちゃん)

 恵吾は声のする方へ進んでいった。
 二人はそれぞれ恵吾に背を向けて座っている。身動きはなく、完全に青空の風景と同化していた。
 イヤホンをしているから、近づく恵吾にも全然気づいていない様子だった。

「おい」
 最初、小さく声を掛けたが、まるで無視されたかのように無反応だ。

「おーーい!」
 さっきの三倍くらいの声で叫んだ。
「うわっ!」
「ひっ」
 二人は同時に同様の反応を見せてこちらを振り返った。

「な、なに?」

 気恥ずかしいムードになりやるせない。二人のうち一人は友好的な態度を見せたが、もう一人は怪訝そうな顔をし相方に任せると決めてそっぽを向いた。
 手っ取り早く要件を伝えよう。

「あのさ、俺、D組の長谷部恵吾っていうんだけど、キミタチに話があってさ」

「ああ長谷部君、知ってるよ、今年のマラソン大会で一位とったよね」
 そう言ったのは大きい方、三ノ宮だった。
「へえ、すごいね、マラソン一位の長谷部君が、俺らに何の用?」
 片方のイヤホンをしたまま、人の目も見ないで、というか前髪が長すぎて見ているのかも分からないのだが、ぶっきら棒に言ったのは東條。
「あのさ、林先生に頼まれていることがあってさ」

 その言葉を聞いて、二人は顔を見合わせてみせた。
「林先生から? 何だい?」
「あのさ、八月に、県内校の交流を目的とした大会があって……それに、俺と一緒に出てほしいんだ、林先生の指名なんだよ」
「は? なんで俺らなわけ?」
 東條が割って入った。
「さあ、人選については俺も聞いてないから……」
「俺さ、そういう人前に出るのって面倒だし嫌いなんだ」
「ら、落語だって人前に出るだろ、やってんだろ、キミタチ」
 そう言うと、三ノ宮の方が少し驚いた様子で言った。
「へ~知ってんだ、もしかして君も落語に興味あるの?」
 落語というワードに三ノ宮が飛びついてきた。
「い、いや、別に、興味ないし」
 恵吾は思わず遠慮なしに本音が出た。
「な~んだ残念。で、大会って、何の大会なの? まさか落語に関係してるってわけじゃないよね」
「違うと思う、俺もよくは知らないんだけど、なんか暗記力を競うとかって言ってたな」
「へぇ……」
「なんかつまんなさそーだね」

(こいつら興味なさそうな、よしこうなったら……)

 恵吾はポケットから秘策アイテムを取り出した。林から、交渉の時に使うようにと渡されていたものだ。
 それはなんの変哲も無い封筒で、中身は恵吾も知らなかった。


「林先生からで、これ見て検討してって言ってた」
 二人はいくぶん興味を示している様子だ。
「……ワイロ?」
「さあ」




 二人は、手渡された封筒の中身を確認している。どうやら一枚の紙が入っておりそこに何やら書いてあるみたいだ。
 何か問題でもあったんだろうか、二人は顔を見合わせててから三ノ宮は明らかに目を輝かせ、また東條はニヤリとした。
(なんだよなんだよ、気になるなオイ)


 そして、先に沈黙を破ったのは東條だった。
「これは所謂、契約書だな。もしここに書いていることが事実なら、考えてもいいよ」
「マジ!? やったー。てかなんて書いてんの?」



「キミ、中身見てないの?」
三ノ宮が心配そうな表情で恵吾に言った。
「へ? ちょっと俺にも見せてくんない?   えーと、なになに……私、林翔太が落語愛好会の顧問になろう。そして君等の目の前にいる長谷部が入会してメンバーが三人となる。我が校の規定に則り、これで晴れて落語愛好会は同好会に昇格だぁぁ!!? 何だよこれ」

(なんでだよ、なんでだーー! 俺が落語なんか!!!)



「すごく嬉しい!」
 三ノ宮が立ち上がり喜んだ。
「ただ大会に出ればいいんだろう」
 東條も続けた。さっきの態度とは一転して乗り気の様子だ。

「もしも優勝できたら、特待生として卒業までの学費を全額免除だ。それから特別に部室を用意しよう、とも書いてるよ。悪くないな」
「すごいな、これで屋上ともおさらばだよ。出るよ! な、正紀君?」
「そうだな、学費免除はありがたい。出るからには優勝だな」

 二人の話に交渉人の恵吾が取り残される始末だ。今更取り消すに取り消せないマズイ展開になっている。
 恵吾は林を恨んだ。
 そしてダメ元で一応、聞いてみた。


「……あのさ……幽霊部員っていうの、アリ?」











「は? 何言ってんの。ナシだろ」
 と東條。

「落語、楽しいよ」
 と笑顔の三ノ宮。





(翔ちゃんのバカヤローーーー!)

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