使いっパシリのゾルゲさん

ゴエモン

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3パシリ ゾルゲさんのお小遣い稼ぎ

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 さてさて、吾輩の小遣い君達はそちらかな?

 シャンディから離れた森の中。ここは人の足で目指せば朝に街を出ると着く頃には日が沈みかけるくらいの距離にある森。様々な魔物や野生動物達が住み着く深く広大な範囲の森だ。時にはここから群れをなして近隣の民家や家畜を襲うことから、一般の人間が足を踏み入れることはまずなく、木々は鬱蒼と生い茂り、外の世界とは隔絶されたまさに異界と呼んでも差し支えない空間であった。
 聞き慣れない野鳥の鳴き声や、猿か狼かどこぞで吠える声はゾルゲを警戒しているのか、次第に大きくなっては、徐々に消えていく。少しずつ距離をとっているのだろう。陽射しはまだ高いが森の中のに差し込む光量は少なく、景色は藪に覆われお世辞にも見晴らしは宜しくない。パラソルの持ち手を抜くと、抜身は仕込みの剣になっており、藪を払いながら歩みを進めていく。
 ふと立ち止まるとそこにはまだ払っていないのに、藪がぽかりと空いた空間。下草が踏み折られ少々大きめな獣道となっている道を進むと、眼の前には雑に木で組まれ葉っぱや藁で屋根が造られた小屋がそこかしこに。近くに小川も流れていた。
 なるほどここかと、仕込みをパラソルにしまい、その小さな集落に無警戒に進むと、ゾルゲに気付いたのか豚鬼が石器のついた槍持って取り囲む。その数十匹。ブヒブヒフゴゴと大きな鳴き声でこちらを威嚇しているようだ。すぐに飛びかかってこないところをみると、様子を伺う知恵くらいはある。


 この中に長はいるのか? と語りかけるそれは言葉ではなく魔力によって豚鬼達の脳内に直接流していた。ブヒブヒフゴゴとあちこち頭をぶんぶん振っているのは、 “いない” という否定の意味ではなく、 “どこから声が?” という狼狽えであろう。
 少し様子を見ていると、一番最初に我を取り戻した豚鬼がゾルゲに槍を向けたまま近づく。どうやらこの豚が長のようだ。

「人間達が貴様らの数十倍の戦力でここを攻めてくるぞ。皆殺しになりたくなかったら左の牙を一本づつ吾輩に差し出せ。そうすればここの事は黙っておいてやる」

 ブヒブヒフゴゴと豚達は一斉に鳴き出し、その勢いはどんどん増していく。

「貴様らの勢力が今の百倍になるまで人間には手を出すな。ここは人間の都市に近い。もっと森の奥に引っ込むか、住処を代えるかするんだな」

 豚達の声は次第にゾルゲに向くようになり、鳴き声から喚き声へと荒くなっていく。

「ん? なるほど、森の奥に見たこともない怪物が? 面白い。片付けてきてやるから、その後に牙をよこせ。悪いようにはせん」

 『晴れたら空飛ぶ日傘術【フライングパラソル】』

 パラソルを頭上に開くと、スゥと糸に釣られるように上空に浮かんでいくのであった。それをみた豚鬼達は目を見開いてブヒブヒフゴゴと、大きな鳴き声をあげるのだった。
 優雅に上空に上がったものの、森を抜けるころには、身体のあちこちに木くずや細かな種子、葉っぱや蜘蛛の巣が纏わりつき、払っても払っても落ちないアレコレに少し後悔しながら豚鬼達が言っていたであろう森の奥を目指してフワフワと飛んで行く。
 
 見たこともない魔物か───おおかた魔族領から迷い込んだ亜竜の類いだろう。

 そんな事はよくあった。ゾルゲが今まで受けた依頼にも、何件か似たようなのがある。亜竜は幼体の頃は大きいトカゲぐらいのサイズであり、川や海をはじめ夜であれば人間の関を超えて侵入した後に、馬車よりも大きく成長し人間領で暴れることはよくある。他にも妖鳥や飛竜など人間界で発見されれば、大騒ぎになることは珍しくなかった。それに人間界領域にも少なからず魔族が隠れ住んでいるのも確認済みだ。この者達は捕虜から逃げたものや逃亡兵だった者が主だっている。それを発見したからといってゾルゲは魔族にも人間界にも報告することはなかった。金になるならば交渉するし、歯向かってくるならば容赦なく片付けた。
 と、警戒しながら飛んでいると、今まで感じたことのない波動が、その鉤鼻と鋭く尖った耳にかかる。

 今までにない──いや、昔、昔のはるか昔、これと同じような波動をどこかで……あそこか。

 見下ろすとそこには川が流れ数メートル程の落差がある滝の付近になにやら禍々しい波動を放つポイントがある。パラソルを操り側に降り立ち気配を殺して進むと、轟々と流れる川の畔に立っていたのは、いや、立つという表現が正しいのか鎮座とも違う。その者? その物? その存在は、その場にあった。

 金切り声とも叫び声とも呻き声とも泣き声ともあえぎ声とも呼べない声。音? 音というには不自然で、人工的というには超常的に自然的で、どうやったらこんな音が出るのか? と頭を傾げたくほど余裕はなく、極めて不快で、心を乱し、近づくことさえもそれは拷問に近く、匂いはしないが鼻が曲がりそうなほど鼻孔を貫き、見ようとすれば目は激しく痛み、それでも見ようとすれば耐えがたい頭痛が脳を蝕むというのに、灰、紺、黒、白、赤褐、深緑、言葉にすればそこまででもないが、その目まぐるしく変わる色は目を捉えてはなさない。その存在は幌馬車程には大きくなく、屋台の店よりは少し大きいくらいのナニかであった。ナニか、は蠢き脈動するたび、辺りに体液のようなものを吹き出し、その液体が触れたものを極彩色に染め上げたあとに灰に変えていた。周りの木々は立ち枯れたままその形を変えて、ナニかを包むように成長? 広がっていた。 川の水はもう、固まる前のコンクリートを虹色に染めたように、これもまた極彩色にテラテラと陽の光を反射する。流れはあるが、下流の方ではまだ報告がないからこの辺りだけなのかもしれない。そんな異常なことはあるのか? 魔物魍魎悪魔邪霊がひしめく魔界であっても、あの世界はあの世界の秩序とルールにしたがった法則がある。果たしてこれほど混沌としたナニかは今まであっただろうか。


 ほっほう、これはこれは驚きましたね。昔、昔の同期の桜───おっと桜はあなたには通じないですかね───竹馬の友としておきましょうかね。お久しぶりです───
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