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道化、難を逃れる
俺の本心であり、最奥の願望。
剥き出しの邪悪を前に、静寂が流れる。
世界を翻弄する道化が見据える終着点だ。
さすがに、響いちまった――か?
なんて耽っていると。
「……ああ、そう」
呆れたような返答が、返ってきただけだった。
「え、そんだけ?」
「君の魔術には興味があるが、君自身の為すことには何の興味も湧かないからな」
リウムも続いて首肯する。
「また……またわたしはこんな外道にいいように使われるんですね、それも最低賃金で……」
セレスタに関しては、未だにそれどころじゃない部分に引っかかっているようだ。
「道化も自己主張が過ぎると、甚だ不快よのう」
ヴィネットに至ってはただただドン引きされていた。
「くう……お前ら……」
むしろ俺を前に、少しだけ団結してるまであるのではないだろうか。
はは……これぞ道化キャラ……なんてな。
そこで、中々話についていけてない、というか話を振ることすら避けていた白髪の少年が口を開いた。
「ボクもその、そういう悪いことは……止めたほうがいいんじゃないかなって」
純粋で、素直な意見だ。
だからこそ、その無垢な言葉は俺を傷つける。
目頭が熱くなるのを感じる。
「え? だ、だいじょうぶ?」
「何が? 別になんともない。というか何の戦力にもならないお前が俺の心配なんかしてんじゃねえ」
「なんでボクだけそんなあたり強いの!?」
一人だけ優位性取れそうだから、というのは置いておくとして。
ある意味で、特別な存在だからだろうな。
当然、本人を前に口にすることはないが。
「はあ……まあいいわ。とりあえずは生かしておいて上げる」
「へ?」
そこで、フレイアは殺気の込もった瞳を閉じる。
要するに、俺へと向けていた矛先を収めたのだ。
どういう了見だ?
「とりあえずと言ったでしょう。別にあんたの罪を許すわけではない。ただ、今の世界を知らないあたしもまだ、あんたを裁く権利なんてないのも事実でしょうから。罪を審議するのは、それからでも遅くないでしょう」
「マジか! やっさしい!」
「殺すわよ」
「生かすって言ったじゃん!?」
一番槍を担ってくれている(というか真っ先に食って掛かる)フレイアが、この選択は大きい。
安堵している俺に対し、フレイアは再び、その全てを焼き尽くすほどの灰の瞳を開く。
「けれど、力は貸さない。あんたの思い通りには、絶対にならない」
「はっ。それでいいさ」
「あんたはいつか必ず、報いを受ける。相応の罰が下るでしょうね」
……そんなもん、わかってるさ。
俺の願いが叶うなら、とびきりの罰を与えて欲しい。
いつも、いつも願ってばかりだな、俺は。
だから、亡くすんだ。
大切な人を、かけがえのない親友を。
いや、切り替えろ。
とりあえず、最初の急場はしのいだ。
今はただ、道化を演じ続けるんだ。
とにかく騙し続けろ、折れるな、やり遂げてみせろ。
弛緩していく空気に、俺はやっと一息つくことができた。
「次に、お前はどうする?」
だらりと半身を椅子に預けているリウムに声を掛けると、彼女はぐったりとしたまま答える。
「私は別に気にしてない。というか、感謝すらしてるくらいだよ」
「なんだと?」
……なんだと?
言葉と内心が一致した。
リウムは半眼のままこちらを見やる。
「こうして俗世とまた関わりが持てたんだ。まだまだ知りたいことも、やりたいこともたくさんあるさ」
「そりゃあ、どういたしまして?」
「まあ、助力などしてやるつもりはないがな」
だろうな。
「一応聞いておく。理由は?」
「興味が湧かないから」
それだけで十二分になるほど、彼女にとっては「レイヴン・スレイアブル」という存在には価値など感じていないようだった。
別にいいさ。
敵対などしてくれない限りは、機会は必ず作り出すのだから。
そこで、甲高い声が響き渡る。
「…………えと、わたしはっ!」
声の主――セレスタはもじもじと指先を絡めていた。
「何だよ……」
「わ、わたしは賃金と、待遇次第……ですかね」
「もちろんやるさ。しかも前金でな」
「え、いいんですか!?」
飛びつきすぎだろ。
「しかもノルヴィンでの貨幣の価値は、お前のいたエルドリッジのベルカのそれとは段違いに高い」
「え!?」
国境を超えて様々な商人が行き交うこの自由都市においては、様々な通貨が飛び交う。
しかし中でも、ノルヴィン印のある貨幣だけはどこにおいても使える。
当然、その価値は他とは違ってくる。
俺はさっとデスクから電卓を取り出し、計算する。
「聞いて驚け。ベルカでいうと、ざっとこれくらいだ」
「え、え!? そんな、そんなのって!?」
良い反応じゃないか。
こんなので優位を感じる俺も相当ダサいような気がするが、そこは気にしない。
「わたしの生涯年収よりも、余裕で多い……」
しかし直後に、セレスタは首を横にぶんぶんと振る。
「でもでも! そうやって最初だけ羽振りよくしておいて、その後は奴隷のように閉じ込められて働かされるんでしょっ! わたし、もう騙されませんからね!」
「万が一そうだったとしても逃げろよそんなとこ……」
「そんなの無責任じゃないですか……。せっかくわたしを雇用してくださった方々に迷惑が掛かりますし、一身上の都合で仕事を辞めるなんて、人としてどうかと思います……」
いやそれっぽいこと言ってるけど、そもそもその雇用主が労働に関する倫理も法を犯しまくってるからね?
なんでそんな部分だけ真面目なんだ。
そんなんだから散々利用されるんだぞ?
ま、俺も利用するんだけど。
さて、一通り話が付くには、最後の難関が待っている。
「──なんじゃ外道?」
俺は、一際小さなお姫様に視線を合わせる。
なんてことはせず、見下ろす形で対峙する。
「頭が高いのではないか?」
「ならお前様に合わせて、頑張って頭下げた方がよろしいでしょうか~~?」
再び、空気が張り詰める。
いや、先のまだ慈愛が欠片ほど含まれていたそれとは格が違う。
おおよそ、十二歳の少女の風格ではない。
身についた所作や、言葉遣いといったチンケなものじゃない。
確かな覚悟を秘めた、曇りのない瞳の輝きだ。
「ふん、まあよいわ」
緊張から一転、空気が弛緩する。
「どういう」
「貴様の覚悟がいったいどれほどのものか。精々踊り、空虚な中身を欺いてみるといいぞ」
「…………」
俺が返す言葉を失う一瞬。
ユイが割り込んで、場を取り持つ。
「で、ではみなさん! とりあえずは様子見ということでよろしい感じ……でしょうか?」
反論は上がらなかった。
もっとも反意があるのは変わらないだろうが。
ひとまず、最悪の事態になることは避けられた。
正直、内心ではバクバクに心臓が跳ねている。
ここで一人でも俺に矛を向けるようなことがあれば、俺の物語は終わってしまっていただろう。
いや、始まってすらいないのだ。
死者を蘇らせ、それを使役して混沌とする世界に巨悪として君臨する。
計画はもはや、瓦解寸前だった。
それでも、俺は進まなければならない。
どれだけ歪でも、やり遂げなければならない。
物語を始めるために、まずはこの難局を乗り越えなければならない。
計画を立て直す。
その算段は付いた。
最初にして、最大のハードなこの局面を乗り越えるために――
まずはこいつらに、遠回りをしてもらうとしようか。
剥き出しの邪悪を前に、静寂が流れる。
世界を翻弄する道化が見据える終着点だ。
さすがに、響いちまった――か?
なんて耽っていると。
「……ああ、そう」
呆れたような返答が、返ってきただけだった。
「え、そんだけ?」
「君の魔術には興味があるが、君自身の為すことには何の興味も湧かないからな」
リウムも続いて首肯する。
「また……またわたしはこんな外道にいいように使われるんですね、それも最低賃金で……」
セレスタに関しては、未だにそれどころじゃない部分に引っかかっているようだ。
「道化も自己主張が過ぎると、甚だ不快よのう」
ヴィネットに至ってはただただドン引きされていた。
「くう……お前ら……」
むしろ俺を前に、少しだけ団結してるまであるのではないだろうか。
はは……これぞ道化キャラ……なんてな。
そこで、中々話についていけてない、というか話を振ることすら避けていた白髪の少年が口を開いた。
「ボクもその、そういう悪いことは……止めたほうがいいんじゃないかなって」
純粋で、素直な意見だ。
だからこそ、その無垢な言葉は俺を傷つける。
目頭が熱くなるのを感じる。
「え? だ、だいじょうぶ?」
「何が? 別になんともない。というか何の戦力にもならないお前が俺の心配なんかしてんじゃねえ」
「なんでボクだけそんなあたり強いの!?」
一人だけ優位性取れそうだから、というのは置いておくとして。
ある意味で、特別な存在だからだろうな。
当然、本人を前に口にすることはないが。
「はあ……まあいいわ。とりあえずは生かしておいて上げる」
「へ?」
そこで、フレイアは殺気の込もった瞳を閉じる。
要するに、俺へと向けていた矛先を収めたのだ。
どういう了見だ?
「とりあえずと言ったでしょう。別にあんたの罪を許すわけではない。ただ、今の世界を知らないあたしもまだ、あんたを裁く権利なんてないのも事実でしょうから。罪を審議するのは、それからでも遅くないでしょう」
「マジか! やっさしい!」
「殺すわよ」
「生かすって言ったじゃん!?」
一番槍を担ってくれている(というか真っ先に食って掛かる)フレイアが、この選択は大きい。
安堵している俺に対し、フレイアは再び、その全てを焼き尽くすほどの灰の瞳を開く。
「けれど、力は貸さない。あんたの思い通りには、絶対にならない」
「はっ。それでいいさ」
「あんたはいつか必ず、報いを受ける。相応の罰が下るでしょうね」
……そんなもん、わかってるさ。
俺の願いが叶うなら、とびきりの罰を与えて欲しい。
いつも、いつも願ってばかりだな、俺は。
だから、亡くすんだ。
大切な人を、かけがえのない親友を。
いや、切り替えろ。
とりあえず、最初の急場はしのいだ。
今はただ、道化を演じ続けるんだ。
とにかく騙し続けろ、折れるな、やり遂げてみせろ。
弛緩していく空気に、俺はやっと一息つくことができた。
「次に、お前はどうする?」
だらりと半身を椅子に預けているリウムに声を掛けると、彼女はぐったりとしたまま答える。
「私は別に気にしてない。というか、感謝すらしてるくらいだよ」
「なんだと?」
……なんだと?
言葉と内心が一致した。
リウムは半眼のままこちらを見やる。
「こうして俗世とまた関わりが持てたんだ。まだまだ知りたいことも、やりたいこともたくさんあるさ」
「そりゃあ、どういたしまして?」
「まあ、助力などしてやるつもりはないがな」
だろうな。
「一応聞いておく。理由は?」
「興味が湧かないから」
それだけで十二分になるほど、彼女にとっては「レイヴン・スレイアブル」という存在には価値など感じていないようだった。
別にいいさ。
敵対などしてくれない限りは、機会は必ず作り出すのだから。
そこで、甲高い声が響き渡る。
「…………えと、わたしはっ!」
声の主――セレスタはもじもじと指先を絡めていた。
「何だよ……」
「わ、わたしは賃金と、待遇次第……ですかね」
「もちろんやるさ。しかも前金でな」
「え、いいんですか!?」
飛びつきすぎだろ。
「しかもノルヴィンでの貨幣の価値は、お前のいたエルドリッジのベルカのそれとは段違いに高い」
「え!?」
国境を超えて様々な商人が行き交うこの自由都市においては、様々な通貨が飛び交う。
しかし中でも、ノルヴィン印のある貨幣だけはどこにおいても使える。
当然、その価値は他とは違ってくる。
俺はさっとデスクから電卓を取り出し、計算する。
「聞いて驚け。ベルカでいうと、ざっとこれくらいだ」
「え、え!? そんな、そんなのって!?」
良い反応じゃないか。
こんなので優位を感じる俺も相当ダサいような気がするが、そこは気にしない。
「わたしの生涯年収よりも、余裕で多い……」
しかし直後に、セレスタは首を横にぶんぶんと振る。
「でもでも! そうやって最初だけ羽振りよくしておいて、その後は奴隷のように閉じ込められて働かされるんでしょっ! わたし、もう騙されませんからね!」
「万が一そうだったとしても逃げろよそんなとこ……」
「そんなの無責任じゃないですか……。せっかくわたしを雇用してくださった方々に迷惑が掛かりますし、一身上の都合で仕事を辞めるなんて、人としてどうかと思います……」
いやそれっぽいこと言ってるけど、そもそもその雇用主が労働に関する倫理も法を犯しまくってるからね?
なんでそんな部分だけ真面目なんだ。
そんなんだから散々利用されるんだぞ?
ま、俺も利用するんだけど。
さて、一通り話が付くには、最後の難関が待っている。
「──なんじゃ外道?」
俺は、一際小さなお姫様に視線を合わせる。
なんてことはせず、見下ろす形で対峙する。
「頭が高いのではないか?」
「ならお前様に合わせて、頑張って頭下げた方がよろしいでしょうか~~?」
再び、空気が張り詰める。
いや、先のまだ慈愛が欠片ほど含まれていたそれとは格が違う。
おおよそ、十二歳の少女の風格ではない。
身についた所作や、言葉遣いといったチンケなものじゃない。
確かな覚悟を秘めた、曇りのない瞳の輝きだ。
「ふん、まあよいわ」
緊張から一転、空気が弛緩する。
「どういう」
「貴様の覚悟がいったいどれほどのものか。精々踊り、空虚な中身を欺いてみるといいぞ」
「…………」
俺が返す言葉を失う一瞬。
ユイが割り込んで、場を取り持つ。
「で、ではみなさん! とりあえずは様子見ということでよろしい感じ……でしょうか?」
反論は上がらなかった。
もっとも反意があるのは変わらないだろうが。
ひとまず、最悪の事態になることは避けられた。
正直、内心ではバクバクに心臓が跳ねている。
ここで一人でも俺に矛を向けるようなことがあれば、俺の物語は終わってしまっていただろう。
いや、始まってすらいないのだ。
死者を蘇らせ、それを使役して混沌とする世界に巨悪として君臨する。
計画はもはや、瓦解寸前だった。
それでも、俺は進まなければならない。
どれだけ歪でも、やり遂げなければならない。
物語を始めるために、まずはこの難局を乗り越えなければならない。
計画を立て直す。
その算段は付いた。
最初にして、最大のハードなこの局面を乗り越えるために――
まずはこいつらに、遠回りをしてもらうとしようか。
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