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なんで俺が……
恵吾と佐野
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それは、名門校と言われる叡智学園に合格し、中学の卒業式を控えたある日のことだった。
恵吾は、佐野と同じ高校に通えることが名誉なことで、嬉しかった。
恵吾にとって佐野は自慢の幼馴染みで、憧れの存在で、大事な親友だったのだ。
佐野は昔からモテるのに、なぜか彼女を作らなかった。恵吾にはそれが不思議だったが、もしも佐野に彼女ができたら、自分は二の次になるのかと想像すると、このままの方が都合が良い。
いつか互いに自然と彼女ができて、結婚したりしても、この関係はずっと変わらないだろう。だからこそ、佐野に聞いてみたかった。そういう話も、恵吾は佐野としたかった。
その日、帰り際にクラスメイトに告白された佐野は、恵吾のいる前であっさりとそのお誘いを断った。それを見て物を言いたくなった恵吾は、佐野の部屋に上がり込んで問いつめることにしたのだった。
「潤、どうして白瀬さんからの告白、あんなに即答で断っちゃったの? もったいねーなー」
「……どうしてって、別に好きじゃないし」
「な、なんてやつだ。白瀬さんカワイイのに……」
「……そう?……」
(こいつ、コイツの目は節穴か!? それか、どんだけハードル高いんだよ)
「じゃあ、なんだよ~、お前、もしかして女の子に興味ない、とか?」
恐る恐る、聞いた。
「俺に彼女できたら、恵吾との時間なくなっちゃうだろ」
「なんだよそれ、俺か? 俺のせいか? お前そんなに俺のこと好きなのかーーー。ま、俺も好きだけどさ!」
「……」
恵吾は照れなら言い終えると、佐野の空気が変わっていることに気付いた。
「なに? どうした?」
「俺、恵吾のことが好きだよ」
「お、おう、サンキュー」
「……」
「え、なに? 何か気に障った? 俺もお前のこと、好きだぜ」
「それはさ、俺の言った意味とは、違うよ」
「え……」
「……」
「言っている意味が、分かんないよ」
「恵吾はさ、分かんないっていつも言うけどさ、考えてよ」
佐野の表情は真剣だった。
「本当に、分かんない?」
「うん……?」
「じゃあさ、ちょっと、動かないで」
佐野はそう言って恵吾の両手首を捕らえるように掴んだ。同じ男の力なのに、そのように捕えられては振りほどけない。
「え、何だよ……ん、ん!!?」
次の一瞬、恵吾の体は硬直した。佐野はを頤を擦り付けながら恵吾の唇を手繰り寄せるようにキスした。
恵吾にとって生まれて初めてのキス。
それはとても軽いキスで、触れたと同時にすぐに離れたから、恵吾は不思議と嫌だとは感じなかった。
男同士で、気持ち悪いとかも、なかった。それどころか、驚いたことに、佐野に触れられた瞬間、自分の体内のどこか、自身も分からない部分が熱くなって、まるで軟体動物のように力が抜けてしまった。
「な、に……すんだよ……」
一体どうして――。
「もう一回言うよ、俺はさ、恵吾と一緒にいたいんだよ」
「……」
「だから、彼女とか、いらない」
(俺だって……)
佐野とは、そういう性別を超えた仲で、ずっと死ぬまで一緒にいたい。そのためには、この距離感がちょうど良くて心地良いんだ。
それなのに佐野はいつも、あのときも、それを許さなかった。この曖昧なぬるま湯の中にいたい恵吾にとって、佐野の行動は理解できなかったし、理解したくなかった。
恵吾は佐野から逃げ出したのだ。
「び、びっくりしたじゃんか、俺をキスの練習台に使うなよな! 俺がナイーブな女の子だったらお前のことひっぱたいてたぜ、いきなり何すんのよーってさ、良かったな相手が寛大な俺で」
「恵吾……」
「もう、こういう冗談、やめろよな、はは」
恵吾はこのとき、佐野の気持ちに気付いたのだったが、自分の気持ちに自信がないために、佐野の気持ちに返事をしなかった。佐野のことは、きっと好きだ。けれども、自分の体が、女みたいに反応したことが、思いの外ショックだった。この先を知ってしまったら……これ以上、自分が女みたいになることが恐かった。
(俺は、このままでいたい)
佐野との今の関係が変わってしまうことが、恵吾には耐えられそうになかったのだ。それからどうにも気まずくて、佐野との関係を自ら疎遠にしてしまった。
高校へ入学して、佐野からも何も音沙汰がなかったので、もうあの日のことはなかったことにしたのだと勝手に思った。
クラスも離れ、自分の身の丈に合った新しい友人ができ、佐野のことを考えることもなくなっていた。
恵吾にとって、あのタイミングで佐野と距離を置いたことは、良かったのかもしれない。一緒にいたら、二人の理想の関係を壊した佐野のことを、恵吾はもしかしたら恨んでしまっていたかもしれないからだ。
それなのに、佐野はあれからずっと、恵吾の答えを待っているのだと知った。
――ズキン。
心臓が痛む。
あれから、昔以上に、男ですら見惚れてしまうほど男前になった佐野を前にして、また同じことをされたら、次はどう逃げればいい。佐野は逃がしてはくれないだろう。
「そんな、思い詰めた顔しないでよ」
「だって、お前……」
「ごめん、もういいんだ。済んだことだよ」
――ズキン。
まただ。鼓動がおかしい。
佐野と久しぶりにこうやって話して分かった。やっぱりあの頃の二人にはどうやったって戻れないのだ。
黙ってしまった恵吾を見て、佐野が続けた。
「もういいんだ、あのときは恵吾を少し、困らせたかっただけ」
「潤……」
「実はもう、林先生からその話は聞いてるんだ、恵吾が誘いに来てくれるなんて思ってなかったからさ、久々に話ができて嬉しかったよ。俺も、その大会、出るよ」
そう言って佐野は笑った。
恵吾は、佐野と同じ高校に通えることが名誉なことで、嬉しかった。
恵吾にとって佐野は自慢の幼馴染みで、憧れの存在で、大事な親友だったのだ。
佐野は昔からモテるのに、なぜか彼女を作らなかった。恵吾にはそれが不思議だったが、もしも佐野に彼女ができたら、自分は二の次になるのかと想像すると、このままの方が都合が良い。
いつか互いに自然と彼女ができて、結婚したりしても、この関係はずっと変わらないだろう。だからこそ、佐野に聞いてみたかった。そういう話も、恵吾は佐野としたかった。
その日、帰り際にクラスメイトに告白された佐野は、恵吾のいる前であっさりとそのお誘いを断った。それを見て物を言いたくなった恵吾は、佐野の部屋に上がり込んで問いつめることにしたのだった。
「潤、どうして白瀬さんからの告白、あんなに即答で断っちゃったの? もったいねーなー」
「……どうしてって、別に好きじゃないし」
「な、なんてやつだ。白瀬さんカワイイのに……」
「……そう?……」
(こいつ、コイツの目は節穴か!? それか、どんだけハードル高いんだよ)
「じゃあ、なんだよ~、お前、もしかして女の子に興味ない、とか?」
恐る恐る、聞いた。
「俺に彼女できたら、恵吾との時間なくなっちゃうだろ」
「なんだよそれ、俺か? 俺のせいか? お前そんなに俺のこと好きなのかーーー。ま、俺も好きだけどさ!」
「……」
恵吾は照れなら言い終えると、佐野の空気が変わっていることに気付いた。
「なに? どうした?」
「俺、恵吾のことが好きだよ」
「お、おう、サンキュー」
「……」
「え、なに? 何か気に障った? 俺もお前のこと、好きだぜ」
「それはさ、俺の言った意味とは、違うよ」
「え……」
「……」
「言っている意味が、分かんないよ」
「恵吾はさ、分かんないっていつも言うけどさ、考えてよ」
佐野の表情は真剣だった。
「本当に、分かんない?」
「うん……?」
「じゃあさ、ちょっと、動かないで」
佐野はそう言って恵吾の両手首を捕らえるように掴んだ。同じ男の力なのに、そのように捕えられては振りほどけない。
「え、何だよ……ん、ん!!?」
次の一瞬、恵吾の体は硬直した。佐野はを頤を擦り付けながら恵吾の唇を手繰り寄せるようにキスした。
恵吾にとって生まれて初めてのキス。
それはとても軽いキスで、触れたと同時にすぐに離れたから、恵吾は不思議と嫌だとは感じなかった。
男同士で、気持ち悪いとかも、なかった。それどころか、驚いたことに、佐野に触れられた瞬間、自分の体内のどこか、自身も分からない部分が熱くなって、まるで軟体動物のように力が抜けてしまった。
「な、に……すんだよ……」
一体どうして――。
「もう一回言うよ、俺はさ、恵吾と一緒にいたいんだよ」
「……」
「だから、彼女とか、いらない」
(俺だって……)
佐野とは、そういう性別を超えた仲で、ずっと死ぬまで一緒にいたい。そのためには、この距離感がちょうど良くて心地良いんだ。
それなのに佐野はいつも、あのときも、それを許さなかった。この曖昧なぬるま湯の中にいたい恵吾にとって、佐野の行動は理解できなかったし、理解したくなかった。
恵吾は佐野から逃げ出したのだ。
「び、びっくりしたじゃんか、俺をキスの練習台に使うなよな! 俺がナイーブな女の子だったらお前のことひっぱたいてたぜ、いきなり何すんのよーってさ、良かったな相手が寛大な俺で」
「恵吾……」
「もう、こういう冗談、やめろよな、はは」
恵吾はこのとき、佐野の気持ちに気付いたのだったが、自分の気持ちに自信がないために、佐野の気持ちに返事をしなかった。佐野のことは、きっと好きだ。けれども、自分の体が、女みたいに反応したことが、思いの外ショックだった。この先を知ってしまったら……これ以上、自分が女みたいになることが恐かった。
(俺は、このままでいたい)
佐野との今の関係が変わってしまうことが、恵吾には耐えられそうになかったのだ。それからどうにも気まずくて、佐野との関係を自ら疎遠にしてしまった。
高校へ入学して、佐野からも何も音沙汰がなかったので、もうあの日のことはなかったことにしたのだと勝手に思った。
クラスも離れ、自分の身の丈に合った新しい友人ができ、佐野のことを考えることもなくなっていた。
恵吾にとって、あのタイミングで佐野と距離を置いたことは、良かったのかもしれない。一緒にいたら、二人の理想の関係を壊した佐野のことを、恵吾はもしかしたら恨んでしまっていたかもしれないからだ。
それなのに、佐野はあれからずっと、恵吾の答えを待っているのだと知った。
――ズキン。
心臓が痛む。
あれから、昔以上に、男ですら見惚れてしまうほど男前になった佐野を前にして、また同じことをされたら、次はどう逃げればいい。佐野は逃がしてはくれないだろう。
「そんな、思い詰めた顔しないでよ」
「だって、お前……」
「ごめん、もういいんだ。済んだことだよ」
――ズキン。
まただ。鼓動がおかしい。
佐野と久しぶりにこうやって話して分かった。やっぱりあの頃の二人にはどうやったって戻れないのだ。
黙ってしまった恵吾を見て、佐野が続けた。
「もういいんだ、あのときは恵吾を少し、困らせたかっただけ」
「潤……」
「実はもう、林先生からその話は聞いてるんだ、恵吾が誘いに来てくれるなんて思ってなかったからさ、久々に話ができて嬉しかったよ。俺も、その大会、出るよ」
そう言って佐野は笑った。
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